ビジネスシーンでの第一印象は、ビジネスに大きな影響を与える。この第一印象での魅力をより高めるために資生堂が提供している企業向けサービスが「Beauty & Self Produce Program」だ。
同社の小林陽平氏にサービスを始めた背景とその特徴について伺った。

○■資生堂の企業向けサービス「Beauty & Self Produce Program」

コロナ禍を経てオフラインでの対面コミュニケーションの重要性が再認識され、ビジネスシーンにおける「印象」や「身だしなみ」の価値が高まっている。そんななか資生堂は、90年にわたって培ってきた美容のノウハウを活かし、企業向けの新しいサービス「Beauty & Self Produce Program」を展開している。

このサービスは、単なる身だしなみ講座に留まることなく、企業の人材育成や従業員のエンゲージメント向上をも実現するという、新たなビジネスモデルだ。誕生の背景から具体的な内容、そして今後の展望を、資生堂ジャパン 美容戦略部 美容ビジネス開発推進グループ グループマネージャーの小林陽平氏に伺ってみたい。
○■美容部員が培ってきたノウハウを一般企業に

2023年末、「Beauty & Self Produce Program」を社内で提案した小林氏。その背景には、資生堂が誇る美容部員(※)の持つスキルや経験を社会貢献に役立てると同時に、美容部員の新しいキャリアの可能性を探るという目的があったという。

(※百貨店や化粧品専門店、ドラッグストアなどで、化粧品のカウンセリング販売や美容技術を提供する専門スタッフ)

「私自身、小売店さまへの営業を担当していた当時から、“美容部員がもつ美容のスキルや経験を活かせる機会は、化粧品を販売すること以外にも大きな可能性を秘めている”と思っていました。これを正式にビジネスとして展開できれば、今まで化粧品販売を中心とした会社のビジネスの幅を大きく広げられるのではないかと考えたのです」(小林氏)

もともと、資生堂には「印象や身だしなみに関する研修をやってほしい」という声も多数寄せられていたという。同社は、このビジネスを展開する以前から、一部希望があった企業に加え、高齢者に向けた“化粧療法”や障がい者支援の“身だしなみセミナー”など社会貢献を中心とした取り組みをしていた。

資生堂はグローバル企業として成長していく中で、美容部員の価値をさらに高められないかと考え、2024年4月よりこの「Beauty & Self Produce Program」を正式にサービスインさせた。

○■美容部員の最高峰の存在「資生堂ビューティースペシャリスト」が指南

「Beauty & Self Produce Program」の内容は、大きくわけて企業の従業員向けとエグゼクティブ・上級管理職向けのふたつのサービスがある。
そのなかにいくつかのコースが用意されており、企業はその中から必要なコースを選んで受講することが可能だ。

●印象も、接遇も、美しくコース(企業の従業員向け)
・メイク×笑顔×所作から学ぶ 第一印象アップコース
・スキンケア×眉・ヘア×所作から学ぶ 信頼感を高めるコース
・お客さまの心をつかむ コミュニケーション特化コース

●魅せるを極めるコース(エグゼクティブ・上級管理職向け)
・「魅了する」 リーダーシップコース
・「研ぎ澄ます」 セルフプロデュースコース

従業員向けのコースは主に営業・接客を意識したもの。メイクや表情、所作といった第一印象を向上させることを目指したコースのほか、聴き方・伝え方に関するスキルを学びコミュニケーション能力を向上させるコースもある。

一方、エグゼクティブ向けは、自己演出や表現方法により、信頼感や影響力を高めることを強く意識したコースとなる。聴衆やメディアを意識した話し方や所作、メイクなど、従業員向けにはない内容が多数含まれており、マンツーマンでの受講も可能だ。

講義を担当するのは、全国数多の美容部員の中でもトップレベルの知識と技術を持つ「資生堂ビューティースペシャリスト」。2025年現在、資生堂ビューティースペシャリストは26名が在籍。この資生堂ビューティースペシャリストが、従業員向けでは受講者10名に1人、管理職向けでは5名に1人つき、アドバイスを提供する。

