「最近の若手社員が何を考えているのか、さっぱりわからない」――これは、長年上司世代が抱える共通の悩みかもしれません。しかし、社会環境が大きく変化する現代において、Z世代と呼ばれる新入社員の持つ価値観や行動は、これからのビジネスを加速させる大きな「強み」になり得ると考えます。


自身の業務に加え、新入社員の育成を担う管理職や先輩社員は、これまでの「当たり前」を押し付けるだけでは、彼らのポテンシャルを引き出すことはできません。新入社員が育った環境を理解し、その特性を活かしたコミュニケーションと育成方法を探っていくことが不可欠です。

本連載では、新入社員の特性を理解し、AIや音声解析といった最新技術も活用しながら、彼らが生き生きと活躍できる環境をどう創るか、そのヒントをお届けします。

前回は、Z世代が抱える「電話対応の不安」と、コールセンターが直面する構造的な課題について解説しました。今回は、その課題を解決し、管理者と新入社員の双方の負担を減らすAIの具体的な活用例を紹介します。

「隣で聞かなくても大丈夫」管理者の負担を減らすAI機能
○リアルタイム文字起こしで的確なサポートを実現

コールセンターで新人が実務に取り組む際、これまでは新人が架電するタイミングで上司が同席し、隣でアドバイスをするといったOJTが中心でしたが、相手の受け答えがわからないため、的確なアドバイスが難しいといった課題がありました。

リアルタイム文字起こしを活用することで、通話音声を聞かなくても、文字起こしから状況を把握することができ、感情論ではない客観的なアドバイスが可能になります。また、長時間通話のアラートが出ている通話に対して、リアルタイム文字起こしを確認し、担当者に指示を出したり、上司が対応を代わったりすることができます。これにより、管理者は、通話の「監視」から解放され、ロールプレイングやキャリア面談など、より付加価値の高い業務に時間を使えるようになります。
○話し方スコアと議事録作成でタイパ向上

音声解析AIで発話速度、沈黙、フィラー(あのー、えーとなど間を埋める言葉)などの話し方をスコア化することで、属人化しがちだった指導を客観的なデータに基づいたものに標準化することができます。話し方のスコアに応じて、生成AIがアドバイスを作成する機能を提供するツールもあるので、「すぐにフィードバックを得て成長したい」というZ世代のニーズを満たし、セルフコーチングを促進することもできます。

また、AIが文字起こし内容をもとに要約を作成する「議事録作成機能」を活用することで、タイパを重視するZ世代の後処理時間を大幅に削減できます。
議事録作成により、上司も通話の録音を全て聞き返したり、新入社員に確認をしなくても、効率的に内容の確認を進めることができます。
Z世代の不安を解消する「リアルタイム・アシスト」

AIを活用することで、Z世代の「タイパ重視」「失敗回避志向」「デジタルネイティブ」といった特性に合わせた即時性と安心感のあるサポートを行うことができます。
○検索のように即時解決!リアルタイムFAQ機能

AIがリアルタイム文字起こしのキーワードに基づいて、関連するマニュアルやFAQを表示する機能です。この機能は、彼らが得意とする「検索」と同じように即座に答えにアクセスでき、「間違えたらどうしよう」という不安をその場で解消し、安心感に繋がります。
○ヘルプサイン機能で心理的安全性アップ

リアルタイムFAQを活用しても問題が解決しない場合に備え、困った時に上司に通知を出す「ヘルプサイン機能」を取り入れることで、「いつでも助けを呼ぶことができる」という心理的安全性が高まります。
納得できるフィードバックと評価基準のアップデート
○1日5分、良かった点をマイクロ・フィードバック

毎日5分でいいので「今日の良かった点」と「次に改善できる明確な行動1つ」に絞った「マイクロ・フィードバック」の時間を設けましょう。これにより、彼らが求める「論理的で納得感のある成長プロセス」を明確にし、日々の小さな承認と成長体験を提供することで、自律的な成長意欲を引き出します。

○「透明性」の高い公正な評価基準へ

従来の対応件数や解決率だけでなく、音声AIで可視化されたデータを活用しましょう。リアルタイムFAQを活用した「自己解決力」や、文字起こしを活用した「論理的な説明ができているか」といったプロセス評価を導入し、評価への公正さと、納得感に基づく高いエンゲージメントを担保します。

このようにAIを活用して応対内容を可視化し、データを評価に活用することは、彼らの「透明性」への欲求を満たし、「公平な評価のためのデータ」としても機能します。

コールセンター業務へのAIの活用は、単なる業務の効率化だけでなく、Z世代にとっても安心して働きやすい環境として大きなメリットがあります。Z世代の強みであるデジタルリテラシーと効率性を最大限に引き出す環境を整えることは、組織全体の生産性向上にもつながります。


AI導入時のポイントについては、過去の解説記事もご参照ください。

中村 有輝士 なかむら ゆきのり BPOコールセンターに10年間勤務。オペレーター、スーパーバイザー、マネージャー、営業など一通りの業務を経験。その後、外資の証券会社で、日本にある営業部門とシンガポールにあるカスタマー部門をマネジメント。2020年7月よりRevCommに参画し、カスタマーサクセスのマネージャーを経て、コールセンター向けプロダクト「MiiTel Call Centerプロダクトマーケティングマネージャーを担当。福岡県在住。 この著者の記事一覧はこちら
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