"お菓子のスタートアップ"として知られる株式会社BAKE(以下、BAKE)。同社の取締役兼CBO(Chief Branding Officer)として活躍するのが北村萌氏だ。
広報からキャリアをスタートした北村氏は、どんな道を歩んで現在に至ったのか。BAKE入社の経緯からリブランディングの背景、リーダーシップ論まで幅広いテーマで語っていただいた。
○広報からCBOへ――コロナ禍のピンチをチャンスに変えたEC事業
――BAKEへ入社する前のご経歴について教えてください。
北村氏:もともとはBtoCのビジネスやリテールビジネスの中で広報やマーケティングの仕事をしていました。経験としては広報が長いです。
――BAKEへ入社したきっかけは何だったのでしょう。
北村氏:広報としてBAKEに入社したのは2016年です。当時のBAKEは"お菓子のスタートアップ"として事業を始めたばかりでした。そんなBAKEの創業者のバックグラウンドや、新しい発想で事業を展開していることに魅力を感じたのが入社のきっかけです。
――新しい発想というと?
北村氏:たとえば小さな店舗で焼きたての商品を提供する「1ブランド1プロダクト」のビジネスモデルや、一次産業と直接つながって原材料を仕入れるといった新しい取り組みです。
――現在の取締役兼CBOという役職に至るまでの流れを教えてください。
北村氏:大きな転換点だったのは2020年に発生したコロナ禍です。BAKEは売上が9割減という厳しい状況に陥り、別の方法を模索する必要に迫られていました。その一つがECサイトの立ち上げです。私はEC事業部長として、事業拡張を担うことになりました。2022年に執行役員兼CBO、そして2024年に取締役に就任しました。
――EC事業の知識や経験はあったのでしょうか。
北村氏:いえ、ECの知識はまったくなくて、「コンバージョン」などの専門用語もぜんぜんわかりませんでした。それは社内も同じで、当時はリアルビジネス中心だったため、ECの知見を持った人がいなかったんです。今でこそECの専門性を持つ人が増えていますが、当時は手探りの状態でした。
――北村さんにとっても新しい挑戦だったのですね。
北村氏:事業に携われるのは嬉しかったし、やってみたいと思っていたことでもありました。個人的に新しいことにチャレンジするのは好きですし、恐怖や不安などはあまり感じないタイプなんです。むしろ変わらないことの方が嫌だと感じます。変化し続けることで自分自身も、そして会社もどんどん成長してほしいと思っています。
――EC事業にはどのように取り組んだのでしょう。
北村氏:どんな顧客体験やサービスを提供すればお客様に選んでいただけるのかを起点に様々な取り組みを行いました。細かいところだと配送の温度帯の調整ですとか、注文から配送までのリードタイムをどう短縮するかなど、ECならではの課題解決に全力で向き合っていきましたね。
○マネジメントの軸は「方向性を示し、余白を残す」
――携わる領域の変化もそうですが、プレイヤーからマネージャーへの転換も大きな変化だと思います。マネジメントの立場になって感じた課題はありましたか。
北村氏:私はもともとプレイヤー気質なんです。だから最初はマネジメントは難しかったですね。
ただ自分自身もチャレンジする環境をもらってきたからこそ今があります。同じようにメンバーにもチャレンジできる環境を作ってあげないといけないと考えるようになりました。結局のところ、自分でやったことしか血肉にならないんですよね。
――マネージャーとして大切にしている考え方はありますか。
北村氏:「方向性を示す」ことがマネジメントとしての大切な仕事だと思っています。メンバーは忙しく、みんな日々の仕事に追われています。そうなると、どうしても短期的に物事を見てしまいがちです。マネジメントの役割はチームに3年後や5年後といった将来の指針を示して、「何のために今この仕事をしているのか」を考えてもらうことなんです。ただし、すべてを決めすぎず、余白を残すことも意識しています。一人の経営者や少ない経営層だけで決めるのではなく、社員みんなで考えることで、たくさんの面白いアイデアが出てくるものだからです。
――理想とするリーダー像やチームづくりで意識していることはありますか。
北村氏:リーダー自身がチャレンジする姿をチームに見せることですね。失敗も含めて「チャレンジして大丈夫なんだ」と思ってもらえる心理的安全性の高い環境を作りたいと思っています。あまり肩肘を張るのではなく、みんなと一緒に歩んでいけるようなリーダーでありたいです。
○「メタモルフォーゼ」でさらなる進化へ――リブランディングの背景
