「うまい鰻を腹いっぱい!」をコンセプトにした鰻専門店「鰻の成瀬」は今秋、取り扱う鰻をリニューアルした。このほど「【鰻の成瀬】新鰻お披露目・試食会」が開催され、展開するフランチャイズビジネスインキュベーション社の山本昌弘社長が登壇。
鰻業界におけるワシントン条約の影響や養鰻領域での AI 活用について、トークセッションで語った。

○世界最大級の養鰻グループも登壇

海外産のニホンウナギ(ジャポニカ種)を使った単一メニューなどによって、リーズナブルなうな重の提供し、うなぎ業界の国内最大チェーンに成長した鰻の成瀬。店舗数の増加や不良などによるウナギの供給リスクの分散のため、2024年8月以降は「並」と「特上」を加えるかたちでメニューを刷新し、数量限定で国産養殖うなぎを使用したメニューの提供なども進めてきた。

鰻の成瀬では国産うなぎの提供を拡大させながら、商社から仕入れてきた鰻を養鰻場や加工場から選び、焼き加減やタレ加減などを自社で内製化していく方針を掲げているという。

本会には鰻の成瀬で取り扱う鰻を育てる国内の養鰻場3社(薩摩川内鰻、おおさき町鰻加工組合、山本水産)が登壇。加えて、養殖うなぎの世界シェアNo.1を誇る「天馬グループ」の代表者も登壇した。

中国に70ヶ所ほどの養鰻場を構え、生産量は全中国の3割以上、全世界の約2割を占める「天馬グループ」は、シラスウナギの仕入れから最終製品の生産・品質管理まで、すべてを自社で手掛けるシステムを構築。餌の生産や養鰻、加工、製品の研究開発なども行なっており、昨年完成した新工場は、鰻の加工場としては世界一の規模を誇るという。

より良い鰻を提供できるよう、鰻の成瀬の店舗設備を社内に導入。常に製品の品質チェックできる体制も整備しているそうだ。

「高価な鰻を一般消費者がより日常的に食べられるという理念は、鰻の成瀬さんも我々の会社も同じ。鰻業界で大きな貢献をしている鰻の成瀬さんに、我々の製品を信頼していただけていることを、とても光栄に思います。
より美味しい、健康的で安心できる商品を目指して、今後もさらに頑張っていきたいと思います」(天馬グループのChen Guan Ghui氏)

山本社長を交えたトークセッションで最初のトークテーマになったのは「鰻業界の最新トピック」。うなぎの養殖と蒲焼の加工などを行なっている愛知県の三河水産加工の宮澤氏は、今年から来年の品質状況についてコメントした。

「今年1~4月、中国・台湾・日本といった東アジアで、例年の4~5倍ぐらいの量のシラスウナギが獲れ、各国の養殖場で養殖されています。消費者の方々には鰻が大量に出回るチャンスですし、鰻の成瀬様を含めて鰻を取り扱う企業様にとっても、豊富な鰻と出会える年になるかなと思います」(宮澤氏)

これらの鰻は来年3月・4月ぐらいから本格的に提供されることになるそうだが、大量に養殖すると品質にバラつきが生じやすく、美味しくない製品に出会ってしまう可能性も高まるそうだ。

「供給量は多い中で、いかに美味しいものを調達するか。鰻を取り扱われる企業様が、養殖場や加工場で実際に検品しながら、自ら買い付けることがとても大事になります。それが今年の大きなポイントで、品質にバラつきが出る点は養殖・加工業者として気になるところです」(宮澤氏)
○ワシントン条約の議論が迫る - ニホンウナギへの影響は?

また、山本社長は「鰻の成瀬」のホットトピックとして海外出店の状況を紹介した。

「海外からのお声がけも多くいただいており、11月後半にタイで鰻の成瀬の1号店、12月もしくは来年1月にマレーシアのクアラルンプールでマレーシア1号店が出店予定です。ドバイでもパートナー企業が集まり、出店を目指して店舗を探していく段階で、台湾では現地法人を設立しています。また、韓国でも現地のパートナー企業と出店を進めていく予定です。フランチャイズ規制が日本より厳しい韓国では、この12月で1号店の出店から1年が経ち、FC展開が解禁となります」(山本社長)

本トークセッションでは絶滅のおそれのある野生動植物の保護を目的として、国際的な商業取引などを規制するワシントン条約の影響についても語られた。11月24日から始まるワシントン条約の第20回締約国会議では条約の規制対象としてウナギも議論に上がる。


ワシントン条約で取引規制の対象となってきたウナギにはいくつかの種があり、ヨーロッパウナギに関しては2009年より規制対象とされてきた。今回議論される規制案では、日本で広く食されているニホンウナギを含む、すべてのウナギの種が対象だ。

「ワシントン条約が可決されたときに当然、輸入できるとしても書類関係や工数が増えることで原価率が高騰し、それに伴ってウサギの成瀬での提供価格も上昇するのではないかという質問はよくいただきます」(山本社長)

現状では価格・メニューの変更予定はないそうだが、ワシントン条約の影響などによる将来的な可能性は否定できないという。

「ただ、原産地の中国は日本に輸出したいと思ってくれているし、日本は買いたいと思っていることが1つの安心材料ではあります。そもそも仕入れ先が売りたくないスタンスだと大変ですが、そうではないことは中国側からのお答えとしていただいているので」(山本社長)

最後のテーマは鰻業界とAIの関わり(鰻業界のDX化など)について。宮澤氏は鰻業界に関わらず水産業界で、若い従業員や後継者が育っていない人手不足の問題を指摘。加工場の生産ラインでは機械化がすでに進んでおり、AI活用などで今後さらなる省人化できる可能性もあるが、養鰻場でのAI活用やDX化は非常に難しいと語った。

山本社長も「中国の養鰻場を視察すると、サッカー場くらいの池が100とか200とか広がっていたんですが、中国でも餌やりや池上げ(出荷)は人力で、機械化できるところが少ないと感じました」と、コメント。

「天馬グループさんはどこの池で獲れたのかなどの情報が完全に"見える化"されていて、その部分ではDXが進んでいますし、そこは我々のような仕入れる側からすると安心できるところ。やはり日々うなぎを送るなかで、店舗から『いつもより身が薄い』『泥の臭いが少し強い気がする』といった相談もたまにあるんですが、迅速に原因究明と改善策を考えられる仕組みにはメリットを感じます」(山本社長)

また、海外展開を加速させているなか、国内外の目標店舗数について、山本社長は「そもそも鰻の成瀬を3年前に始めた時もまさか国内で300店舗も400店舗もつくるチェーンになるとは思っていなかったので。基本的に日本でも海外でも、これまでフランチャイズ募集は積極的にしたことがないんですが、海外でも受け身のスタンスで仲間を増やしていきたいです」と述べ、「出店数を目標にはしない」という考え方を強調した。

「そのほうがフランチャイズの加盟店オーナー自身が他責思考にならず、自身の事業として取り組んでもらいやすい。
店舗数を増やして事業を拡大していくというより、どちらかというと養鰻場や加工場の皆さん、フラチャイズの加盟店さんと手を取り合い、良いコミュニティを広げていくかたちで世界進出したいと思っています」(山本社長)

伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら
編集部おすすめ