「サナエノミクス」で株式市場が好調な一方、「いつ暴落してもおかしくない」という声も強い。そんな中で、富裕層のあいだでは、今の"株高"をあえて家族への贈与のチャンスと見る動きが出てきている。
その背景には、株式の贈与にだけ認められている独特の「評価ルール」の存在がある。贈与税は1月1日~12月31日の暦年課税で、年末に一度リセットされる仕組みだ。だからこそ、「年内にどう動くか」で、将来の負担や資産の残り方が大きく変わってしまう可能性がある。
「制度のルールに沿ってきちんと設計すれば、資産承継の効率は大きく変わります」──そう話すのは、大阪と和歌山を拠点に保険代理店を運営する、カムイ株式会社 代表取締役・片山美典氏だ。事業者の事故やトラブル対応、損害賠償、リスク管理の現場を長く見てきたプロとして、これまで数多くの相談に向き合ってきた。
今回は、そんな片山氏に、保険代理店の現場で培った「万一に備えること」と「お金をどう引き継ぐか」という視点から、「評価ルール」で押さえておきたい基本、年末までに考えておきたい実務のポイント、思わぬ損をしないための注意点を語ってもらう。
○なぜ「急騰した株」が贈与に有利なのか
一般的には「株価が上がれば、贈与する資産の価値も上がり、そのぶん税金も重くなる」と考えがちだが、実はここに税務上の「評価ルール」がある。家族へ上場株を渡すとき、贈与税の算定に用いる株式の「評価額」には特別な取り扱いがあるのだ。
株の評価方法は、本来は「贈与した当日の終値」で決まる。ただし、贈与する側に有利になるように、その月・前の月・前々月の終値をそれぞれ平均した「月平均株価」も候補にできる。
つまり、当日の終値と3つの月平均、あわせて4つの価格のうち、いちばん安いものを選べる仕組みだ。この「評価ルール」を使った株式贈与プランのメリットについて、片山氏はこう説明する。
「仮に、5月から急騰した銘柄(5月平均7588円)が、7月1日(贈与日)に時価10790円になったと仮定しましょう。7月1日に1000株(時価1079万円)を贈与する場合、通常は時価1079万円を評価の基準とします」(片山氏)
ところが、この制度を使えば、評価単価は最安の「前々月(5月)の月平均7588円」を選べる。評価の土台が圧縮されるため、税額には大きな差が生じるのだとか。
以下は、特例贈与(※親や祖父母からの贈与を想定)で計算したシミュレーションの一例(※基礎控除110万円を前提とする)。
(A)現金をそのまま贈与する場合
・贈与額(時価):1079万円
・課税価格:1079万 − 110万 = 969万円
・贈与税:約200.7万円
(B)株式(評価ルール)で贈与する場合
・税務上の評価額:7588円 × 1000株 = 758.8万円
・課税価格:758.8万 − 110万 = 648.8万円
・贈与税:約104.6万円
このように、同じ「時価1000万円超」の資産にもかかわらず、手法一つで税額が約96.1万円も圧縮されるのだ。
○手続きは月初に行おう。評価の"使える期間"は短い
この株式贈与のプランについて、「相場は読めない。急いで動くのは危険だ」という意見が聞こえてきそうだが、最大の決め手はタイミングだと強調する片山氏。
「理由は、過去の月平均株価を使える期間が短いからです。割安だった『5月』の月平均は、『7月に行う贈与』までしか使えません。名義書換や贈与契約書の作成に数週間かかる前提で、狙う月があるなら"月初に着手"するのが基本方針です」(片山氏)
次は贈与額の決め方だ。基礎控除の110万円以内に収めるというのが通説だが、「評価ルール」を使えば贈与税はかからず、原則として申告も不要だ。
「最も低い月平均株価で評価できれば、評価額という"母数"を下げられます。税額の急増を抑えつつ、時価ベースでは大きな資産を移せます。実務の流れは、(1)贈与契約書を取り交わす → (2)双方が同じ証券会社で口座を用意 → (3)名義書換 → (4)受贈者が翌年に申告・納付、の順です」(片山氏)
ここで、片山氏が特に警戒するのは「名義変更中の株価下落」。手続きに数日~数週間かかる間に相場が急落すると、受け取る資産価値が目減りする恐れがあるのだ。対策として「同じ株数を贈与者が信用売り(空売り)して下落分を相殺する」案が有効だが、次の点で注意が必要とのこと。
