米動画配信大手Netflixは12月5日(現地時間)、米メディア大手Warner Bros. Discovery(WBD)の映画・テレビスタジオ部門およびストリーミング事業を買収することで最終合意したと発表した。

買収総額は、WBDが抱える負債を含めた企業価値ベースで約827億ドル(約12兆8000億円:1ドル=155円換算)に達する見込みである。
完了すれば、100年以上の歴史を持つハリウッドの名門スタジオと、ストリーミング革命を牽引してきた新興の巨人が融合する、メディア業界の歴史を塗り替える大型再編となる。

今回の買収により、Netflixは世界的な人気を誇る強力なコンテンツ資産(IP)を手に入れることになる。Warner Bros.は「ハリー・ポッター」シリーズ、「バットマン」や「スーパーマン」などのDCコミックス作品、「フレンズ」「ビッグバン★セオリー」といったテレビシリーズ、さらにHBOの「ゲーム・オブ・スローンズ」など、数多くのヒット作を保有している。また、「カサブランカ」「理由なき反抗」など数々の歴史的名作を制作しており、加えて「オズの魔法使い」や「2001年宇宙の旅」などMGM旧作の権利を管理する部門も同社傘下にある。

Netflixのテッド・サランドス共同CEOは、「Warner Bros.の豊かなライブラリーと、我々の文化を形づくる作品群を統合することで、次の100年のストーリーテリングを定義できる」とコメントしている。

今回の買収は、WBDを解体・再編する形で進められる。合意によれば、WBDは買収完了前に、ニュース専門局CNNやスポーツブランドTNT Sports、ディスカバリーチャンネルなどを含む「Global Networks部門」を分離し、「Discovery Global」として独立上場させる計画である(2026年第3四半期完了予定)。分離後に残る映画製作・テレビ番組制作部門および動画配信サービス(HBO Max)が、Netflixの傘下に入る。

今回の買収はNetflixにとって、自社制作だけでは補いきれない豊富な作品ライブラリーを一挙に獲得する戦略的転換点となる。合意に至るまでには複数企業による競合があったと報じられている。ParamountやComcastも名乗りを上げ、Warner Bros.の資産を巡り入札競争が展開されたとされる。

買収手続きは、規制当局や株主の承認を経て、今後12~18カ月以内に完了する見通しである。


ただし、この巨大合併に対して業界内から強い警戒感が示されている。現在、Netflixの世界会員数は3億人を超えており、HBO Maxを統合することで会員数は4億2000万人規模に達し、競合他社との差がさらに広がる可能性がある。これに対し、反トラスト法(独占禁止法)の専門家や業界団体は、競争阻害の懸念を理由に異議を唱えている。また、脚本家組合(WGA)は、巨大企業による統合は「雇用の喪失、賃金の低下、消費者の負担増につながる」として合併阻止を訴える声明を出した。映画館業界団体Cinema Unitedも、ネット配信を主軸とするNetflixのビジネスモデルは映画館興行と相容れないとして、「前例のない脅威」と非難している。

Netflix側はWarner Bros.作品の劇場公開を継続する姿勢を示しているものの、規制当局の承認が得られるかが最大の焦点となる。CNBCによれば、規制当局の反対などで買収が不成立となった場合、Netflixは58億ドル(約8990億円:1ドル=155円換算)の違約金を支払う契約となっている。
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