――今回の「BAKE CHEESE TART」のリブランディングで、方針を「1ブランド1プロダクト」から「1ブランド1マテリアル」へ転換されました。狙いを教えてください。
北村氏:「BAKE CHEESE TART」は、専門店という形で販売していたブランドで、今年で11年目になります。「1ブランド1プロダクト」というビジネスモデルで成功を収めてきましたが、それだとどうしても新商品が新しいフレーバーの展開に留まってしまいます。それではたして私たちのビジョン「お菓子を、進化させる。」を達成できるのかというジレンマを感じていました。また将来的にフレーバーを出し尽くしたとき、進化が止まってしまう可能性もあります。
今後10年、20年、30年と愛され続けるブランドになるためには、「1ブランド1プロダクト」を捨て、進化できる道を選ぶ必要があります。そこでチーズという「マテリアル」を軸にさまざまな商品を展開する「1ブランド1マテリアル」へと転換したのです。
――リブランディングでこだわったポイントを教えてください。
北村氏:まずチーズがいろいろな味わいに変化していく「メタモルフォーゼ(変身)」というコンセプトです。角度によって見える色が変わるショーケースを採用したり、同じく角度によって見え方が変わる錯視をロゴに使用したりすることで表現しています。もう一つは「Future(未来)」を意識している点。未来を感じるシルバーをブランドカラーに取り入れ、私たちの未来を作っていくという意思を込めました。
――リブランディングによって、お客さんにどんな体験を提供していきたいですか。
北村氏:チーズにもいろいろな味わいがあります。その日、その時々で違う味わいをぜひ楽しんでいただきたいと思っています。従来の「BAKE CHEESE TART」は焼きたての商品だけでしたが、今後は常温や冷凍・冷蔵の商品も増やし、様々なシーンで使っていただけるブランドを目指していきます。
○キャリアの原点"広報"を軸に未来への挑戦を続ける
――BAKEといえばオンライン主軸のブランド「しろいし洋菓子店」も好評です。「架空のパティスリー」というユニークなコンセプトはどのようにして生まれたのでしょう。
北村氏:「しろいし洋菓子店」はEC事業部長の経験をしたからこそ生み出せたブランドだと思います。
――その他のブランドも含め今後の展望を教えてください。
北村氏:今後も多彩なポートフォリオを作っていきたいと考えています。12月2日には紅茶菓子を展開する新ブランド「TeaDrop.(ティードロップ)」をローンチしました。またECサイトについては「お菓子のプラットフォーム」を目指します。その一環として「CAKE.TOKYO」というメディアとECサイト「BAKE the ONLINE」を統合し、メディアで紹介したお菓子がECサイトで購入できる環境を構築しました。
また一次産業とコラボレーションした「ひとくちのふうけい」プロジェクトも展開しています。当社のEC化率は12%と、食品業界の平均である3~5%と比べてかなり高い水準にあります。自社の会員基盤やSNSを活用したデジタルファンベースを生かしながら、お菓子業界全体を盛り上げていきたいと思います。
――最後に北村さんご自身のキャリアの展望について教えてください。
北村氏:ここまでのキャリアを振り返って思うのは、やはり私の思考回路は「広報軸」だということです。たとえば新しいブランドを作る際も、どんなブランドとして世の中に打ち出したいか、お客様にどう思ってもらいたいか、どんな体験を提供したいかという点から逆算してブランドづくりをしています。
Amazonのゴールから逆算する「Working Backwards」という思考法、が近しいかもしれませんね。広報という観点からいうと、私は「プレスリリース」から逆算したブランド設計をしているようにも感じます。
この広報軸を生かしながら、今後もチャレンジを続けていきたいと思います。明確に「こうなりたい」という姿を描いているのではなく、チャレンジを通じて自分の新たな可能性を見つけていきたいです。
山田井ユウキ やまだいゆうき 2001年からマルコ名義で趣味のテキストサイトを運営しているうちにいつのまにか書くことが仕事になっていた“テキサイライター”。好きなものはワインとカメラとBL。Twitter:@cafewriterサイト:探したら出てきます この著者の記事一覧はこちら











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