1クールでドラマ3本出演 大活躍の今年、芽生えた思いとは?

数々のドラマ・映画・舞台に出演し、NHK連続テレビ小説『あんぱん』で主人公の母役を好演したことも記憶新しい江口のりこ。10月11日に開幕する舞台『また本日も休診 山医者のうた』では、山中で一人暮らしをしている村人・民代を演じる。2000年に「劇団東京乾電池」に入団してから25年の節目を迎えた江口にインタビューし、25年を振り返るとともに、1クールで3本のドラマに出演するなど大活躍の今年について話を聞いた。


『また本日も休診 山医者のうた』の主演である柄本明が座長を務める劇団東京乾電池に入団してから25年。江口は「あっという間です。あの頃の自分と今の自分は何にも変わっていません」と話す。

「ド貧乏だった頃に比べれば、喉が渇いたらいつでも自動販売機でジュースが買えるようになったし、車にも乗れるようになったし、そういった変化はありますが、自分の中では何も変わっていません。同じ劇団にいて、同じ先輩がいて。周りの人たちも変わってないので、すごく不思議です。入団したとき19歳でしたが、今45歳というのが『ウソ! 信じられない』という感じです」

そして、年齢や経験を重ねても「役者の仕事は毎回初心です」と語る。

「毎回新しい現場なので、新しい人たちと初めましてなんです。だから、初心を忘れちゃダメとか思うこともなく、毎回初心という感じで、新しい現場に入るときはいつも緊張します」

40代に入ってからますます存在感を高め、連ドラで主演を務めるなど引っ張りだこの江口。自身にとっての転機を尋ねると、「そういうのは自分の中ではないんです」と答える。

「変わらず一つ一つ作品をやっていく中で、徐々に学んでいったというか、どの作品でも面白い人などに出会って、いろんなこと発見してきたという感じなので、大きく状況が変わったということはないです」

今年は特に、『あんぱん』、『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』、主演を務める『ソロ活女子のススメ』と、同時期に3本のドラマに出演するなど大活躍。多忙な日々に喜びを感じているか尋ねると、「喜びは全くないです。
ただの苦しみです(笑)」と即答した。

「スケジュールはきっとかぶらないですということでお引き受けしても、どの作品もお忙しい方が出演されているので、結局重なってしまって、今年の1月から4月までは非常に苦しかったです。いろんな都合があって、撮影が早まったり遅くなったりするので」

複数の撮影を重ねた経験により、「もう少し余裕を持って一つの作品と向き合いたい」という思いが芽生えたという。

「体だけは壊さないようにしようと、それが第一になっていたので。もし撮影が重なってなければ、もっと面白くできるんじゃないかと考える時間もあったはずなんです。でも時間が足りなくて、まず体を守ろうと。それだけだったので、ギリギリの状態ではなく、一つ一つしっかりやることが大事なんだなと思いました」

現在45歳。今後については「何も考えてない」と言うも、「芝居はずっと続けていきたいです。それが自分にとって社会とつながる手段でもあるので、一つ一つ頑張っていきたいと思います」と述べ、柄本をはじめ「本当に大きな先輩ばかりなので、頑張ろうと刺激をもらいます」と話した。

言葉の足りなさを反省し意識変化「いいなと思ったことはもっと言葉に」

『また本日も休診 山医者のうた』は、那須高原の山奥にある診療所で、医師・見川鯛山(柄本明)が村人たちと繰り広げる日常を描く物語。江口は、他人とのコミュニケーションが苦手で山中で一人暮らしをしている村人・民代を演じるが、自身との共通点について「人付き合いが苦手なところは似ています」と語る。

飾らない本音トークが魅力の江口だが、「言葉が足らないと思います。
お世辞は、言うのが恥ずかしいから言えなくて。例えば、素敵だなと思うことがあったら『素敵ですね』と言えばいいのに、言わなかったりするので」と反省気味。

だが、「いいなと思ったことは言葉にした方がいいと思うので、もっと言葉にしていこうと思います」と、少しずつ意識が変化しているという。

「私たちの仕事はチームでやっていて、待ち時間もみんなで待っているので、楽しい方がいいですよね。そんなとき、いい言葉があった方がみんなも楽しくなる。仕事をしていく中で、時間を楽しく使いたいと思うようになったのだと思います」

休日の過ごし方を尋ねると、「整体に行って体を整えます。あと、外を歩くのが好きです」と答えた。

「仕事のときは建物の中に入って、ずっと夜まで何か撮っているので、休みの日に少しでも外に出て歩くと自由を感じられて、それだけですごく幸せな気持ちになります。疲れているときは近所のスーパーまでしか行かないですし、元気があるときは片道1時間とか平気で歩きます。そういうときは何も考えてなくて、それがリフレッシュになっていいんでしょうね」

散歩は昔から続けているとのことだが、最近、「体力や筋力をつけよう」とより健康への意識が高まったそうで、そのきっかけを尋ねると、今年の忙しかった時期に「自分は弱いな」と思ったからだと明かした。

「私はしんどいなと思ったり、何時に終わるんだろうと思ったり、すぐ時計を見たり。でも、立派な先輩を見ていると、時間のことなんて全く言わないし、いつもシャキッとされていて、運動をされているという話を聞いたので、私も運動したら心が強くなるんだと思い、そこから変えていこうと思いました」

一般的なイメージだと「強い女性」という印象があるが、「全然ですよ」と笑う江口。
今年は弱音を吐きたくなることが多々あったそうで、「『疲れた』とか言うと、自分でも引っ張られてどんどんしんどくなってしまうので、強くなりたいなと。あと、やろうと思ってやらないことがいっぱいあって、そういう面でも強くなりたいなと思っています」と話した。

パワフルに仕事を続ける江口から、日々頑張って働いている人たちへのメッセージを求めると、「よく眠りましょう! それが一番大事だと思います」という言葉をくれた。

「朝すっきり目覚めるのと、全然寝られなかったのとでは、1日の始まり方が全然違う。体が元気だと心も元気になり、ちょっと無理なことを言われても受け入れられるし、人にも優しくできると思うので」

睡眠の大切さは今年のハードな時期を経て痛感したそうで、「今年忙しかったですけど、最低6時間は毎日寝られていたからこそやってこられました。何時間寝たというのが自信にもつながると思うので、眠りってめちゃめちゃ大事だと思います」と語っていた。

『また本日も休診 山医者のうた』の福岡公演は10月11日~15日に博多座にて、東京公演は10月23日~11月2日に明治座にて、宇都宮公演は11月6日に栃木県総合文化センターにて、山形公演は11月22日にやまぎん県民ホールにて上演。

■江口のりこ
1980年4月28日生まれ、兵庫県出身。2000年に東京乾電池入団。2002年、『金融破滅ニッポン 桃源郷の人々』で映画デビュー。2004年、『月とチェリー』で映画初主演を務め、注目を集める。その後、ドラマ、映画、舞台など、多くの話題作に出演し活躍の場を広げている。
2021年、『事故物件 恐い間取り』で第44回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞、2025年、『愛に乱暴』で第38回高崎映画祭最優秀主演俳優賞を受賞、2024年『リア王』、『ワタシタチはモノガタリ』で第75回芸術選奨文部科学大臣新人賞を演劇部門で受賞。主な出演作に舞台『パラサイト』、映画『愛に乱暴』、『あまろっく』、『お母さんが一緒』、連続テレビ小説『あんぱん』などがある。
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