「信用取引には金利や貸株料などのコストがかかり、執行リスクもあります。相場が思惑どおりに動くとは限りません。ヘッジが逆に不測の事態を生むこともある。迷うくらいなら無理に"使わない"という判断もよいでしょう」(片山氏)
○富裕層だけじゃない。110万円枠でも使えます
この株式贈与プランは、贈与税対策としてはたしかに強力な手段だろう。ただし、いくつか気をつけたい点もある。
「NISAはあくまで新規の『購入』を対象とした制度であり、贈与された株式を直接NISA口座へ移管することは認められていません。したがって、贈与を受ける際は、まず通常の課税口座で受け取る必要があります」(片山氏)
次に、「受け取ったらすぐに売って現金化してもよいか?」という疑問も生じるかもしれない。これには、贈与契約書や名義変更手続きの後の受贈者の意向の確認などが必須のようだ。
「贈与者が形式的な手順だけを踏んで即座に現金化すれば、税務署から 『実質は現金贈与だ』と見なされる恐れがあるからです。体裁と手順を外してしまうと、このプランの狙いそのものが台なしになりかねません」(片山氏)
また、「すでに保有している含み益のある株でも使えるか?」という問いについても可能だが、ここにも落とし穴がある。
「値上がりした株を渡した場合、受け手は贈与者の 『取得価額(=元の購入価格)』をそのまま引き継ぎます。そのため、将来受け手がその株を売却する際、譲渡益(=売却益)が非常に大きくなり、結果として将来の税金が重くなるリスクは見落とせません」(片山氏)
こうした話を聞くと、「結局、資産を持つ富裕層だけの話では?」という冷めた見方もあるかもしれない。だが、片山氏は、この仕組みがそうした層だけのものではないと語る。
「年110万円の非課税枠でも、この評価ルールは活用できます。たとえ贈与予定の株が急騰して時価120万円になっても、当月・前月・前々月の月平均終値が十分に低ければ、税務上の「評価額」を110万円未満に抑えられる可能性があります。結果として、時価120万円でも非課税で移せる余地が生まれます」(片山氏)
つまり、これは富裕層だけの特権ではなく、基礎控除110万円を賢く最大限に活用したいと考える人にとっても、知っておく価値のある仕組みなのだ。
○税制は"生もの"、今年の正解は来年の不正解かも
今回、片山氏に紹介してもらった株式贈与プランは、税法のルールをきちんと踏まえた、筋の通った資産承継の方法だ。とりわけ相続税・贈与税の負担が重い日本では、「相続が起きてから」ではなく、生前のうちに手を打っておく意味が、これまで以上に大きくなっている。
「とはいえ、こうしたテクニックだけに頼るのは危険だと考えています。私が強調したいのは、『うまい話ほど慎重に』という点。急騰局面ではボラティリティが高く、急落は常に起こり得ます」(片山氏)
贈与したあと、「いつ売るか」まで考えておかないと、ふたを開けてみれば「高値のときに贈与しただけ」で終わってしまうこともある。なぜなら税制は"生もの"で、毎年の改正によって前提条件が変わるからだ。
「今年と同じルールが、2026年もそのまま使える保証はありません。それに、自己判断だけで動くのは、地図も案内もない街を歩くようなものです。まずはご自身の資産全体をきちんと整理し、信頼できる税理士と『何を、どう備えるのか』を一緒に考えてほしいですね」(片山氏)
「仕組みを知り、感情で判断せず、出口まで設計する」。この三点を外さない贈与だけが、激動相場と変わる税制を生き抜く術なのだ。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘や、投資・税務・法的な助言を目的としたものではありません。また、特定の銘柄を推奨するものでもありません。
西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら











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