キリンビールは、11月13日、市内ブルワリー11社を中心に、横浜市や横浜市観光協会・横浜商工会議所・横浜ハンマーヘッドと連携し、「Yokohamaクラフトビールアソシエーション」を発足した。「クラフトビールと言えば横浜! と言われる街を作る!」というビジョンを掲げた取り組みで、官民が連携して横浜のクラフトビール文化の発信を進めていく。


発足と同時に、同社のクラフトビールブランド「SPRING VALLEY BREWERY」の新シリーズ「BREWERS LINE」の立ち上げと、その先駆け商品である「SPRING VALLEY BREWERY #0」の発売を発表した。

○クラフトビールの市場状況と課題、成長に向けて

キリンビール クラフトビール事業部長の大谷 哲司氏は、まず国内クラフトビール市場の現状を共有した。日本のクラフトブルワリー数は900社を超え、「足元では1,000に近いのではないか」という声もあるという。ビール市場全体に占めるクラフトビールの構成比(※金額ベース)は現在約3%で、飲用に関する興味・関心は20代、30代など若年層で特に高いと説明した。

キリンビールは2030年に構成比を5%まで引き上げる目標を掲げているが、その一方で、「クラフトビールってよくわからない」「どう飲めばよいのかわからない」と感じる層が一定数いるという。

こうしたなか、クラフトビールの市場をさらに成長させていくには、ブルワリー単体の努力だけでなく、業界全体での連携や協力が必要だと大谷氏は指摘した。ブルワリー同士の情報交換や相互の品質支援に加え、飲食店・量販店・スーパーマーケットなどとの接点づくり、さらには行政や生産者、地域コミュニティとの協働など、さまざまなステークホルダーが関わりながら取り組みを進めていくことで、業界全体の活性化につながる。大谷氏は「クラフトビール市場はそうした取り組みが必要になるステージにある」と語った。

○Yokohamaクラフトビールアソシエーションの発足背景と目的

続いて「Yokohamaクラフトビールアソシエーション」発足の背景と目的について、大谷氏と横浜市 政策経営局シティープロモーション推進室長の貝田 泰史氏がそれぞれの視点から説明した。

大谷氏はまず、横浜が日本でも有数のブルワリー集積地であることに触れた。横浜には開港期から続く長いビールの歴史があり、1870年にはスプリングバレー・ブルワリーが誕生。1907年にキリンビールが創業し、1926年には現在の生麦へと工場を移転している。
こうした背景から、横浜は日本のビール産業の発祥の地として知られている。

さらに市内には、多種多様なクラフトビールを購入できる店舗が点在しており、クラフトビール文化がすでに深く根付いている地域だと説明。一方で、「官民連携が十分ではなく、こうした資産を生かし切れていないのではないか」と感じていたと語った。

続いて貝田氏は、行政側の視点を説明した。横浜には多様な魅力があるものの、「横浜といえばこれ」と明確に打ち出しきれていないという指摘をこれまで多く受けてきたという。そのなかで、「他都市と比べて横浜は違う」と示せる資源として、歴史的背景を持つビール・クラフトビール文化に着目。これを生かしたプロモーションによって、街のブランド力を高めていきたいと考えていたと述べた。

こうした両者の考えのもと、「クラフトビールと言えば横浜!」と言われる街を目指し、横浜市民に愛され、日本や世界に誇るCraft Beer Cityを実現する「Craft Beer City Yokohama 構想」が描かれてきた。また、この取り組みを本格化させるため、キリンビールと横浜市は10月24日に連携協定を締結。両者の連携協定は今回が初となる。

さらに大谷氏は、市内ブルワリーとともに取り組みを進めるべく、今回の「Yokohamaクラフトビールアソシエーション(以下、アソシエーション)」を立ち上げるに至ったと説明した。アソシエーションには、11のブルワリーが会員として参加。
サポーターとして横浜市、横浜市観光協会、横浜商工会議所、横浜ハンマーヘッド、キリンビールが参画している。

具体的な取り組みは「ヒトづくり」「モノづくり」「コト・場所づくり」の3つの幹で進められる。横浜クラフトビールマップの作成、ブルワリーの育成、ブルワリー間のコラボレーション、そして新たなイベントの共催などが計画されており、市民がクラフトビール文化に触れる機会を増やしていく。

