投資を始めようと情報を集めると、たいていは「S&P500」と「オルカン(オール・カントリー)」に行き着く。「初心者はこの二択」「これだけ買っておけばOK」などと言われるように、低コストで広く分散投資ができるこれらは、たしかに投資入門の王道銘柄と呼ぶにふさわしい。


だが、本当にそれだけで満足だろうか。 「S&P500やオルカン以外の、もっと攻められる選択肢も知っておきたい」 と感じている人もいるかもしれない。

この疑問に答えるのが、FP(ファイナンシャルプランナー)の鳥海翔氏だ。彼はYouTubeチャンネル『鳥海翔の騙されない金融学』を運営し、登録者数は35.3万人を誇る。

今回は鳥海氏に、王道2銘柄の強みを再確認しつつ、それ以外の"第三の選択"、そして具体的な資産配分について詳しく伺った。
○なぜ、S&P500とオルカンはここまで人気なのか

まず、現在の二強状態について、鳥海氏は「極めて合理的です」と語る。「投資の神様ウォーレン・バフェット氏も『S&P500のインデックスファンドに投資しておけばよい』と公言しているほどですから」と。

S&P500は、米国という世界最強の経済圏のトップ500社で構成される。その最大の強みは、自動的な「新陳代謝」が仕組み化されている点だ。

「ダメになった企業は自動的に除外され、新しく成長してきた企業が組み込まれます。投資家が自分で銘柄を選別する必要がなく、ただ持っているだけで米国の成長についていける。これが最大の強みです」(鳥海氏)

一方のオルカンは、そのS&P500が内包する米国市場が約6割を占めつつ、残りの4割で全世界をカバーする。


「仮に米国の力が相対的に弱まる時期が来たとしても、他の地域が成長していれば、それを拾うことができる。S&P500より、さらに盤石な『守り』の分散投資と言えますね」(鳥海氏)

加えて、どちらも投資信託の運用コスト(信託報酬)が極めて低く抑えられている。鳥海氏は「その低コストも、長期投資において非常に有利。初心者がまず検討すべき選択肢であることは間違いない」と、二強の優位性を改めて強調した。
○『テーマ型ファンド』という選択肢

鳥海氏も二強の優位性は認める。だが、話はここで終わらない。S&P500やオルカンと異なる特色を持つファンドとして、鳥海氏は"テーマ型ファンド"を選択肢の一つとして提示した。例に挙げたのは『野村世界業種別投資シリーズ 世界半導体投資』だ。

「最近は『eMAXIS Slim』のような低コストインデックスこそ最適解という風潮が強く、S&P500とオルカンがあまりに強すぎて、このファンドは名前も地味で目立ちません。ですが、過去10年間の年間リターンが平均で33.13%、S&P500の過去10年の平均リターンが年率10%程度なので、3倍以上となります」(鳥海氏)

S&P500やオルカンが「市場平均」を目指すインデックスファンドであるのに対し、「世半導株」は特定のテーマに絞る「テーマ型ファンド(アクティブファンド)」だ。その名の通り、世界の半導体関連企業に特化している。

「構成銘柄も特徴的です。
24社程度(※)の半導体関連企業だけで構成され、驚くべきは、エヌビディア(NVDA)とブロードコム(AVGO)の2社でファンド全体の約45~50%を占めている点。非常に尖った、攻めた構成と言えます」(※時期により変動あり)

S&P500やオルカンにもエヌビディアは組み入れられているが、「世半導株」はSMC(6273)、クアルコム(QCOM)、マイクロン・テクノロジー(MU)など、半導体産業の中核を担う銘柄により集中的に投資している。

半導体はAIや自動運転を支えるインフラであり、鳥海氏も「半導体企業がここから落ちるとは考えにくい」と分析する。

だが、パフォーマンスがよいからといって誰もが買うべきとは限らない。テーマ型は当たれば大きい反面、下落も大きい。加えて「世半導株」は高コスト(信託報酬1.65%+販売手数料最大全3.3%)かつ為替ヘッジなし。一方でS&P500(約0.08%)やオルカン(0.05775%)は低コスト・販売手数料なし・為替ヘッジなしで、性格がまったく異なる。

「だからこそ、S&P500のように『これ一本でOK』というものではありません。こうしたファンドの特性、つまりハイリスク・ハイリターンであることを理解したうえで、どうポートフォリオに組み込むかが重要になります」(鳥海氏)
○戦略のポイントは「年齢」と「利益分」

特性が異なるこれらのファンドを、どう組み合わせればよいのだろうか。鳥海氏は、資産運用の基本戦略として「コア・サテライト戦略」を推奨する。

「ポートフォリオの『核(コア)』となる部分と、その周りを固める『衛星(サテライト)』の部分に分けて考える戦略です。まず資産の70~90%を『コア(守り・土台)』とし、S&P500やオルカンで安定リターンを目指します。
残りの10~30%を『サテライト(攻め・スパイス)』とし、『世半導株』のようなテーマ型ファンドで、コアを上回るリターンを狙うわけです」(鳥海氏)

この戦略のポイントは、サテライト(攻め)が失敗しても、大部分のコア(守り)が資産全体を守る点にある。では、具体的な「コア・サテライト」の割合はどう決めるべきか。鳥海氏は「年齢」と「利益」という二つの軸を提示する。

一つ目は「年齢」に応じた調整だ。 「20代や30代ならリスク許容度は高い。例えばコア80%・サテライト20%と『攻め』の比率を多めに取れます。40代、50代と年齢を重ねるにつれ、その割合を10%、5%と減らし、コアの割合を増やしてリスクをコントロールします」(鳥海氏)

二つ目は「利益分」で攻める方法だ。これは元本をリスクに晒さず、精神的な安定にもつながる。

「例えば、S&P500の500万円が800万円に増えたら、利益は300万ほどです。この利益の一部、例えば50万円をサテライトに投資します。元本ではなく『利益』から捻出することで、余裕を持って効率よく資産を回せます」(鳥海氏)

それぞれのファンドをなぜ選ぶのか、自分の言葉で語れるようになったとき、資産形成は「なんとなく」から「戦略」に変わる。この記事が、その一歩を踏み出すきっかけになれば幸いだ。


※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買や投資を推奨するものではありません。

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら
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