プロ野球チーム「北海道日本ハムファイターズ」の本拠地である、エスコンフィールドHOKKAIDO。野球の試合がない日でも5,000人前後、土日には1万人近くが足を運び、年間400件以上のイベントが開催されている。
天然温泉やサウナ、ホテルやレストラン、キッズエリアなど多彩な施設が併設されており、もはや“球場”の域を超えた大規模複合空間で、北海道の新たな人流拠点として成長している。

こうした巨大な空間を裏側から支えているのが北海道電力だ。同社は、電気・ガス・水の調達や空調設備の導入、飲料水・雑用水の供給設備、発電設備、芝の地温管理など、球場運営に不可欠なエネルギー関連施設をまとめて担っている。今回は現地を訪れ、北海道電力 バリューマーケティング部 エネルギーソリューション室 ソリューション事業グループ 担当副長 小森昭さんに、事業の概要や運用について話を聞いた。

○膨大かつ変動幅の大きいエネルギー需要

エスコンフィールドHOKKAIDO(以下、エスコンフィールド)の延べ床面積は約12万平方メートル。選手がプレーするフィールドや観客席のほか、多様な施設が点在しており、空調や照明、音響などさまざまな用途で多くのエネルギーを必要とする。

特に特徴的なのは、空調需要の変動の大きさである。屋根の開閉やデーゲーム・ナイターといった試合条件、外気温、来場者数などによって冷暖房負荷が大きく変化するという。小森さんは「エスコンフィールドは負荷変動が非常に大きく、試合の3時間で空調のエネルギーが一気に跳ね上がる」と説明しており、特殊なエネルギー運用が求められることがわかる。

さらに、芝の地温管理、冬季のロードヒーティング、飲食店への給湯、天然温泉・サウナ施設など、用途によって必要な熱量は異なる。

○初期投資を軽減 - 北海道電力のエネルギーサービスとは

エスコンフィールドの建設計画が始まった当初から、同社は初期投資費用が削減できる「エネルギーサービス」を提案。このサービスでは、同社が電気・ガス・水の調達ならびにエネルギー関連設備を導入・運用し、エスコンフィールドを運営するファイターズスポーツ&エンターテイメント(以下、ファイターズ)側は使用量に応じてサービス料金を支払う形となる。


「エネルギー関連設備の大部分が当社の資産です。ファイターズさん側は初期投資を抑えつつ、必要な設備を安定して利用できるようになります」と小森さん。この仕組みにより、ファイターズ側は設備管理の負担が軽減され、球場運営により集中できる。さらに、保守・点検にかかる費用が毎年安定することも大きなメリットだ。

さらに同社は、球場と北広島駅を結ぶEVシャトルバス向けに急速充電器サービスを提供しており、周辺交通も含めた広い意味でのエネルギー支援を行っている。

○電気・空調・水処理を一体で運用

北海道電力が導入した設備は大きく「電気」「空調・熱」「水処理」の3分野に分類でき、いずれも相互に連携して球場全体を支えている。

電気設備では、特別高圧で受電し、球場全体へ電力を供給する受変電設備が設置されている。照明や飲食店設備、空調が同時に稼働する試合日は特に負荷が大きく、万が一の停電に備えて非常用発電機も配置されている。小森さんは「試合時など負荷の高いタイミングに備え、定期点検を欠かさず行っている」と説明する。

次に空調・熱源設備。空冷ヒートポンプチラー、ガスボイラー、コージェネレーションシステムなどを組み合わせ、冷房・暖房・給湯・融雪に必要な温水や冷水を供給している。試合日は高負荷に対応する設備を優先し、非試合日は効率の良い電気式設備を中心に稼働させるなど、状況に応じた運用を行う。
芝の根元を一定温度に保つための配管やロードヒーティングの熱源もこのシステムが担っている。

水処理設備としては、球場外に2本の井戸を掘り、地下水を浄化してトイレの水や散水に利用している。飲料水用の貯水タンクや、球場全体に水を送る大型ポンプも同社が導入。井戸水活用により、上水道購入コストの削減も図られている。

エスコンフィールドで稼働する設備は専門性が高く、運用には高度な知識が必要である。同社はファイターズと共同で常駐管理会社を選定し、日常の巡回や点検を委託している。一方で、同社は情報通信技術(ICT)を活用し、遠隔で設備の状態を常時把握し、異常があればすぐに通知される体制を構築している。

さらに、日々の運転データを収集・分析し、省エネ運用の最適化にも取り組んでいる。小森さんは「毎月ファイターズさんと運用状況を確認しながら、省エネに向けた調整を行っている。初年度からエネルギー使用量は着実に下がっています」と説明する。
○球場運営を裏側でサポート

空調、給湯、融雪、電力、水処理――。エスコンフィールドでは、こうした設備が一体的に運用されることで、観客が一年を通して快適に過ごせる環境がつくられている。
同社は単なるエネルギー供給にとどまらず、「省エネ・低炭素化」や「災害に強い安定供給」、「地域とともに成長する街づくり」を掲げ、持続可能な地域づくりにも取り組んでいる。

今後、エスコンフィールド周辺では2028年のJR新駅の開業をはじめ街づくりがさらに進んでいく。同社はこうした発展に向けて、エネルギーの面から“地域循環型の街づくり”を支えていく考えだ。
編集部おすすめ