日本ロレアルは10月2日、2025年度「第20回 ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の授賞式、およびトークセッション「~世界は科学を必要とし、科学は女性を必要としている~」を大阪万博テーマウィーク内の会場にて開催した。
20年にわたり、女性研究者を応援
ロレアルグループは1998年以来、ユネスコと共同で「ロレアル-ユネスコ女性科学賞」を開催している。
最新の統計調査では、日本における女性研究者の数は18万2,800人に上り、研究者全体に占める割合は18.5%と過去最高を記録している。しかし国際的に見ると、いまだに低い水準にある。その背景には「女子は理系科目が苦手」という思い込みがある、または中高生に進学先をアドバイスする親や教育者の側に「女子が理系に進学すると就職先がない」というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)がある、ということが指摘されている。
そこで、ロレアルをはじめとする民間企業、行政、大学、そして非営利団体などは、女性科学者の育成・支援のための取り組みを進めている。例えば、ロレアルは過去20年にわたり、優れた女性研究者を称え、支援する「ロレアル-ユネスコ女性科学者プログラム」を実施。これにより、同社は科学界のジェンダーギャップ是正、多様な視点からのイノベーション創出、ひいては社会課題の解決、日本社会の発展に貢献してきた。
日本ロレアル・シャリトン社長「科学は女性を必要としている」
授賞式では、日本ロレアル 代表取締役社長 ジャン-ピエール・シャリトン氏が次のように挨拶を行った。
「ロレアル-ユネスコ女性科学賞が創設されたのは1998年のことです。それ以来、16名の女性がノーベル科学賞を受賞しました。その16名のうち、7名がロレアル-ユネスコのフェローシップの対象者でした。ノーベル賞を受賞した人の40%がこのプログラムの受賞者であることをとても誇りに思います。
続いて、在京都フランス総領事を務めるサンドリン・ムシェ氏が次のように祝辞を述べた。
「ロレアルとユネスコが過去20年間にわたってこの女性科学賞を支え続けたことは、とても素晴らしいです。フランスはこの賞をサポートしています。ロレアルはフランスの会社であり、ユネスコはパリに本部があり、フランス国内ではジェンダーの平等に関するプログラムも実行されていますが、それでもまだジェンダーギャップは存在します。サイエンスの世界においても先入観、偏見が残っています。女性サイエンティストを育てることで、世界の未来はもっと輝きます。本日、女性科学賞を受賞された方々は強い決意、たゆまぬ努力を持って歩まれてきました。
また、文部科学省 国際統括官 北山浩士氏は次のように日本の女性登用について語った。
「日本奨励賞は2005年に創設され、これまでに皆様も含めて81名が受賞されています。受賞者の中には、現在、国際的な活躍をされている方々も多くいらっしゃいます。皆様も今回の受賞をさらなる飛躍に向けた1つのステップとし、次に続く女性研究者のロールモデルとなっていただければと思います。女性研究者がその能力を発揮し、活躍できる環境を整えることは、我が国の科学技術、イノベーションの活性化や男女共同参画の推進にとって重要です。いわゆる『骨太の方針』では、理工系分野の学校、教員などに占める女性割合を向上し、大学上位職においても女性の登用を促進することとしており、これに基づき政府全体で様々な取り組みを進めております」
さらに、北山氏は「ロレアル-ユネスコ女性科学賞 日本奨励賞の特徴は、博士後期課程在籍者、および進学予定者を受賞対象者に含む点です。この賞が20年間にわたり女性研究者の研究キャリアのスタート段階の支援を行われていることは大変ありがたく、文部科学省、日本ユネスコ国内委員会として関係の皆様のご尽力に敬意を評します。本日受賞される皆様をはじめ、全ての女性研究者の今後のさらなるご活躍を祈念してお祝いの言葉とさせていただきます」と続けた。
審査員も魅了する研究、6名が受賞
本年度は20周年を記念して、物質科学、生命科学から3名ずつ、合計6名に賞が贈られた。受賞したのは、東北大学大学院理 学研究科の木野量子氏(※肩書きは2024年応募当時、以下同)、慶應義塾大学大学院 理工学研究科の髙田咲良氏、東京大学大学院 理学系研究科の仲里佑利奈氏(以上、物質科学の分野)、岩手大学大学院 連合農学研究科の上野山怜子氏、名古屋大学大学院 工学研究科の沖田ひかり氏、東京大学大学院 薬学系研究科の吉本愛梨氏(以上、生命科学の分野)。
