NTT東日本 長野支店は11月21日、長野県千曲市および県内5企業とともに課題解決型セッションプログラムを開催した。会場となった千曲市市民交流センター「てとて」には各団体から若手ビジネスパーソンが集い、千曲市の課題を通して地域の未来を語り合った。


○課題解決型セッションプログラムから地域課題を考える

地域社会においてさまざまな問題が表面化しているが、多くに共通しているのは少子高齢化だ。人口減少と労働力不足が避けられない現実となっているいま、業種・業態を問わず官民連携を行っていかなければ、地域課題の解決と持続可能な社会の実現は難しいだろう。

そんななかNTT東日本 長野支店は、エムケー精工、信濃毎日新聞、長野県信用組合、長野都市ガス、メディカルケア、そして千曲市とともに、課題解決型セッションプログラムを企画。11月21日にその前期プログラムを開催した。

会場となった千曲市市民交流センター「てとて」には計7団体の若手ビジネスパーソンが集い、千曲市が抱える地域課題をテーマに議論を交わし、新たな事業のアイデアを模索した。

○千曲市が抱える5つの課題からテーマを選ぶ

千曲市 企画政策部 総合政策課の担当係長を務める篠田夏樹氏は、新事業を模索するための前提となる千曲市の課題を、5つに分けて参加者に説明する。

一つ目は「災害に強いまちづくり」。千曲市は日本最長の河川である千曲川(※)流域の街であるだけでなく、糸魚川静岡構造線の断層帯による地震リスクを抱え、2019年の「令和元年東日本台風」においても被害経験がある。ゆえに「避難場所・避難所の確保」、地域防災力の向上、消防団員の減少と高齢化は大きな課題だ。

(※長野県では「千曲川」、新潟県に入ると「信濃川」と名称が変化する)

二つ目は「地域公共交通の確保」。人口減少に伴い「バス・タクシー運転手の確保」が難しくなり、高齢化に伴い「移動困難者に対する公共交通のあり方」に変化が求められている。同時に、物価上昇に伴う「運行経費の増大」も課題として挙げられる。


三つ目は「子育てしやすいまちづくり」。千曲市は「こどもまんなか」宣言を掲げ、子育て政策に力を入れている。少子高齢化の影響を受けた課題として、「幅広い年齢の子どもと親が楽しめる場の創出」「小児科・産婦人科等の医療機関の不足」「オンライン等による子育てに関する情報発信と相談環境の整備」が求められている。

四つ目は「DXの推進」。人口減少のなかで人手不足を補うためにデジタル活用は欠かせない。窓口での受付・相談業務を見直す「フロントヤード改革」を始め、SNSを活用する「市民向けプラットフォームの構築」、「オープンデータの利活用」が課題となっている。

五つ目は「若者や女性に魅力的な街づくり」。千曲市は転入者が増加傾向にあるが、地域との繋がりが薄く「住むだけの街になっている」という問題がある。また若い女性や子育て世代の「自分に合った仕事が見つかりにくい」、若者が意見を言える場が少なく「若者や女性の声・アイディアが街に届きにくい」という課題もある。

篠田氏は、「これらの内容はあくまで課題背景として考えられるものの一部ですので、ワークショップではこの内容に縛られず、自由に議論してほしい」と締めくくった。
○異業種の同世代がアイデアを出し合ったワークショップ

ここからはワークショップの時間だ。6つのグループそれぞれがテーマを選定。
次に各グループに一名ずつ配置された千曲市職員に現状を伺いつつ、千曲市の状況について理解を深めていった。

続いて、テーマに沿った課題の深掘りに入る。各グループテーマに対して感じたことを整理するために、模造紙に付箋を貼り付けながら“エンパシーマップ”を作成。さらに課題の当事者であるペルソナ(仮想ユーザー)を設定することで、ターゲットユーザーを明確にしていく。そして、ペルソナの課題を解決するためのアイデアを考え、千曲市に提案する新事業として固めていった。

課題解決型セッションプログラムに参加されたみなさんに、今回のプログラムに参加した感想を伺ってみよう。

千曲市 企画政策部 情報政策課 DX推進係 主任の仲俣椋介氏は、「課題のひとつにDX推進というテーマがあり、DX担当として声がかかり、民間の方とお話しする貴重な機会と思って参加しました」と参加したきっかけについて話す。

仲俣氏の参加したチーム「バックグラウンド」はIT系のサポート分野からの参加者が多く、それがチーム名のきっかけとなったという。

選んだテーマはやはり「DX推進」だ。とくにフロントヤード改革が議題の中心となっており、市民目線からの受付・窓口業務簡略化を目指してアイデアを捻り出していた。

「今回課題に挙げたDX推進は、まさに私の業務でもあります。チームのみなさんからは、行政だけではなかなか思いつかないような意見も挙げてもらえました。
それを持ち帰って、これからの千曲市のDX推進に役立てていきたいなと思っています」(千曲市 仲俣氏)

