上皇陛下の心臓手術執刀経験を持ち、日本屈指の心臓血管外科医として知られる天野篤医師(順天堂大学医学部特任教授)が「健康寿命を延ばす」ことを主眼に、血管と心臓の視点から平易に記した1冊『血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる』(講談社)。この記事では、本書から一部を抜粋してご紹介します。


今回のテーマは『サプリメントの「効果」は、改善した生活習慣を定着させる波及効果にある』。
○決定的な効果はほぼないが……

私は生活リズムをきちんと整えることを目的として、普段からサプリメントを使用しています。さまざまなものを試してきましたが、現在は、腸内環境をコントロールするもの、抗酸化作用が認められている補酵素など3種類を飲んでいます。

患者さんのなかにも、サプリメントを飲んでいる人は少なくありません。ただ、やみくもに試せばいいというわけではなく、サプリメントを飲む際は自分なりの「付き合い方」をしっかりと意識しておく必要があります。

まず認識しておきたいのは、サプリメントには「決定的な効果があるものはほとんどない」ということです。もちろん、効果的だとされる成分が含まれていて、一部の試験で良好な結果が得られたものも数多くあります。しかし、これは「どんな人に対しても同程度の効果が確かに認められる」というわけではなく、個人差が非常に大きいうえ、「プラセボ効果」と呼ばれる心理的な効果も影響していると考えられます。サプリメントの広告でよく目にする「個人の感想です。効果には個人差があります」といった「注意書き」のとおりと考えていいでしょう。

ただ、だからといってサプリメントを「怪しげなもの」とばっさり切り捨てるのは間違っています。先ほどお話ししたように効果を実感できる人がいるのは確かですし、自身の健康に対する生活習慣が定着するきっかけにもなるからです。

○サプリメントを飲む習慣が、健康習慣にも波及

サプリメントを常用している人の多くは、「このサプリメントを飲んでからずっと調子がいい。中断すると調子が悪い。これには再現性がある」と感じています。そういう人たちにしてみれば、サプリメントは効果があるものという考えになり、長く続けるモチベーションになります。逆に「本当に効果があるのだろうか?」と半信半疑で飲んでいる人は、たまたま商品の到着が遅れたタイミングがあったり、飲み忘れるなどして途切れると、そのままやめてしまうケースがほとんどでしょう。そうなると、サプリメントは効かないという発想になるものです。

サプリメントはコツコツと長期にわたって続けることで、なんらかのプラス効果を期待できるといえます。私の身近にも、抗酸化作用が認められているビタミンCとビタミンEのサプリメントを40年以上も飲み続け、今も若々しく活動的な80代後半の男性がいます。コツコツと続けてきた結果、やっぱり飲んでよかったと感じているでしょう。

長く続けるということは、サプリメントを定期的に飲む習慣が身につくということで、この習慣はさまざまな健康習慣にも波及していきます。たとえば、偏った食事内容を見直すようになったり、定期的に運動するようになったり、病院から処方されている薬を忘れることなくきちんと服用するようになったり……。サプリメントの定期摂取が契機となり、さまざまな側面から健康に注意を払うようになり、結果的にプラス効果につながるのです。

○「おかしいな」と感じたらすぐに中止する

また、サプリメントは自発的な健康管理のなかで、もっとも手軽で簡単な作業のひとつです。最近、大手スポーツジムが、自分の都合のいいタイミングで好きなようにフィットネス設備をセルフで利用できるシステムを低価格で提供しています。これらを活用して健康管理を実践することに比べると、毎日サプリメントを飲むのは、はるかに手軽で体への負担も少なく継続しやすいといえます。

とはいえ、サプリメントのなかには驚くほど高価なものがあるのも事実です。個人的な考えですが、私は同じ種類のサプリメントがあれば高価なものを選びます。意図的に出費することで、「無駄にならないようにきちんと飲まなければ」と強く意識して、適切な摂取習慣が確立できるからです。サプリメントと正しく付き合っていくには、実感できる効果と、それに見合った価格かどうかをしっかり見定める必要があるでしょう。

もうひとつ、サプリメントと付き合ううえで注意すべきポイントは、「何かおかしいな」という異変を感じたらすぐに中止することです。記憶に新しいところでも、製薬会社が提供した紅麹由来のサプリメントを飲んでいた方々に、大きな健康被害が広がる出来事が起きました。せっかく始めたのだから……などと様子を見ながら漫然と続けることはせず、スパッとやめて早い段階で医療機関に相談してください。
○多剤服用の人にとっては体への負担でしかない

また、さまざまな持病があって、朝、昼、夜と普段から10種類近く薬を服用している人は、それにプラスしてサプリメントを飲むのは体への負担でしかありませんから、やめたほうがいいでしょう。そこまでではなくても、定期的に飲んでいる薬がある人がサプリメントを始めるときは、飲み合わせで相互作用が出ないかどうか、主治医に必ず相談してください。
たとえば、クロレラ系のサプリメントは、血液をサラサラにする抗凝固薬の効果を減弱させてしまいます。降圧薬の効き目を増強させて血圧を下げすぎてしまう危険があるサプリメントもあります。 

サプリメントと適切に付き合ってプラスにするためには、
「信じる者は救われる」
「継続は力なり」
 という言葉と、その真逆に位置する、
「触らぬ神にたたりなし」
「おかしいなと思ったらさっと引く」
――というような言葉の使い分けを意識することが大切です。

○『血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる』(天野篤/講談社)

2025年12月23日、上皇陛下は92歳の誕生日を迎えられます。夏には美智子さまとともに軽井沢近郊を散策されるなど、健やかで穏やかな日々を過ごされています。その上皇陛下は、13年前の2012年2月、狭心症により心臓の冠動脈バイパス手術を受けています。その手術を執刀したのが本書『血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる』の著者で、日本屈指の心臓血管外科医として知られる天野篤医師(順天堂大学医学部特任教授)です。執刀した心臓血管外科手術数は1万例以上。70歳となった現在も難手術に臨む日々を送っていますが、外科医としての実績の一方、予防医学を熱く説く医療者としても定評があります。現在、もっとも力を注いでいるのは、日常生活に制限のない健康な期間をいかに延ばすか、ということです。本書は今を生きる人々の「健康寿命を延ばす」ことを主眼に、血管と心臓の視点から平易に記した1冊です。
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