審査員を務める自然科学研究機構 機構長で東京大学名誉教授の川合眞紀氏、JT生命誌研究館 館長、京都大学名誉教授、京都産業大学名誉教授の永田和宏氏が講評を行った。
まず、川合氏が「第20回 ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞には52名の応募がありました。
続いて、永田氏は「生命科学の分野は特に範囲が広く、私自身『こんな研究があったのか』と驚くことも多いです。現在、世の中が注目している研究を前に進めることも大事ですが、流行の研究ではないところにも面白い研究はたくさんあります。それを見逃さず、いかに検証していくか。これは審査員に与えられた責務でもあります。今回は、生命科学分野では生命の起源を探る物質、物質科学分野では人工細胞についての研究がありました。本来なら交わることのない両分野ですが、テーマがシンクロする2つの研究を選ぶことができたのも第20回として意義深かったのではないか、と思っています」と述べた。
女性研究者よ、慣習にとらわれずもっと自由に
さらに、科学界におけるジェンダーギャップの問題、女性研究者支援の必要性を議論するトークセッションが開催された。テーマは「女性科学者支援の20年 ― その軌跡と未来への展望」。
東京科学大学 総合研究院 生体材料工学研究所 鳴瀧研究室 助教の沖田ひかり氏は、「まだ世の中には、昔ながらの慣習が残っています。私の友だちには、両親から『博士課程には進まずに結婚してくれ』と言われ、研究を諦めてしまった優秀な人たちがいました。
さらに「博士まで進むと、30代前半くらいまでは研究にたくさんの時間を費やします。結婚して家庭を持って子どもができると、研究と子育ての両立に悩むことになります。両親に頼れるなら良いのですが、国の支援で子どもを預ける施設などが充実してくれたら、と思うこともあります」と、国の支援に対する期待を述べた。
また、九州大学 大学院理学研究員 物理学部門 准教授 博士の高峰愛子氏は次のように提言した。
「日本の学生は修士課程で研究をやめてしまう人も多いですが、外国人は(将来、就職するにしろ)博士号を取得する人が多いのが現状です。なぜでしょうか。博士課程に進む障壁の一つに、お金の問題もあります。外国人の大学院生は、サラリーをもらって研究を続けています。でも日本では、一部の学生にしか給料は支払われません。日本でも大学院生が給料をもらえるようになれば、博士号を取得する人の割合が増えて、理系を目指す女子比率も高くなり、日本の科学技術レベルも向上するのではないでしょうか」
そして、大阪大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点 量子生命科学分野 バイオ量子センシングの原田慶恵氏は、「子どもが進路を決める段階で、子どもと一緒にいる時間が長いお母さんが及ぼす影響って大きいと思います。そこで理工学系に理解が深い女性が増えれば、ご自身は理系に進まなくても、その子どもが理系に進みたいと言ったときに良いアドバイスができるのではないか、と思っています」と、女性が理工学系に理解を深めることの意義を語った。
そして、東京大学名誉教授の川合眞紀氏は「私は半世紀ほど前の人間ですが、『皆さんもっと自由になったら?』と思います。修士をとり、博士をとり、卒業してから結婚して、子どもを産んでと順番なんて考えなくてもいいのです。私は学生結婚で、博士課程のときに子どもを育てていました。皆さん、段階を1つずつクリアしていかなければいけないと思い込んでいませんか?先に結婚して、あとから大学院だっていいのです。もっとフレキシブルに人生を考えて下さい」と発破をかけた。
これから理系分野を志す人たちに向けたメッセージを求められると、沖田氏は次のように述べ、力強いエールを贈った。
「今後、親や周囲の反対で目指していた道を諦めざるを得なくなる、という環境の人も出てくると思います。でも私の意見としては、20歳を過ぎたら自分の人生だと思います。人生の分岐点において、自分で選んだ道がうまくいくとは限りません。でも、仮に『うまくいかなかった』としても、それを誰かのせいにできてしまう選択肢なら、最初から選ばないでください。これが自分で選んだ道であれば、たとえうまくいかなくても自分で責任を持つことができます。もし将来、進路に悩むようなことがあれば、誰のせいにもしない選択肢を選んでほしいと思います」