岩手県盛岡市は、高齢者が世代や場所を問わず取り組むことができる特性を持つeスポーツを体験し、生きがい創出・健康づくりの推進を目的とした「高齢者eスポーツ体験会」を実施した。
盛岡市が開催した「高齢者eスポーツ体験会」は、盛岡市在住の65歳以上の高齢者を対象としたもので、令和7年度分については、2025年6月より開始し、7月・9月・10月・11月に計5回を実施。
「高齢者eスポーツ体験会」では、eスポーツとしてドライビングゲーム(『グランツーリスモ7』)と太鼓のリズムゲーム(『太鼓の達人』)が用意されたほか、タブレットを使った脳トレ系のゲーム、さらに、QRコード読み込み体験などを実施。5回目ということで、リピーターも多かったが、今回が初参加という方も、スタッフの手厚いサポートのもと、ゲームを楽しんだ。
また、作業療法士として、もりおか小林整体院の小林先生を招き、体操や健康的な生活に向けてのアドバイスなども行われた。「生きがいづくりや健康の増進がこの活動の裏テーマ」と話す小林先生は、ゲーム前には頭と目の体操、ゲーム後にはクールダウンとして腰と肩の体操、さらには転びづらくなる体操などを指導。「生活の中にこういったゲームや運動の習慣を取り入れれば、長く楽しい生活が十分できます」との言葉を贈った。
○eスポーツを通じて高齢者の介護予防
「今回のeスポーツ体験会は、高齢者の介護予防事業の一環」という、盛岡市 保健福祉部 長寿社会課 課長の村田仁氏。村田氏は、「高齢者が心身ともに健康でいるには社会参加が欠かせない」と述べる。盛岡市でも体操教室やサロンを開いてきたが、従来型の介護予防教室では女性が大半を占め、男性の参加が少ないという課題があった。
また、65~74歳のいわゆる前期高齢者の参加が少ないという課題もあり、盛岡市は令和5年度に住民向けアンケートを実施。その結果、「従来型では少し参加するのに抵抗がある」という声が寄せられたことから、新たな施策として「eスポーツ体験会」を始めることになったという。
以前から高齢者福祉にeスポーツを活用するアイデアはあったものの、高齢者とeスポーツの組み合わせには不安もあったと村田氏は振り返る。
その後、盛岡市 保健福祉部 長寿社会課 主任の羽田公彦氏が現在の担当に就いたことで、「体験会を実施できる体制が整った」と判断し、公募型プロポーザルを実施。全国から5社が応募し、最も評価の高かったNTT東日本 岩手支社が企画・運営を担うことになった。
一方、当初は若年層をターゲットにしたeスポーツイベントを検討していたという、NTT東日本 岩手支店 ビジネスイノベーション部 地域基盤ビジネス担当の千葉由美子氏。しかし、ゲーム依存の問題などでなかなか進展しにくい現状を見据え、フレイル予防などの観点から高齢者に向けたeスポーツの活用に舵を切り、それがちょうど盛岡市の考え方と一致したことが、今回の「高齢者eスポーツ体験会」に繋がった。
「高齢者eスポーツ体験会」は今年度で2回目。昨年度は12月~2月に3回開催したが、準備期間の短さから周知が十分にできず、定員20名×3回に対し延べ37名の参加にとどまり、「正直、物足りなかった」と羽田氏は振り返る。
そこで本年度は広報を強化。その結果、昨年同様に各回20名の定員で5回開催し、延べ89名が参加した。抽選が必要なほど応募が集まり、実際の応募者は100名を大きく超えたという。羽田氏は、広報強化に加え、2年目による口コミの広がりが奏功したと分析する。また、従来型では約8%だった男性の参加率が5割を超え、前期高齢者の参加も増えたことから、「集客面では大成功だったのではないか」と笑顔を見せた。
千葉氏は「今回は男性参加者が多く、リピーターも多かった」と話す。実際、「一度参加して楽しかったので、また応募しました」という声が多く、毎回同じ内容にならないよう、QRコードの読み取りでは毎回異なるコンテンツを用意した。盛岡市の災害情報やクマの出没マップなど、飽きずに楽しんでもらう工夫も凝らしたという。
男性参加やリピーターの多さについて、羽田氏は「男性はテーマ無しの会話が苦手な一方、女性はテーマがなくてもコミュニケーションが取れる傾向がある」と指摘。その点、eスポーツという明確なテーマが男性の参加を後押ししたのではないかと見解を示す。また、男女問わず「参加者は新しいもの好きで、好奇心旺盛な方が多かった」とも語った。
実際に体験会の運営を行ったNTT東日本 岩手支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当の堀江智洋氏も「『この表示は何?』『どこでブレーキを踏めば良いの?』といった質問を体験会中に多くいただきました。皆さんが知識を吸収し、タイムやスコアが伸びていく様子を見ると、本当に良い取り組みだと感じました」との感想を述べる。
今回の体験会では、『グランツーリスモ』や『太鼓の達人』など、eスポーツイベントで定番のタイトルを採用した。堀江氏は「高齢者への最初のアプローチとして実績のある最適なタイトル」と説明する。ただ定番を選んだだけではなく、高齢者がプレイしやすいコースや車種、楽しめる楽曲やテンポを選定するなど、NTT東日本が培ってきた知見も活かされた。
今回は初参加者がすぐに楽しめることを重視した一方、堀江氏は「固定メンバーで5回、10回と実施する場合は、コントローラーを使う『ぷよぷよ』のように成長や達成感が得やすいゲームが後半は特に喜ばれる」とも紹介し、ゲーム選定にはさらに広い可能性があると示した。
全5回の体験会を終え、羽田氏は「率直に良かった」と笑顔を見せ、参加率の大幅な向上に安心感を示す。昨年度より参加者が増えたのは、高齢者がデジタルデバイド解消の入口として本体験会に価値を感じたためで、「非常に効果的だった」と振り返る。
昨年度は“eスポーツを知ってもらうこと”が主目的だったが、今年度は「介護予防としてのeスポーツ」を掲げ、作業療法士や理学療法士を招いて動機づけや生活に役立つ助言を行った点も高く評価。「準備運動やクールダウンの意味を丁寧に伝えていただき、介護予防としての要素が強まった」と述べると、堀江氏も「フレイル予防など健康意識を高める機会として、昨年度よりバージョンアップできた」と続けた。
村田氏は、この体験会の目的として、【1】楽しい時間の共有による社会参加の促進、【2】成功体験を通じた生きがい・モチベーション向上、【3】反応・運動の繰り返しによる情報処理能力や注意力の向上と脳の健康維持の3点を挙げ、「これらは短期間でも達成されつつある」と評価。継続に向けた期待も示した。
さらにNTT東日本への協力に感謝し、「より多くの会場で当たり前に実施できる仕組みを整えたい」と語ると、堀江氏も「NTTe-Sportsなどと連携し、盛岡市でもどこでもeスポーツが楽しめる環境を提供していきたい」と応えた。











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