写真集に刻まれた、もがきながらも進んだ“道のり”

2024年5月から約1年、4人のカメラマンが俳優・中沢元紀の変容を克明に記録したファースト写真集『ルート』(10月1日発売/ワニブックス)。中沢自身、この1年を「とにかく充実した時間だった」と振り返った時期に撮影された写真からは「自分でも驚くぐらい変化が感じられた」と語る。そんな中沢が、劇的な変化の背景にあり、俳優人生の大きな転機となったという連続テレビ小説『あんぱん』で演じた千尋という役について、さらには俳優を目指すきっかけとなった小栗旬の存在など、熱い胸の内を明かした。


完成した写真集には、激動の1年を過ごした中沢元紀のさまざまな姿が刻まれている。そこに写るのは、紛れもない自分自身の姿だが、撮影が始まったばかりの頃の写真と、最後のカットでは、纏う空気そのものが違う。中沢自身、その変化に驚きを覚えた1人だった。

「周りの方からは『顔が変わった』と言っていただいていたのですが、自分ではあまり自覚することがなかったんです。でも、こうして1冊になった時に見て、時の流れというか、その時期にやっていた役として生きた表情、纏っている空気感が全然違ったので、自分で見ても結構衝撃でした」

その変化は、中沢にとって確かな成長の証だった。どこか探るような眼差しが、次第に覚悟を決めた力強い光を宿していく。それは、中沢がこの1年、いかに大きなものと向き合ってきたかを物語っていた。

「解釈があっているか分かりませんが、大きな作品に携わらせていただいて、もまれながらも頑張っているような……自分で言うのもなんですけれど、そんな感じの雰囲気が表情からも出ていたなと思いました」。

数あるカットの中でも、特に心を掴まれた1枚があるという。それは、雪が舞う冬の駅で佇む、どこか映画のワンシーンのようなカットだ。

「本当に全季節、毎カットお気に入りの写真はあるのですが、その中でも冬の駅のカットが好きで。雪も降ってきて、ちゃんとその雪の粒も写真として映っていますし、なんかその1枚だけでも結構ストーリーが思い浮かぶようなカットになっているので、お気に入りです」。


撮影は故郷・茨城でも行われた。小学生の頃に住んでいた町、よく遊んだ公園、家族で通ったパン屋。記憶の中の景色に現在の自分が立つことで、ノスタルジックな感情が込み上げてきた。

「『この道こんなに狭かったっけ』とか。小さい頃の記憶のまんまの場所に今の自分が行ってみて、やっぱり成長しているんだと思ったり、エモいっていう気持ちになりました。友達や兄弟と遊んだ思い出が蘇ってきました」。

写真集のタイトルは『ルート』。愛猫の名前であり、この1年の“道のり”でもあり、そして自身の俳優としての“根っこ”を意味する。そのトリプルミーニングを持つタイトルは、スタッフとの会話の中で即決だったという。まさにこの1冊は、中沢元紀という俳優の現在地と原点をつなぐ、かけがえのない記録となっている。

千尋の精神が自身の一部に「千尋だったら…と考える時も」

中沢の表情を劇的に変えたもの。その核心には、連続テレビ小説『あんぱん』で生きた、千尋という人物の存在があった。撮影期間も長く、全身全霊で向き合ったこの役は、中沢の俳優人生において忘れられないという。


「本当に大きな出会いだったと思います。この先いろいろな作品をやったとしても、絶対に色濃く残っている役であり、作品です。役者としての考え方とか、そういうのも共演者の皆さんから得るものがあった現場だったので、千尋との出会いは本当に大きかったです」

この写真集のために行われたロングインタビューは、『あんぱん』の撮影を挟む形で行われた。そのため、撮影前と後で、彼の言葉の熱量や役者としての意識が明らかに変化しているのがわかる。それこそが、彼が現場でもまれてきた何よりの証拠だ。

