欧州のRISC-Vコンソーシアム「Quintauris」
クルマ向けのマイコン(マイクロコントローラ)向けにRISC-Vを導入するため、2023年に欧州で設立されたRISC-Vのコンソーシアム「Quintauris」(クィンタウリス)社の実態が明らかになった。QuintaurisのManaging DirectorであるPedro Lopez Estepa氏(図1)が、このほど開催された「Infineon RISC-V Seminar 2025」にて、その取り組み内容を明らかにした。
RISC-Vは米カリフォルニア大学バークレー校で学生の教育用に生まれたもので、RISC(Reduced Instruction Set Computer)という少ない命令セットのCPU。Intelのプロセッサが今や1500程度の命令セットを持ち、本来RISCアーキテクチャのはずのArmのCPUでさえ500命令にも増えてきた。後位互換性を保つためだ。もはやRISCといえるのかという疑問の声もある。これに対してRISC-Vは基本命令を47個しか持たない。それ以上必要なら好きなだけ追加できる。つまりカスタム的なCPUを作るために基本的にオープンなCPUなのだ。
RISC-Vは、これまで米国と中国が極めて速いスピードで採用を進めている。2022年の段階で累積出荷数は100億個を超えた。バークレーでRISC-Vの誕生から15年経ち、すでに世界70カ国以上、4500を超える組織がスイスのRISC-V Internationalに参加している。
欧州でもRISC-V CPUベースのSoCやマイコンをできるだけ早く商品化するためのフレームワークや基本ソフトウエアの共通化作業が始まった。その先頭に立つのが、Quintauris(クィンタウリス)社というコンソーシアムだ。このコンソーシアムに出資、参加したのはInfineon Technologies、STMicroelectronics、NXP Semiconductorsの3大欧州半導体メーカーに加え、クルマのティア1サプライヤーのRobert Bosch、通信やGPSのNordic Semiconductor、さらに米国のQualcomm Technologiesという6社。つまりBosch以外の5社はすべて半導体メーカーだ。
Quintaurisの役割
Infineon RISC-V Seminarでは、QuintaurisのManaging DirectorのPedro Lopez Estepa氏が講演した。このコンソーシアムがまず着手したことはRISC-Vプロセッサクラスのリファレンスアーキテクチャを作ること。それをできるだけ揃えたうえで競争力を高め長期的なサポートを確保する。そしてシステム的なエコシステムとソフトウエアアプリケーションの検証に向けたしっかりしたフレームワークを作ることだという。
RISC-VはオープンなCPUコアであるがために極めてプリミティブで、47個の命令セットのままではほとんど使えない。パイプラインもなければマルチコアに向けた共有メモリすらない。このため他社と競争できるレベルまでシステムCPUに仕上げる必要がある。
こういったフレームワークがなければ、各社各人バラバラのマイクロアーキテクチャで専用チップを作るなら無駄が多いだけではなく、例えばソフトウエアの保証が欠けたり、エコシステム同士の互換性がなくなり、共通部分のないバラバラなRISC-Vになってしまう。こうなると、RISC-Vの信頼性が損なわれ、RISC-V活動が先細りになってしまう。だからQuintaurisはしっかりした共通のフレームワークを作り、専用の独自部分をカスタマイズできるように残しておく。
これらをまとめて、同社には3つの柱があるとEstepa氏は語る。1つ目のユーザビリティ(使いやすさ)は、大量普及に向けて死の谷(研究開発から製品化までのギャップ)を超えるために、RISC-Vを使うための青写真を提供すること。2つ目のバイアビリティ(実現できること)は、コラボレーションとイノベーション、信頼できる実現性を育てることによってRISC-Vの世界的な影響力を増すこと。3つめのアラインメント(揃えること)は、エコシステムの中身を整理して相互運用性を確保すること。
IPベンダーやソフトウエアベンダー、SoCベンダー、OEMベンダーなどすべての企業にメリットがあることを述べ、アグレッシブな製品ロードマップを立てている(図2)。その中で専用のユースケースに集中して開発している。例えば、クルマに必要なリアルタイムRISC-V ISA(Instruction Set Architecture)を想定、絶対必要なISAと選択できるISAなどを用意した仮想チップを設定している(図3)。
Estepa氏は、図3のようなRTプロファイルを設定し、さらに具体的な専用ユースケースを創り、そのIPに集中して開発を進めるとしている。
その後のサービス提供では、特に、実際のインプリメントとアーキテクチャとのギャップを解析、同定し、プロファイルの相互互換性を確保して共通のRISC-Vシステムを認定し、それを使って競争を促し、RISC-Vシステムを設計できるエンジニアを育て増やしていく。これで製品も増やしていくことにつながる。
QuintaurisやRISC-V Internationalなどに参加しておけば少なくとも競争はできる上に、独自技術の開発期間も短くて済むように共通部分を標準化していく。このようなエコシステムに日本からもぜひ参加してほしい、とEstepa氏は呼び掛けている。
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