「スーパーカブ」と言えば誰でも知っているホンダの名車ですが、そのホンダが「カブ」っぽいスクーターを出していたのはご存じですか?

ヒント:車名はズバリ「速達」というビジネスバイクです

このバイクもホンダのビジネスモデルですが、「スーパーカブ」や「ベンリィ」のシリーズではありません。

――正解は次のページで!


○問題をおさらい!

正解はこちら!

○【答え】ホンダ「エクスプレス」

正解はホンダ「エクスプレス」でした!

「エクスプレス」は1983年にホンダが発売した50ccのバイクです。
フロント周りの雰囲気は同時期に登場した、いわゆる“角目”の「スーパーカブ」風ですが、ごらんの通りフラットなステップを持ち、クラッチやペダルを使った変速操作もいらないスクータータイプのモデルです。

「急行列車」や「速達便」という意味を持つ車名の通り、「エクスプレス」は「スーパーカブ」と「ベンリィ」の中間的な要素を持つビジネスバイクとして誕生しました。ほかの2台と違い、“誰にでも簡単に乗れて、衣服や靴も汚れにくい”というスクーターのメリットをいかし、スーツを着たビジネスパーソンをメインターゲットとしていたようです。

「スーパーカブ」の特徴は燃費のよい空冷4ストロークエンジンと、左足のペダルで行うクラッチレスの変速機構です。対して「エクスプレス」のパワーユニットは、同社の主力スクーター「タクト」の強制空冷2ストロークエンジンをベースとしています。変速機も現在のスクーターと同じ自動変速(トルクセンサー付Vマチック)なので、カブのようなペダル操作も不要です。

2ストロークエンジンは簡易で部品点数が少ないため製造コストや重量を抑えることができ、4ストロークより瞬発力の高いパワーを得られるというメリットがあります。そのため「エクスプレス」は、カブより約20kgも軽い車体をスロットル操作だけでキビキビと走らせることができ、燃費もカブには及ばないものの、軽い車体をいかして110Km/L(30Km/h定地走行テスト値)を達成しました。

また、小型スクーターでは車体の小型化や低床化のために10インチの小径ホイールが使われますが、「エクスプレス」は16インチのスポークホイールを採用し、悪路での乗り心地や安定性を向上させています。そのほか、大半の50ccスクーターはリアサスペンションが片持ちの1本式ですが、重い荷物の積載を考慮して左右2本式が採用されました。

そんな「スーパーカブ」とスクーターのハイブリッド的な「エクスプレス」ですが、ベテランバイク乗りでも知らない人が多い超マイナーモデルです。1980年代は空前のバイクブームで、各社から次々に生まれた多種多様なモデルの中に埋もれてしまったこともあるのですが、ヤマハから「JOG」が登場すると若者の人気はスポーツタイプに集中しました。


今でこそ「スーパーカブ」や「ベンリィ」のようなビジネスバイクはレトロテイストが若者や女性にウケていますが、当時は“新聞屋や蕎麦屋のバイク”や“トツバイ(とっつあんの乗るバイク)”で、ダサい、カッコ悪いというイメージが強く、趣味で乗るバイクとしては見向きもされなかったのです。

ところがこの「エクスプレス」は、意外な場所で一部の人たちから熱い視線を浴びていました。それはミニバイクレースの世界で、軽い車体と2ストロークエンジンのパワーに加え、スクーターとしては異例の大径ホイールは中高速コーナーで抜群の安定性を誇ったそうです。筆者もミニバイクレースの仲間から、「異常に速いカブがいると思ったらエクスプレスだった!」という話を聞いたことがあります。

本業のビジネス需要も、「スーパーカブ」の存在が大きかったためか、「エクスプレス」は約2年で姿を消しました。しかし、石畳や悪路の多い欧州やアジアでは昔から大径ホイールのスクーター需要が高く、現在も数多くの16インチモデルがラインアップされています。日本国内でも原付二種スクーターは14インチがスタンダードになりつつありますが、「エクスプレス」のような“カブ風レトロスクーター”がデビューしたら人気が出るかもしれませんね!?

それでは、次回をお楽しみに!

津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら
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