機械式時計の鼓動を、芸術として感じる森へ――。 セイコーウオッチによる展示イベント「からくりの森 2025」が開催中だ。
ここでは、展示作品の中からいくつかをピックアップして、写真と動画を交えて紹介しよう。
○機械式腕時計の動きや音「からくりの森 2025」

「からくりの森 2025」の展示テーマは、「機械式腕時計の動きや音からインスピレーションを得たインスタレーション作品」。その言葉通り、昨年(2024年)の「からくりの森 2024」に比べて、機械式腕時計の動きや音によりフォーカスした内容で、メカニカルなギミックにも、さらに力が入っている印象だ。開催要領は以下の通り。

会期:2025年11月5日~11月18日 11時~20時(会期中は無休、入場は19時45分まで)
入場料:無料
会場:東京都港区青山 LIGHT BOX STUDIO

○時間を捕える「プワンツ|PUWANTS」

会場に入ると、まず、水と空気とフロートを使ったインスタレーション作品「プワンツ|PUWANTS」が迎えてくれる。作者はアーティストの小松宏誠氏と、デザイナーでありデザイン研究者の三好賢聖氏だ。

水槽の底から少しずつ空気が出ていて、その上のお皿状の部分にに溜まる。この空気が一定量になると、お皿のバルブから一気に空気が放出され、泡(あぶく)やリングになって上がっていくのだ。まるで、秒針が一回転すると分針がひと目盛進むように。

小松氏「空気が放出される間隔は精確な時を刻む場合もあるし、そうでないときもあります。時間という変化し続けるものを捕らえるのが時計だとしたら、身体的に捕らえるってどういうことだろう――みたいなことを考えます。いろんな形の泡が出るようになっていて、とってもキレイなリングが出たときは当たり(笑)とか、そんな風に楽しんでいただけたらうれしいです」

三好氏「今回はPUWANTSシリーズの新作として、機械式腕時計の輪列(ゼンマイからの動力を伝えるために複数の歯車が連なる構造)から着想を得た作品も作りました。
水面に浮かんだガラスのお花が輪列の歯車のように正転反転するというもの。こちらの動きも、ぜひ会場でご覧ください」

○ゼンマイ=時間という発想「螺旋の律動」

1枚のステンレス板を長く切り出し、螺旋(らせん)状に組み付けたメカトロニクスオブジェクト。動画に映っているように、内部は4方向に伸びた多数のアームが支えている。このアームは、制御プログラムによって伸縮・螺旋を生物のようにたわませていく。

機械式時計の精度を司る調速機のひげゼンマイから着想を得ており、この形はテンプをピンセットでつまんだとき、ひげゼンマイが縦に伸びた状態をイメージしたもの。スタンド部に影が落ちることでテンプの形にそっくりになるのも、時計好きなら思わずニヤリとするポイントだ。

作者はデザインエンジニアリング企業「Spline Design Hub」(スプライン・デザイン・ハブ)。代表の神山友輔氏にお話を伺った。

神山氏「この作品は、私と阪本真、村山覚、中野文哉、計4名が中心になって製作しました。機械式時計は駆動させる力も、精確性を司るのもゼンマイ。つまり、ゼンマイはもはや時間であると考え、時の可視化に挑戦しました」

神山氏「また、テンプをピンセットでちょっと持ち上げると、縦に伸びて螺旋状になると同時に、元気に踊り出す(伸縮する)のですが、そんなシーンを感じさせる演出も入れています」
○小さな針の小さな物語「時の交わり」

「からくりの森 2025」には、外部から2名と1社、そしてセイコーウオッチから、社内コンペを勝ち抜いた2名のデザイナーが参加している。その2名は、檜林勇吾氏と杉田尚弥氏。
檜林氏はグランドセイコーの「Tokyo Lion TENTAGRAPH」を、杉田氏はおもに「PROSPEX」シリーズを手がけるデザイナーだ。

檜林氏が手がけた作品のタイトルは「時の交わり」。秒針の先端に極小の人形を付けた機械式時計のムーブメントを2つ並べたものだが、お互いの秒針の先端がすれ違うほんの一瞬に、針先の人形が最接近。しかし、二人はまた離れていく。

人生とは、そんな小さな物語の繰り返し――。まるで、作品がそう語りかけてくるようだ。それはつい最近、私にそんなことがあったから、余計にそう感じるのだろうか。なお、台座の部分にはルーペが据えられており、これをのぞくと、すれ違う瞬間の小さな時の交わりをより明瞭に確認できる。

檜林氏「私たちプロダクトデザイナーは、腕時計を道具というよりも、人生の相棒、あるいは一緒に時を歩む人生の一部、そんな感覚でデザインしています。つまり、時計の針はただ時間の計測値を示しているのではなくて、使う人の時や人生なんですね。

そうした感覚は今まで時計のケースの中に閉じ込められていましたが、今回、ムーブメントをケースから取り出してみました。それを見てどのように感じるかは、見る人によって変わってくると思います。
ぜひご覧いただいて、色々なことを感じ取ってください」

会場にはほかにも、興味深い作品の数々が展示されている。

グッドデザイン賞などアワードを受賞したプロダクツなどもディスプレイされている。それらはぜひ、ご自身の目でご覧いただきたい。タイミングしだいでは、作者の方々と直接お話しすることもできるだろう。時計に対する興味と視点の新しい扉が、またひとつ開くはずだ。
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