○キリンビール×横浜ビール醸造所 トークセッション

トークセッションでは、横浜ビール醸造所 代表取締役の高橋智己氏と大谷氏が、横浜の街とクラフトビールへの思いを語った。

高橋氏は、横浜市民としての実感として「横浜は『いい街だね』と言われる一方で、『何がいいのか』を具体的に言葉にしづらい部分もあった」と振り返り、そうした魅力をより明確に伝えられるような取り組みができないか考えていたという。

そうした中でアソシエーション立ち上げの打診を受けた当初を振り返り、「初対面にもかかわらず、会話の端々から本当にビールが好きなんだという思いが伝わってきた」と話し、「ビールが好きという共通項があれば、大手か中小かという境界は簡単に越えられる」そう感じられたことが、今回のアソシエーションに参画する後押しになったという。

品質面について、キリンビールが主催する会に参加する機会があるとし、「中小規模のブルワリーでは持ちにくい設備がある中で、データを元にした見解などを共有していただいたり、ディスカッションさせてもらえるのは非常に有効な価値があり、ありがたい」と述べ、連携のメリットを強調した。

最後に高橋氏は、「美味しい、ビール好きだ、楽しい、と感じてもらえる世界観を、横浜の方々と、キリンビールさんと一緒に広げていけたら」と語り、アソシエーションの取り組みが今後発展していくことの期待を示した。

○「SPRING VALLEY BREWERY #0」を数量限定発売

発表会では、アソシエーションと並行して、SPRING VALLEY BREWERYブランドの新シリーズ「BREWERS LINE」も紹介された。

キリンビールでは、クラフトビールを「作り手の創造性が生む多様な美味しさで、人生の楽しみが広がるビール」と定義している。新シリーズ「BREWERS LINE」は「ブリュワーが今飲みたい・造りたいビールをつくる」という考えのもと、横浜工場内の小規模醸造所を「SPRING VALLEY BREWERY横浜」と改称。1ロット5,000L規模の小ロット醸造で、本工場では扱いにくい原料や、手間をかけての製法にも挑戦していく。


シリーズの先駆け商品となる「SPRING VALLEY BREWERY #0」は、スパークリングワインのような味わいを目指したビール。ビールの主原料(麦芽・ホップ・酵母・水)を守りつつ、ビール酵母ではなくワイン酵母を使用し、マスカットのようなフルーティーな香りを引き出している。

キリンビール マーケティング部 商品開発研究所の亀岡 峻作氏は「SPRING VALLEY BREWERY #0」について、「BREWERS LINEシリーズの幕開けを祝うイメージで作っている。この商品を先駆けとして、これからクラフトビールと横浜を一緒に盛り上げたい」と語った。

筆者も実際に試飲をしたが、想像していたビールの枠を超えたフルーティーな香りと甘みが印象的だった。苦味が強いビールが得意でない人でも手に取りやすい、新しいタイプの味わいだと感じた。

「SPRING VALLEY BREWERY #0」は、11月18日より横浜エリアの一部量販店とECサイトを中心に、約2万本の数量限定で発売される。

○クラフトビールをきっかけに、街の魅力を発信

今後の展望については、2028年ごろまでを見据えたロードマップが示されている。まず2026年には、クラフトビアマップの発信やイベント開催などを通じて、横浜市民にクラフトビールの存在や魅力をしっかりと届けていく。2027年には、ブルワリー同士のコラボレーションによる新商品の展開など、横浜発のクラフトビール文化を体感できる取り組みを継続し、市民や観光客の間で構想が浸透している状態を目指す。そして2028年には、クラフトビールを目的に横浜を訪れる人を増やし、クラフトビールが街に人を呼び込む存在となることを視野に入れている。

こうした取り組みは、クラフトビールをきっかけに街の魅力を発信し、地域への愛着や横浜らしい文化を育てていくことにもつながる。
官民とブルワリーが一体となった横浜ならではの取り組みとして、今後どのような広がりを見せるのか動向が注目される。

小野口 輝紀 この著者の記事一覧はこちら
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