妻夫木聡が主演を務める映画『宝島』(公開中)の主要キャストが集結し、撮影の舞台裏を語りあうスペシャル映像がYouTubeにて公開となった。

戦後沖縄を舞台に、歴史の陰に埋もれた真実を描く真藤順丈氏による小説『宝島』。
第160回直木賞をはじめ、第9回山田風太郎賞、第5回沖縄書店大賞を受賞するなど3冠に輝いた本作が、東映とソニー・ピクチャーズの共同配給によって実写映画化された。監督は様々なジャンルや題材を通して常に新たな挑戦を続ける大友啓史。主演には妻夫木聡を迎え、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太ら日本映画界を牽引する豪華俳優陣が集結し、誰も見たことがないアメリカ統治下の沖縄を舞台に、混沌とした時代を全力で駆け抜けた若者たちの姿を圧倒的熱量と壮大なスケールで描く。

10月2日、全国キャラバンが遂に30エリアに到達し、新宿バルト 9で行われた舞台挨拶に妻夫木、大友啓史監督、原作者の真藤順丈氏が登壇した。400人を超える観客の前に3人が登場すると、場内から万雷の拍手が送られた。集まった報道陣からの眩いフラッシュとともに、観客らの確かな熱を受け取った妻夫木は感無量の様子で「こうして映画が公開しても、なお皆さんの前に立てることが幸せ。公開を迎えてようやく始まった気もするし、『宝島』と手と手を取り合ってどこまでも歩いていきたい気持ちです」と挨拶。大友監督、真藤氏とともに感謝を述べた。

「今まで見たことのない沖縄を映像にしてくれて感謝の気持ちです。今もあちこちで戦争は起きていますが、この映画が伝えたいのは『生きる力』なのではと思いました。子供たちにも伝えていきたいし、『平和に向かっていく心を育てる映画』だと思いました」など、現地から寄せられた感想コメントが紹介されると、場内は温かい拍手に包まれ、妻夫木も「こうして、沖縄の人たちに届いているのが本当に嬉しい」と喜びを語った。一方、大友監督は公開後に再び沖縄を訪れたことを明かし、「この映画が何を届けようとして僕らは始めたのか、どういう覚悟をもってこの作品を作ってきたかという気持ちを再確認してきました」と述懐。
改めて、「沖縄という土地には沖縄ならではの時間が流れていて、その中で歴史を見るとそうした時間が突然遮断されるような出来事が沢山あった。僕らはそうしたことを伝えたいと思ってこの映画を作ったんです」と、映画『宝島』に込めたメッセージを伝えた。

その後、トークは映画公開後に数多く寄せられた感想や疑問について、妻夫木ら一同が答えていく展開に。『宝島』が描く、「アメリカ統治下の沖縄」という題材について話が及ぶと、小説執筆にあたり、徹底的な取材や時代考証に多くの時間を費やしたという真藤氏は、「当初グスク(妻夫木)という人物は、東京から沖縄に渡ってきたキャラクターにしようかという構想もあった」と裏話を交えつつ、「でも書けなかったんです。その視点ではとてもこの話は書けないからグスクは現地に生きる人物にしました。沖縄出身ではない自分が沖縄の人になりきれるのか、沖縄の歴史を生きた人々にどれだけ近づけるかというのはすごく大変だった」と当時の苦労について述懐。そんな中、大友監督と出会い感銘を受けたという真藤は、「大友監督が、"映画"でやりたいって言ってくれたことがすごくチャレンジングだと感じたし、監督が目指した"追体験"というのは僕が執筆時に大切していたことにも通じているところがあったので、ぜひお任せしたいと思った」と、互いに共鳴しあい生まれた、映画『宝島』の誕生
秘話について言及した。

