上皇陛下の心臓手術執刀経験を持ち、日本屈指の心臓血管外科医として知られる天野篤医師(順天堂大学医学部特任教授)が「健康寿命を延ばす」ことを主眼に、血管と心臓の視点から平易に記した1冊『血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる』(講談社)。この記事では、本書から一部を抜粋してご紹介します。


今回のテーマは『高齢者、とくに65歳以上が受けておきたい突然死から守る3つの検査
』。
○65歳以上も人間ドックでの検査が有用

年齢を重ねた世代がぜひ受けておきたい検査が「人間ドック」です。生活習慣病は加齢とともにどんどん進行していくので、何か症状が出たときにはきわめて深刻な状態になっていた……というのが特徴です。その点を考えると、検査項目が多く、総合的に体の状態を把握できる人間ドックを受けておくのが、結果的にはリーズナブルだといえるでしょう。

また、高度な医療機関は、心臓エコー、CT、MRI(磁気共鳴画像)といった診断機器も性能の高い新しいタイプを備えている場合が多いので、それだけで病気の見逃しがほとんどなくなるといえます。さらに、国際的な医療施設評価機関であるJCI(ジェイシーアイ=ジョイントコミッションインターナショナル)などの病院機能評価の認証を取っている医療機関であれば、診断結果についてしっかりチェックをしないと、電子カルテ上でアラート=警報が出るので、さらに信頼度が高くなります。

65歳以上の高齢世代でも人間ドックは有用です。熊本県で実施された研究では高齢者ほど、検診を受けたほうが救急受診したときの病気の重症度が軽いうえ、入院医療費も少ないという結果が報告されています。つまり、高齢でもしっかり検査を受けておくことが命を守ることにつながるのです。65歳以上になると、正規雇用などで仕事を続けていなければ、自治体が行う健診などを自主的に受けない限り、自分の体の客観的な判断ができません。その点からも人間ドックはおすすめできるのです。ただ現在、人間ドックなどの予防医療は健康保険適用外で、自費で受けなければなりません。
近年、75歳以上の後期高齢者の医療費が問題になっていますが、予防医療も健康保険が適用される制度になれば、結果的に医療費の抑制につながります。ぜひとも国に検討してもらいたいと考えています。
○75歳以上は心臓エコー検査、冠動脈CT、単純CTも

75歳以上の年代では心臓突然死を防ぐためにさらに受けておくべき検査があります。その年代に該当する人は、「自分には動脈硬化性疾患と加齢による心臓弁膜症がある」という前提に立ち、

「何歳くらいになると実際に症状が出ると予測できるのか」
「それらのリスクを考慮して何年ごとに検査を受けるべきなのか」

といった判断をするために検査を受けることが望ましいのです。

受ける検査はできれば3つです。「心臓エコー検査」「造影剤を使う冠動脈CT検査」、また、「心臓から腹部大動脈くらいまでの単純CT検査」も受けましょう。さらに、「ホルター心電図」のような連続した長時間の心電図検査を受けて、発作性の心房細動が出ていないかを確認しておけば間違いありません。たとえば、「COPD(シーオーピーディー=慢性閉塞性肺疾患」などがあって肺が傷んでいると、その分だけ心臓に負担がかかってトラブルが起こるリスクが上がります。また、高血圧があると腎臓の皮質が薄くなって、腎臓機能が徐々に悪化していき、晩年には人工透析になってしまう危険もあります。先ほど挙げた3つの検査をしっかり受けておけば、そうしたリスクまでも把握できます。
○検査でリスクをつかみ、健康寿命の予測ができる

がんの場合、進行した膵すい臓ぞうがんなどでなければ、今は短期間で亡くなることはほぼありません。抗がん剤も進化していて、高齢でも3年や、5年は生きられますし、共存して生きていくこともできます。
しかし心臓や血管の病気は急に発症して、なおかつ行動制限や生活制限が生じるケースが多くあります。これまでお話ししてきた検査をそれぞれの年代でしっかり受けておけば、そうしたリスクがない健康寿命が「どれくらいなのか……」という予測ができ、充実したライフプランを立てやすくなるのです。

○『血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる』(天野篤/講談社)

2025年12月23日、上皇陛下は92歳の誕生日を迎えられます。夏には美智子さまとともに軽井沢近郊を散策されるなど、健やかで穏やかな日々を過ごされています。その上皇陛下は、13年前の2012年2月、狭心症により心臓の冠動脈バイパス手術を受けています。その手術を執刀したのが本書『血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる』の著者で、日本屈指の心臓血管外科医として知られる天野篤医師(順天堂大学医学部特任教授)です。執刀した心臓血管外科手術数は1万例以上。70歳となった現在も難手術に臨む日々を送っていますが、外科医としての実績の一方、予防医学を熱く説く医療者としても定評があります。現在、もっとも力を注いでいるのは、日常生活に制限のない健康な期間をいかに延ばすか、ということです。本書は今を生きる人々の「健康寿命を延ばす」ことを主眼に、血管と心臓の視点から平易に記した1冊です。
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