女優の吉永小百合が主演を務める映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』(10月31日公開)の阪本順治監督が制作秘話を語るインタビューが到着した。
『てっぺんの向こうにあなたがいる』は、「女性だけで海外遠征を」を合言葉に結成されたエベレスト(ネパール名でサガルマータ、中国名でチョモランマ)日本女子登山隊の副隊長として知られる女性登山家・田部井淳子氏の実話を基にした作品。
主人公・多部純子(田部井淳子氏がモデル)を演じるのは今作で映画出演124本目となる、女優の吉永小百合。純子を支える夫・正明を演じるのは数々の映画賞を受賞している名優、佐藤浩市。純子の盟友であり、エベレスト登頂の相棒でもある北山悦子役には、吉永と映画『最高の人生 の見つけ方』以来、5年ぶりのタッグとなる天海祐希。青年期の純子役はアーティスト活動から俳優活動まで多方面で活躍しているのん。さらに、木村文乃、若葉竜也、工藤阿須加、茅島みずきらがキャスティングされており、険しい高峰へ向けて実力派の俳優たちが揃った「パーティー」となった。
本作は、第73回サン・セバスチャン国際映画祭で特別上映が行われ、10月27日に開催となる第38回東京国際映画祭のオープニング作品に選出されている。
そんな中、阪本順治監督の制作秘話を明かしたインタビューが届いた。
――富士山への登山は初のチャレンジだったとお伺いしましたが、事前にどのような準備をされましたか。
夏になると富士登山のニュースが取り上げられて、多くの人が登っている様子が報じられているので、自分も大丈夫だろうと思っていました。ただ、『エルネスト』の準備段階で、富士山より高いボリビアのラパスを訪れた際、高山病になったことがあるのと、年齢的な体力の不安もあったので、スクワットを朝・昼・夜で計400回位やるようにしました。2年前に富士山に初めてチャレンジした時には、足腰ではなく、呼吸が苦しくなってしまい八合目で断念しました。その後、呼吸法、登山靴の選び方や、重心の取り方などを勉強して、さらに田部井淳子さんの息子さんである進也さんたちに励ましてもらいながら、頂上からの景色を無事に撮ることができました。
――山での撮影は、色々と配慮しなければならないところがあったと思いますが、どのような点に気を付けられましたか?
まずルールとして、登山をされている方の邪魔をしてはいけない。皆さん自分のリズムで登られているので、撮影を理由に制するなど邪魔をしないことが前提にあります。そして、僕自身も含めて山という環境に慣れていないキャスト・スタッフの方も大勢いらっしゃるので、慣れない環境でケガや病気などにならないように気を配るのがプロデューサー陣と私の仕事だと思いました。座長の吉永小百合さんに対してもそうですし、吉永さん自身にもそういう気持ちで臨んでいただいたと思います。機材の運搬に関してはブルドーザーで運ぶという方法もあったのですが、カメラなどの精密機材が振動に耐えられない可能性も考慮し、結局スタッフが背負って運搬しました。機材と共に山小屋に宿泊するスタッフは風呂無しの環境で過酷だったと思います。閉山後の富士山は気温もぐんと下がるので、全員登れるかというより、全員無事に下山出来るかということに気を配りました。下りるときの方が油断しがちなので。また、富士山撮影に参加する人たちは、低酸素室での高度順応テストを受けて臨みました。高山病になったときの呼吸法なども学んだ上での撮影でしたね。
――脚本は坂口理子さんが手がけられていますが、原案のある作品で気を付けられた点はありますか?
坂口さんはご夫婦で登山家なので、専門用語など教えていただく部分も多くありました。田部井淳子さんの人生を2時間に収めるということで、ご本人の直筆資料なども踏まえて、女性世界初のエベレスト登頂という偉業だけでなく、その背後にあった苦悩や軋轢も描こうと決めましたが、実在する人の話なので、誰も傷つけることのないようにもしたい。
――青年期である過去パートと現代パートがありますが、撮影の手法など意識された点はありましたか。
方法論としては、過去パートをセピアにするとか粒子感を変えるなどはあると思うのですが、そのようなことはやめようとなり、地続きの物語なので過去にあった話で終わりではなく、あえて分割した感じは出さないようにしました。吉永さん、のんさんは同じキャラクターを演じるということで、田部井淳子さんの気質のなかからヒントになる言葉をお二人にお伝えして、共通した意識で演じてもらえるようにしました。現代パートの撮影が先だったので、参考になるようにのんさんには吉永さんが純子を演じている様子を、工藤さんには佐藤さんが正明を演じている様子を見ていただき、それぞれのキャラクターを実感しながら演じてもらいました。田部井進也さんには富士山や立山など、山の撮影に山岳アドバイザーとして参加いただいたのですが、吉永小百合さん演じる多部純子に「母を感じました」と仰っていただきました。実在の人物・エピソードを基にしながらもフィクションであるということに理解をいただいたうえで「あとは託します」と言っていただけたので、大変有難かったです。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
【編集部MEMO】
本作は、女性登山家である田部井淳子氏が執筆した『人生、山あり“時々”谷あり』をベースにしている。1975年にエベレストの女性世界初登頂に成功。その後も挑戦は続き、生涯で76カ国の最高峰・最高地点の登頂に成功している。映画では実話と、前出の著作を基に、エベレスト女性初登頂から、晩年の闘病、余命宣告を受けながらも亡くなる直前まで山に登り続けた姿を描いている。