体育館の入口に立つ小さなモニター。その前を通る子どもたちが笑顔を向けるたび、カウントがひとつ増えていく。
モニター右下に映る数字はただの来場者数ではない。それは、子どもたちの笑顔が積み上げた寄付金の額を示す数字である。

この仕組みを生み出したのが「OneSmileFoundation(ワンスマイルファンデーション)」が仕掛ける「スマイラル」だ。11月1日、相模原市のほねごりアリーナで開催された「JA共済杯第46回神奈川県小学生バレーボール大会」にて、その取り組みが神奈川県・JA共済連神奈川との連携で初めて実施された。
○AIが選手や来場者の笑顔を“検知”して寄付につなげる!

「スマイラル」は“スマイル”と“スパイラル”をかけ合わせた造語で、AIが人の笑顔を検知し、“1笑顔”につき1円を寄付するというシステム。デバイスに組み込まれたアプリケーションが、顔の特徴を座標として解析し、笑顔の度合いを判断する。顔の画像や動画データなどは記録せず、個人情報の収集は一切行わないため、プライバシーを守りながら笑顔を可視化できる。

大会が決勝戦に差し掛かる頃には、デバイスはすでに7000を超える笑顔を記録していた。そのほか、会場内にいる観戦者らの笑顔も別途、計測しているという。集まった金額は、そのまま「神奈川県立こども医療センター」への寄付に変わり、12月にはこども医療センター内でも同様のイベントが予定されている。

ワンスマイルファンデーションの代表理事、辻早紀さんは「今のデジタル社会では監視カメラや防犯カメラが使われていますが、主に犯罪抑止のイメージがありますよね。でも私たちは、それらの技術が人の幸せや困っている人への支援につながるような社会をつくりたいんです」と、この取り組みの狙いについて話す。


これまでスマイラルは、大阪・関西万博やG7広島サミット、学校や保育園、介護施設などでも活用されてきた。意外にも、葬儀会場での導入例もあるという。悲しみを抱える遺族が、自然に感情を表現できる“グリーフケア”の一環として活用されているのだ。

「子どもたちが持つお金は限られているので、寄付への参画は難しい。すると、社会課題に対して参加できず、無関心になってしまいます。ですがスマイラルは、自分たちの笑顔によって寄付金を生み出せる。学校によっては寄付先まで子どもが自分で考えています。環境型学習として自立性の学習にもつながっています」(辻さん)

今回の導入には、神奈川県の政策的な背景がある。同県政策局いのち・未来戦略本部室企業連携グループのグループリーダー、草柳宏治さんは、取り組みの経緯を語る。

「神奈川県は"笑いあふれる社会の実現"を掲げています。その実現に向けて企業からアイデアを募集した際に、ワンスマイルファンデーションさんから提案をいただき、一緒にやろうという話になりました」(草柳さん)

神奈川県としては初となる取り組みで、トライアル的な試みでもあったが、草柳さんは「実施できて本当によかったと思います」と感想を口にする。

「こども医療センターは本当に寄付を必要としていて、そこで使われる子どもたちの玩具も寄付で賄われているんです。

こういった取り組みを通じて寄付金を集めるのもそうですが、『こども医療センターが常に寄付を必要としている』という事実も県内外のみなさまに広がっていくといいなと思っています」(草柳さん)

スマイラルの「1笑顔=1円」という分かりやすい仕組みに共感したのが、JA共済連神奈川だ。神奈川県とJA共済連は今年3月に包括連携協定を締結しており、子育て支援などの分野での連携を模索していた。そのタイミングでの出会いが、今回のプロジェクトを実現させた。

今回の大会をサポートしたJA共済連神奈川のJA支援部 普及管理課長、山本智さんも、取り組みの新しさに手応えを示す。

「このバレーボール大会には以前から協賛していますが、今回のような取り組みは初。小学生が元気にプレーする大会ということもあり、『せっかくの機会だから』と思って協力しました。神奈川県とは今年3月に連携協定を締結し、何か一緒にできる取り組みを模索してきました。今回、このような社会的意義の高い取り組みが実施できて嬉しいですね」(山本さん)

もともとJA共済連は「助け合いの精神」を使命に掲げ、地域とのつながりを築いてきた。例えば、小学生の女子学童選抜野球大会への協賛や、「生徒向け・シルバー世代向けの交通安全教室、そして、小・中・高校生書道コンクールなどといった地域貢献活動を継続的に実施。今回の取り組みもそうした活動の延長線上にある。

「本当にやってよかったですね。最初は手探りの状態でしたが、実際にスマイラルを設置してみたら、子どもたちが楽しそうに笑顔を見せてくれて。
その姿を見た瞬間、『これは本当に意味のある取り組みだった』と感じました」(山本さん)

スマイラルのデバイスの前に、嬉々として集まる子どもたち。一般的な募金箱では、そうそう見られない光景である。笑顔を見せるだけで、誰かの力になれる。そんな新しい寄付のかたちが、地域に、そして子どもたちの未来に確かな明るさをもたらしていた。

猿川佑 さるかわゆう この著者の記事一覧はこちら
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