北海道・当別町にある道民の森・神居尻地区の「ほくでん北森カレッジ 共創の森」で9月26日、ほくでんグループ社員と北海道立北の森づくり専門学院(北森カレッジ)の生徒による植樹・育樹活動と勉強会が行われた。

○■ほくでんグループが取り組む理由

北海道電力創立70周年の2021年から始まった活動も今年で5回目。
約3haの牧場跡地を森林に戻すため、最初の5年は植樹6,000本と育樹を並行して実施し、後半の5年は育樹だけに専念するという10年に及ぶ計画が、前半の最終年を迎えた。昨年までに2.45ha、4,900本の植樹を終えており、この日は残りの0.55haに、シラカバ、キハダ、アカエゾマツなど、1,100本の苗木を植樹した。

この植樹が始まったころ、地球規模で唱和され始めた言葉が“カーボンニュートラル”である。カーボンニュートラルとは、地球温暖化にストップをかける目的で、二酸化炭素など温室効果ガスを多く排出する石炭・石油・天然ガスといった化石燃料を使う活動を削減、同時に炭素を吸収する働きのある植物を増やすことで、地球上の炭素の排出と吸収の均衡(カーボンニュートラル)を保つというもの。

2020年には、当時の菅義偉首相が所信表明演説で「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言。歩調を合わせるように、ほくでんグループでも2050年の北海道における「エネルギー全体のカーボンニュートラル」の実現に挑むことを決めた。再生可能エネルギー導入拡大や電源の脱炭素化、ヒートポンプ機器の普及拡大などを図りながら、植樹といった炭素の吸収に関わる活動も継続することで、脱炭素社会の実現に貢献していくという。

ほくでんグループは、再生可能エネルギーの導入拡大や水素の利活用などを積極的に進めることと同様、森林再生につながる植樹を行うことも、カーボンニュートラル実現のための重要な取り組みの一つであると考えている。

北森カレッジについては「これからの林業を支えていく生徒の皆さんを教育されている機関です。一緒に活動を続けていく中で、大切な人材を育成するお役にも立ちたいという思いもあります」と土田氏。

「今回で植樹の活動が一区切りとなり、今後は育樹に力を入れていくことになります。植えるだけでしたらこうして(ほくでんグループ社員の)私たちもできますが、実際には鹿に食べられてしまったり、自然と枯れてしまったりといったこともあります。
これからの活動では、今までよりもっと北森カレッジさんの力やノウハウをお借りしていくことになると思います」(土田氏)

成沢氏は、本取り組みについて「直接的には林業と関わりのない企業の方々が、普段から林業に特化して学ぶ学生と一緒に森づくりの作業に取り組んでいただけることは、学生たちにとっても貴重な経験です」と話す。

「育樹が中心となる来年からも“共創の森”の名前のとおり、ほくでんグループの皆様と相談しながら作業を進めていくことになると思います。ただ、ある意味行事としての植樹というステージは一段落しましたので、次の育てるステージでは、本物の森づくりに向けてどんなことができるのかという部分を、学生にも意見を出してもらいながら進めていきたいと思います。もちろん10年でうっそうとした山林になるわけではありませんが、植樹をしたほくでんグループの社員さんや学生たちが、次の世代の家族と一緒に、この山を楽しめるようになるといいですね」(成沢氏)
○■前半5年間の集大成となる植樹作業

開会式の予定時刻が迫り、ほくでんグループ社員50人と北森カレッジの教員・学生に北海道庁の職員を加えた約30人が、バスや自家用車で植樹地に集まってきた。作業服に長靴姿のメンバーがそれぞれの乗り物から降車し、開会式が始まると、それまで細かく降っていった雨粒が一気に大きくなり、植樹が予定される区画の地面は、あっという間に水浸しに。

レインコートを慌てて羽織った参加者たちは、長靴を湿った土に少しだけ沈めながら、前半5年間の集大成の作業にあたった。一人がスコップで穴を掘り、もう一人が苗木を埋め、印のリボンを枝にくくりつける。雨でぬかるみ、30cm大の石も顔をのぞかせる土壌の作業は決して楽ではないが、ほくでんグループ社員も学生・教員も時折笑顔を見せながら、約1時間半にわたって汗を流し続けた。

植樹イベントのために万全の調整をしてきたという北海道電力 経営企画室 IRグループの板垣成栄氏。

植樹作業を終えて感想を聞いたところ、「実際に土を掘ってみると硬い石があってなかなか進まなかったり、普段なかなかしない動きをしたりして、思っていたより大変でした。中学時代まではスピードスケートで(バンクーバー五輪に出場した)土井槙悟さんと同じ大会に出場したようなことはありましたが、久々の運動で、少し週明けの仕事が心配です。札幌からここ(共創の森)に来る途中で見えた林が綺麗でしたので、ここも同じようになるとうれしいですね。
鳥や鹿などの動物が行き交う森になって、10年後か20年後に、自分が見に来られるような機会があったら素晴らしいと思います」と語った。

○■「共創の森」を豊かな森へ

植樹を終えた参加者たちは、再びバスや乗用車に乗り込み、午後の部の会場となるセミナーハウスに向かった。昼食を摂りながら歓談のひと時を過ごすと、ほくでんグループ社員と北森カレッジ学生による勉強会が始まった。

最初にプレゼンテーションを行ったのは、北海道電力の総務・環境部で環境推進グループリーダーを務める木下浩司氏。2021年の植樹事業開始からこの日までの活動経緯や目的を振り返るとともに、植樹した樹木の現状について説明した。ヤチダモやオヒョウの生存率が75%に達する一方で、キハダは16%、マカバに至っては3%と大きく減少し、全体の生存率は約40%であることが紹介された。

木下氏は、「5年後も半数ぐらいは生存していてほしい」と、期待を口にした。現状に対して学生からは「コストがかかっても、苗の生存率を上げるためにコンテナ(苗を育てる容器)を使ってみてはどうか」といった提案が出された。

続いて、学生の工藤優希さん、佐々木龍一さんが、「北森カレッジで学んだこと」と題したプレゼンテーションを実施。副生徒会長で、将来はチェーンソーで樹木を伐採する伐倒手を目指す工藤さんは、カレッジの授業に実習が多いことを紹介。「私はまだ伐倒(木を倒す)方向が正確ではありませんので、もっと練習し、詰めが甘い作業にならないようにしていきたい」と決意を語った。

大学を卒業後に北森カレッジに入学し、今後研究者の道を模索する佐々木さんは、「林業は常に危険と隣り合わせの仕事ですが、森の中の仕事は楽しいですし、安らぎにもなります。
人が森に手を加えることによって、森にとっても良いことがたくさんあること、森に入ることは大きな責任を伴うことなどを学べています」と、カレッジで学ぶ意義を強調。2人の発表に対しては、ほくでんグループの社員から「卒業後の目標」などの質問が出され、それぞれが丁寧に自分の思いを返した。

閉会式では北海道電力 総務・環境部長の木下範彰氏が挨拶。「共創の森を豊かな森に育てるにあたっては、これが将来の環境保全につながるという共通認識を持って、北森カレッジ様とほくでんグループが知恵と力を合わせて取り組む必要があります。引き続き活動のご提案を含め、ご協力をお願いします」と、カレッジの学生・職員に向けて、共創継続を呼びかけた。

四半世紀後のカーボンニュートラルな環境の実現に向け、両者の協力関係は一層強まっていくに違いない。
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