前回は2024年の資金調達環境について創業ファイナンスをテーマにして振り返りました。今回は融資のビフォーコロナとアフターコロナについて比較検討します。
中小企業庁が半年に1回公表している「保証実績の公表(信用保証協会別の金融機関別、信用保証協会別、金融機関別)」の統計情報は、従来はpdfファイルで配布されていましたが、2025年からExcel形式でもダウンロードできるようになりました。
データ加工が以前よりも容易になりましたので、時系列に並べて内容を確認していきます。
メガバンクと東京が本拠の地方銀行について、統計の公表が始まった2018年から最新の2024年までの保証承諾件数の推移をまとめました。
金額ではなく件数に着目する理由は、融資先の企業の経営規模によって左右されにくい指標を使って考えたいからです。融資の積極性を評価するとき、売上高・利益・純資産といった財務指標に影響を受け、かつ、企業毎に1桁・2桁レベルで差が出る金額で計測するよりは、審査の回数を代理指標にした方が中小企業の財務担当者が相談先の金融機関を選択する際に役に立つでしょう。
きらぼし銀行と日本全国の動きとしては、ビフォーコロナである2018年の水準近くまで保証承諾件数が回復した年がありますが、メガバンクは半減したまま増加の兆しが見えません。
平時の約3倍、金融機関によってはそれ以上の信用保証協会付き融資が実行された、コロナ禍における資金繰り支援の規模の大きさにもあらためて驚かされます。
アフターコロナの2024年は、2020年に大量の融資が実行された反動がまだ残っています。ヒアリングをしていると2022年や2023年頃に契約した期間10年の融資が散見されるため、2010年代の水準に件数が回復するのは2030年以降となる可能性が捨てきれないですし、労働人口減少が企業数の減少に繋がって件数が戻らないシナリオもあり得ます。
東京の保証承諾件数が減っているのか否か目を向けてみると、上下動はあるもののコロナ禍の前後でほぼ変わらず、全国に占める東京の割合を算出してみても大きな変動はないです。融資を申し込む企業の財務担当者は、立地よりも個々の金融機関の行動に注視する必要があることが分かります。
銀行の個別の行動を読み取るために、冒頭で紹介した5行の各々について東京への集中度を試算してみます。
最後に東京の特徴が表れている指標を紹介します。
創業融資に対する信用保証はコロナ禍の影響で減少した時期があったものの、全国的にも東京でも件数は増加しています。一方で比率をチェックすると、創業に占める東京の割合が緩やかな減少傾向にあると言えそうです。
地方の起業家に対する金融支援が増えており、信用保証協会全体で見ても創業の存在感が着実に大きくなっている軌跡が見て取れるので、政府が推進するスタートアップ5か年計画の成果が出ていると理解しています。
ビフォーコロナとアフターコロナの比較検討は以上です。次回は引き続き「保証実績の公表(信用保証協会別の金融機関別、信用保証協会別、金融機関別)」の統計情報を活用して、融資の地域差について調べます。
→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら
千保理 せんぼただし ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業にCFOとして参画し、2022年に独立。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、会計ソフトウェア会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。