「貯蓄から投資へ」を掲げ、NISA拡充など個人投資を後押しする政策が続く昨今、多くの人は「上手に節税できれば資産は増える」と期待し、配当などにかかる20.315%の税率も一見すると優遇に見える。

しかし、この数字だけを見て安心はできない。
法人と個人で課税が重なるなど、見た目より手取りが少なくなる"仕組み"があるためだ。

「投資家が手にする利益の裏で、実は『二重課税・三重課税』が仕掛けられているのです」——そう指摘するのは、富裕層(※)向け資産コンサルで、YouTube『さきの海外不動産しか勝たん』(登録者数13.3万人)を運営する宮脇さき氏。

※野村総合研究所の定義では、純金融資産が1億円以上5億円未満の世帯を指す

政権内では金融所得課税の強化も議論が進み、富裕層の資産防衛は急務になりつつある。

そこで今回は、日本で密かに進む「三重課税」の実態と、富裕層が日本を離れ始める理由について、宮脇氏の見解を伺った。
○100万円の利益が、55万円に激減する悲しい現実

多くの人が見落としがちなのが、「利益」と「手取り」の大きな差だ。特に、自身がオーナーである会社の利益を受け取る際、その差は残酷なまでに拡大するのだとか。

「仮に、あなたの会社で100万円の利益が出たとします。それを株主であるあなたが配当として受け取ろうとした時、最終的に銀行口座に振り込まれる金額はいくらだと思いますか? 答えは、約55万円なんです」(宮脇氏)

100万円の利益が、なぜ半分近くまで減ってしまうのか。このカラクリについて、宮脇氏はこう話す。

「まず、利益100万円に対して、第1の壁である法人税がかかります。実効税率を約29.7%とすると、この時点で利益は約70万円に減少します。次に、その70万円を個人が配当として受け取る瞬間に、第2の壁である配当課税(所得税・住民税)約20.3%が課されます。
70万円の約20%ですから、約14万円が引かれ、手取りは約55万円になります」(宮脇氏)

つまり、途中で45万円もの金額が、合法的に消えているというわけだ。「100万円あったはずのお金が、株主のもとに届くまでにこれだけ目減りする。この現実をまず知らなくてはなりません」と宮脇氏。

○実効負担率51.6%...富裕層が直面する厳しい税務環境

問題はこれだけではない。現在、政府内で着々と進んでいるのが「第3の課税」。それは、これまで対象外だった金融所得に対しても、社会保険料を課そうという動きだ。

「法人税、所得税に加え、さらに社会保険料まで乗ってくる可能性がある。これが『三重課税』の正体です。もしこれが実行されれば、手取り額はさらに減少しますよ」(宮脇氏)

この「見えないコスト」こそが、富裕層が直面する厳しい現実と言える。宮脇氏の試算によれば、この「三重課税」が現実のものとなれば、実効負担率は50%を超えてしまうのだそう。

「仮に社会保険料負担が10%上乗せされると、先ほどの例では最終的な手取りは48.4万円まで減少します。もともとの利益100万円に対する実効負担率(※)は51.6%。
利益の半分以上が国に持っていかれる計算です。インフレも考慮すれば、豊かさを感じるのは極めて困難になります」(宮脇氏)

※個人や法人が実際にどの程度の税金や社会保険料などの金銭的負担を負っているかを示す割合

○富裕層が日本を去るもう一つの理由が深すぎた...

富裕層や企業が国外へと目を向ける最大の理由は、日本の税制が国際的な競争力を失っている点にあるとか。それを裏付けるように、財務省の資料が示す日本の法人税実効税率29.74%という数字は、主要国の中でも突出して高い水準だ。

「世界では今、優秀な企業を誘致し雇用を生んでもらうため、熾烈な『法人税引き下げ競争』が起きています。その中で、これだけ高い税率の日本を選ぶ経営者がどれだけいるでしょうか」(宮脇氏)

高い法人税は、企業が日本で事業を行う魅力を削ぎ、投資家の資本を海外へと流出させる要因となっている。加えて深刻なのは、税制の根底にある「思想」だ。

「政府は『貯蓄から投資へ』と呼びかけますが、その実、リスクを取る投資家に対しては極めて冷淡な姿勢を見せています。投資家は、元本割れのリスクを100%自己責任で負いますが、一度利益が出れば、国は『税金』としてそのリターンの一部を要求するのです...」(宮脇氏)

損失は投資家のもの、利益は国と分け合う──この構造が、投資環境を著しく悪化させているのだ。

「政府の立場は、リスクは取らないが、リターンだけは徴収するというものです。事業がうまくいっても手取りが増えづらい国で、誰が積極的にリスクを取るでしょうか。資本が海外に逃げるのは、ある意味で当然の帰結かもしれません」(宮脇氏)
○「売らない」が最強の節税になる? 富裕層の生存戦略

では、課税強化が進む日本において、富裕層はどのような防衛策を講じているのだろうか。宮脇氏は、その戦略を段階的に解説する。


「まず最も基本的な防衛策は、『課税タイミングのコントロール』です。日本の税制では、利益は確定(売却)した瞬間に課税対象となります。つまり、含み益がどれだけ膨らんでも、「売らなければ」1円も税金はかかりません」(宮脇氏)

頻繁な売買を繰り返すのは、その都度、国に税金を納めているのと同じというわけだ。「5年、10年と長期で持ち続けられる資産に投資し、課税のタイミングの決定権を国ではなく自分自身が握ることが重要です」と宮脇氏は語る。

さらに高度な戦略として、現金が必要になった場合でも安易に売却せず、資産を「担保」として活用する方法がある。株式や不動産、最近では暗号資産さえも担保に入れ、銀行からローンを組むのだそう。

「借りたお金は『利益』ではないため、非課税です。資産は保有したままなので将来的な価値上昇も期待できる。数パーセントの金利を払うほうが、何十パーセントもの重税を払うよりはるかに合理的だったりします」(宮脇氏)

これらの国内対策すら限界と見た場合の最終的な選択肢が、資産と自身の「国際化」だ。税制が厳しい日本から資産を海外のプライベートバンクなどに移す、または自ら海外に移住するのだという。

「もはや、日本に生まれたから日本に税金を納めなければいけない、という時代ではありません。国際税務の専門家チームと連携し、自分の資産をどこで管理し、どこで納税するのかを戦略的に選ぶ時代なのです」(宮脇氏)
○口では「資産所得倍増」、裏では「三重課税」...

「金融所得への社会保険料課税」──この三重課税の脅威はもはや単なる憶測ではなく、インフラ整備は着々と進んでいる。
表向きは公平な負担のためとされる「マイナンバー」だが、その真の狙いはどこにあるのか。

「政府がマイナンバーと口座の紐付けを急いだのは、要するに『誰がいくら金融所得を得ているか』を完全に把握して、そこに保険料をかけるための『下準備』です。口では『資産所得倍増』とアクセルを踏みながら、裏では『課税強化』というブレーキを踏んでいる。これだけ矛盾した動きをすれば、経済が停滞してしまうのも当然です」(宮脇氏)

最後に宮脇氏は、「どこに住み、どこで資産を築くか。その根本的な戦略と、変わり続けるルールに適応するための『継続的な学習』こそが、資産防衛に必要な素養となるのです」と教えてくれた。

「三重課税」は単なる税制問題ではない。それは日本の資本主義の未来を問う、静かな革命と言えるのかもしれない。

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。
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