信濃毎日新聞社 マーケティング局 営業部の藤森なつき氏は、「所属長から今回の交流会について参加を打診され、県内の若手社員の方と意見交換できることに魅力を感じたため参加しました」と参加のきっかけを語る。

藤森氏が参加したチーム「アクティ部」は外向的な趣味を持っている人が多く、それがチーム名の由来となったそうだ。

選択したテーマは「若者や女性に魅力的な街づくり」。メンバーはいずれも市外在住であり、「どういう街だったら千曲市に転入したくなるか」という切り口から、魅力的な街づくりに繋がるこのテーマを選んだという。

「会社では同世代だけで集まる機会は本当に少ないので、このような場はとても新鮮です。商品設計って“自社でできること”から考えがちで、『県内にどういう人がいるか、どういった困りごとがあるか』という視点から設計していくやり方はあまりありませんでした。とても参考になったので、この方法を日頃の業務に活かしたいと思いました」(信濃毎日新聞社 藤森氏)

参加者はこの後、約2カ月間にわたり、前期プログラムで設定したテーマについて検証・フィールドワークを踏まえてアイデアのブラッシュアップを行う。その後、2026年1月16日に長野県長野市で行われる後期プログラムにおいて考えた新事業が発表される予定だ。
○NTT東日本と千曲市にプログラムの目的を聞く

NTT東日本 長野支店は、2023年から地域課題解決に向けて異業種間連携を深めるプログラムを実施しており、2024年度は長野県信濃町にて第二回となる「異業種理解プログラム」を実施している。

これに続き、千曲市と連携して行われたのが、今回の課題解決型セッションプログラムだ。多くの自治体には似通っている課題があるが、置かれている状況はそれぞれ異なる。自治体と連携することで課題を我が事化し、リアリティを持って課題について考えることが必要とNTT東日本は考えた。


NTT東日本 長野支店 ビジネスイノベーション部 ビジネス企画担当 担当課長の村瀬輝光氏は、取り組みの目的について次のように述べる。

「長野にいる若手社員のみなさまに、地域の課題をしっかり理解し、異業種と触れあうことで視野を広げていただくことが一番の目的です。プログラムを通して、将来の長野を支えられる人材になってほしいなと考えました」(NTT東日本 村瀬氏)

多くの人にとって、日常の業務の中で知り合える業種は限られる。若手社員が普段出会わない人たちと交流を深め、それぞれの立場から意見を交わすことで、千曲市には新たなアイデアを、参加する若手社員には新たな知見と人脈を提供するのがプログラムの狙いだ。

「1社だけで考えたものではなく、各方面のプロフェッショナルが意見を持ち寄って解決策を考えれば、そこからシナジーが生まれてくると思っています。そのアイデアから、実際に千曲市さまの課題解決に繋がる具体的な施策が出てきたらとても嬉しいですね」(NTT東日本 村瀬氏)

この考えに賛同し、意見交換の場を提供したのが千曲市だ。千曲市 企画政策部 総合政策課 政策推進係 主幹を務める牧野高敏氏は、取り組みへの期待を語る。

「若者同士で意見交換ができるのは本当にいい緊張感があり、大変素晴らしい機会だと考えてます。今回のワークショップを通じて、若手職員・社員のみなさまが新たな人脈を形成し繋がりを広めていくこと、あるいはそれぞれが担当している業務以外のテーマについて自分視点で考えアイデアを出していくスキルを身につけることに期待しています」(千曲市 牧野氏)

今回のプログラムはNTT東日本 長野支店の提案からスタートした。千曲市は「若者の声をしっかり受け止め、我々ベテランがそれに応えていく」という体制作りを進めるために必要な取り組みだと判断し、今回手を挙げたという。

「若手職員には、今日出会った同じ若手の方々としっかり繋がりを作っていただいて、テーマや課題を共有しながら、目指す方向性を自分たちで考えて、意見としてしっかり我々に伝えていただきたいですね」(千曲市 牧野氏)

2026年1月には後期プログラムが開催され、参加したグループが提案する新事業がそれぞれ発表される。千曲市はこの提案内容をしっかりと吸い上げ、市の総合計画の中のひとつとして参考にする予定だ。


「テーマのひとつにもありましたが、若者や女性に魅力的な街づくり、あるいは子育てしやすいまち作りを我々も市長も最優先に考えてます。そういったところを重視しながら、人口減少を緩やかに抑えていけるように課題解決に向けてしっかり方向性を出していきたいと考えています。NTT東日本さんには、地域貢献や人財育成に着目した提案をいつもいただいていますので、引き続き一緒に取り組んでいきたいと思います」(千曲市 牧野氏)

これを受け、NTT東日本の村瀬氏は次のように返答した。

「我々は地域に根ざす企業の一つとして、今後も地域の活性化に尽力していきたいと思ってます。今回の取り組み自体がその一翼であり、若手に刺激を与え、視座を高めて人脈を形成させることで、ゆくゆくは長野県の持続的な発展に繋がっていくことを願っています」(NTT東日本 村瀬氏)
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