現在、一番人気のあるコースはやはり従業員向けの「第一印象アップコース」。ただし時間やコースはカスタマイズも可能で、とくに金融機関などでは“「信頼感を高めるコース」にカラー診断を少し混ぜる”といった組み合わせも多いという。

○■受講するのはどんな企業? 受講者の声を

この「Beauty & Self Produce Program」を実際に従業員に受講させた企業のひとつが、三菱UFJ銀行だ。受講者の声を一部抜粋してみよう。


・「メイクだけでなく話し方や話しているときの表情も教えてくれて業務においてもとても勉強になった」(40代以上・女性)

・「男性でも手をかけることの価値を改めて認識した。自分では意識をしているつもりだったが、まだまだ不足していたことに気づいたので今回の学びを日常で意識したい」(30代・男性)

・「自分に似合う色選びで顔色の印象がだいぶ変わると実感した。資生堂のトップスペシャリストから個別にアドバイスをいただけたことも非常に勉強になった」(20代・女性)

・「自分に自信をもったメイクスキルを学んだことで、仕事へもより前向きに取り組める気持ちになった」(40代以上・女性)

アンケート結果を見ても、「知れてよかった」「身だしなみを意識するきっかけになった」という反応が多く、好意的な反応が見て取れる。また、「わくわくする研修は初めて」「日常においても生かせる」という喜びの声もあり、三菱UFJ銀行ではすでにリピートにつながっているという。

「とくに銀行という業種では“信頼感”を普段から意識されているため、『知性を感じる演出ができる』といった点や『ビジネスシーンでのセルフプロデュースの重要性を知ることができた』という声をいただきました。受講者からは『ぜひ他の人にも経験してほしい』という回答が多く、非常に好評でした」(小林氏)

幅広い年齢の女性だけでなく、男性が受講できることも大きな特徴といえる。基本的なプログラムは男女共通だが、性別ごとに身だしなみに求められる具体的な内容は異なるため、実際にはポイントを変えて解説しているそうだ。

「たとえば女性の場合は『笑顔を魅力的に魅せるチークの入れ方』などをお伝えしますが、男性の場合は『髭や日焼け、毛穴をどうカバーするか』といった内容にしています。新入社員研修やメンズ向けなどプログラムは多岐にわたってご用意しています。また、メンズ向けプログラムも用意しており、企業さま個々のご要望に応えられるようアレンジできるのも特長です」(小林氏)

このほか、テレビ局ではビジネスシーンに特化したメイクが好評だったという。プライベートシーンのメイクはデパートやインターネットにたくさん情報があるが、ビジネスシーンのメイク情報は少ないため、「古いメイクの仕方をアップデートできた」という声が挙がったそうだ。また、食品メーカーや医療機関など、マスクをつけて接客する業種からは「目の部分だけでも印象を変えられる」「清潔感をアピールできる」とこちらの評判も上々だ。

○■自治体が婚活支援に申し込むケースも?

2024年4月のサービス開始から1年半、順調な成果をみせる「Beauty & Self Produce Program」。現在は30社以上の企業が利用しており、リピート率も40%以上と高い状況にあるそうだ。今後も、プログラムのさらなる充実や顧客との接点拡大に向けたデジタル上でのプロモーションなどについて強化していく方針だという。

「実はいま、企業のみならず、自治体からのお申し込みもいただいています。たとえば、ある自治体さまからは『婚活支援の一環として、参加者の方々が改めて身だしなみを考えるきっかけを作りたい』 という形での依頼がありました。来年以降、企業・団体に加えて、自治体が抱えるお悩みへの対応も進めていきたいと考えています」(小林氏)

最後に、小林氏から企業と受講者に向けてメッセージをいただいたので、ご紹介しておきたい。

「人との出会いは一期一会であり、会った瞬間の印象がビジネスのお客さま満足度やビジネス成長に与える影響は非常に大きなものです。そして、対面で会うことの価値は、オンラインが増えてきたことで一層高まっていると思います。その瞬間をより価値のあるものにできるよう、私たちがもっているノウハウをお伝えしスキルを身につけていただく機会を提供していきたいと思っていますし、多くの方にサービスを知っていただけたらうれしいです」(小林氏)
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