「第一線で活躍されている先輩方とお芝居している中で、自分の中でも役者としての気持ちの面が変わったなと感じていました。もっと活躍したいという気持ちもどんどんどんどん大きくなっていますし、同学年に負けたくないという気持ちも増えてきています。いろんな感情になった1年だったからこそ顔も変わってきたんだろうなって。そういう意味でも『ルート』、道のりっていう意味を、読んでくださる方に感じていただけるんじゃないかなと思っています」

千尋という役は、もはや彼の一部となっている。その生き様は、中沢自身にとっての指針にもなった。

「千尋の精神というか、性格が自分の中に多分投影されていって、『千尋だったらどうするかな』とか考える時も実際ありますし、千尋みたいなかっこいい男になりたいなという思いもあります」

憧れのその先へ。小栗旬の背中を追い、いつか超えるために

すべての物語には始まりがある。
中沢元紀が「俳優」という道を志した原点。それは、1人の俳優への強烈な憧れだった。その人物こそ所属事務所の先輩俳優であり社長の小栗旬だ。現在所属している事務所に自ら履歴書を送りレッスン生になったのも、小栗が所属している事務所だったから。レッスン生として先の見えない不安な日々を過ごしていた頃も、中沢の心を支え続けたのは、スクリーンの中で圧倒的な輝きを放つ小栗の姿だった。

「小栗さんに憧れて事務所に履歴書を出しているので。本当につらい状況の中でも、ドラマとか映画を見ていて『やっぱりこういう存在になりたいな』っていう気持ちは大きかった。そこが変わらなかったので、今やっていることをちゃんと信じてやろうということを肝に銘じていました」。

そんな憧れの存在が、『あんぱん』の撮影現場に現れた。それは、中沢にとって奇跡のような出来事だった。「本当にびっくりしました。憧れの人が現場に来て、クランクアップを見届けてくださるっていうのが、本当に、本当にすごいことだと思うんです……」。


その言葉に続く思いは、もはや単なる憧憬ではない。明確な目標、そして覚悟だ。

「憧れてしまったからには、近づきたいし、いつになるか分からないですけど抜かしたい。それが恩返しにもなると思うので」。

その揺るぎない決意の根底には、レッスン生時代に書き続けたノートの存在がある。未来への焦りと不安の中でもがきながらも、「貪欲」という言葉を何度も記し、自らを奮い立たせた日々。その精神は今も彼の核として息づいている。

「『貪欲』という言葉を多く使っていて。その精神は今でも忘れちゃいけないものだなとは思いますし、役者は満足したら終わりだと思っているので。そういう意味でも貪欲さを忘れずに、一つの作品に対しても役に対しても掘り下げていきたいなっていう気持ちは、今でも変わらずあるし、忘れたくない言葉だなとは思います」。

『あんぱん』という憧れであった連続テレビ小説という大きな航海を終え、一つの確かな自信を手に入れた中沢。ファースト写真集『ルート』は、中沢の俳優人生第一章の集大成であり、これから始まる新たな道のりのプロローグだ。
憧れの大きな背中を見据え、いつかそれを超えるために――中沢の“ルート”は、まだ始まったばかりだ。

■中沢元紀
2000年2月20日生まれ、茨城県出身。2022年、WEB CMドラマ『メゾンハーゲンダッツ ~8つのしあわせストーリー~」で俳優デビュー。2023年10月期のTBS系日曜劇場『下剋上球児』でエースピッチャー・犬塚翔を演じ注目を集めた。そのほかの主な出演作は、ドラマ『ナンバMG5』(22/フジテレビ)、『埼玉のホスト』(23/TBS)、『366日』(24/フジテレビ)、『ひだまりが聴こえる』(24/テレビ東京)、『あんぱん』(25)、『最後の鑑定人』(25/フジテレビ)、映画『沈黙の艦隊』(23)、『さよならモノトーン』(23)、『ファストブレイク』(24)など。連続ドラマW-30「ストロボ・エッジ Season1」10月31日放送・配信スタート、映画『君の顔では泣けない』が11月14日公開、『WIND BREAKER / ウィンドブレイカー』が12月5日公開。

ヘアメイク:速水昭仁 スタイリスト:田中トモコ 衣装協力:CULLNI、ロックポート
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