妻夫木は、撮影を通して沖縄をはじめ世界の歴史への理解を深めたことに触れ、「この映画をきっかけに、初めて知る事実も多かった」と告白。戦時中に生きた方々への思いを巡らせ、「過去にあったことを過去で終わらせてはいけないなと本当に思いました。僕たちは過去を知ることで痛みを知ることができる。痛みを知ることでこの先『同じ過ちを繰り返してはいけない』と未来に繋げることができる。教科書を見てなんとなく分かってる気になったらダメなんだと思う」と強調し、そのうえで、「また僕たちは武器を持ってしまうかもしれない。
でも武器を持っちゃったらまた戦争が始まってしまうかもしれない。その中で失った命は取り戻せないわけで、そういう時代は二度と来てほしくないと思った。」と続けた妻夫木だったが、「自分も子供がいますし……」と想いがあふれると、壇上で大粒の涙を流し感情を爆発させた。声を震わせながらも「そんな未来は作りたくない、絶対に」と力強く訴えかける妻夫木の姿に、自然と拍手が巻き起こった。

さらに、イベントの後半には、妻夫木がグスクを演じるにあたり「原点」となった佐喜眞美術館の館長・佐喜眞道夫氏から手紙が届くサプライズも。

沖縄戦で地上のすべてを吹き飛ばされた沖縄には 80 年たった今なお巨大な米軍基地が居すわってます。その圧倒的な不条理に果敢に飛び込んでいった沖縄のニーニー(兄貴)達、戦果アギヤーは、少年だった私にとって英雄でした。コザ暴動のシーンは圧巻でした。私も中に入って車をひっくり返したい思いになりました。妻夫木さんが役作りのために何回もご来館され、丸木位里・丸木俊の『沖縄戦の図』の前に立たれていたと伺い、しみじみとありがたさを感じています。そんな妻夫木さんが演じられた、リアルに描かれた映像を通してみると、その壮絶さに少しうろたえました。しかし、そんな中で真っ直ぐに生きようとする青年たちの姿に感動しました。困難を乗りこえるために突っ込んでいった人々の心の根底に何があったのか。
忘れていた共同体と人々への深い愛情を思い出させてくれました。 佐喜眞道夫 佐喜眞美術館 館長

代読するMCに真剣に顔を向け、妻夫木は、またもあふれる涙をこらえて一つ一つの言葉を噛みしめた。すべてを聞き終えた妻夫木は、再び言葉を詰まらせながら「佐喜眞美術館で拝見した『沖縄戦の図』というのは、『宝島』と向き合ううえで、僕にとっての支えだった。もはや、自分が生きるうえでの一生の"核"のような存在になったと思う。今後訪れた時も、『妻夫木、ちゃんと生きているのか』って言われると思うんです。そのたびにきっと、色んなことを思い出すんじゃないかなと思います」と感慨深げに語った。

最後に、「僕は、映画を通して沖縄に触れて死生観が変わりました」と静かに語りかけた妻夫木。コロナ禍に祖母が亡くなったことを明かし、「何もできなかった自分が本当に悔しかった」と涙が止まらない妻夫木は、「それでも、『宝島』を通して死生観が変わって、『おばあちゃんはおじいちゃんに会いに行ったんだな』、『どうしようもなく会いたかったんだな』と思ったら、『また会おうね』と思えるようになったんです。僕は『宝島』でいっぱい宝が見つかった。だから、皆さんもいっぱい宝を見つけてほしい。これまでにいただいた感想の中で、『今すぐ帰って子供を抱きしめたい』という言葉がありました。僕自身も同じ気持ちになったし、それが僕にとって映画を作る意味だし、俳優をやっている意味だとも思っています」とメッセージが送られると、場内は割れんばかりの拍手に包まれた。
フォトセッションでは、観客らとともに、「たぎれ、東京~!」と声を上げ、この日一番の熱気に包まれ舞台挨拶は締めくくられた。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

【編集部MEMO】
映画の原作となった小説『宝島』は、真藤順丈氏のペンによる。「リュウキュウの青」「悪霊の踊るシマ」「センカアギヤーの帰還」の三部構成となっており、沖縄戦直後から始まった1952年の米軍統治時代から、日本に復帰した1972年までの沖縄を舞台としている。2018年に第9回山田風太郎賞、2019年に第160回直木三十五賞、2019年に第5回沖縄書店大賞の小説部門賞を受賞している。
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