麺と湯気の向こうに、世の中が見える……。今のラーメン業界で巻き起こっている新潮流「街ラーメンの進化」を紹介していく連載第2回は、博多豚骨ラーメン「博多一双」監修の鍋スープを実食レポートする。


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○泡系の名店が「鍋スープ」を監修

福岡・博多に本店を構える豚骨ラーメンの名店「博多一双」。“豚骨カプチーノ”の異名で知られる泡系スープの人気店。強火で炊き上げることで生まれる白濁の泡立ったスープは、見た目のインパクトだけでなく、豚骨の旨味を空気とともに舌へ運ぶ独自の設計で、多くのラーメンファンを虜にしてきた。その「一双」が監修した鍋スープがイチビキ社から発売されている。その名も『博多一双鍋スープ 濃厚豚骨味』だ。

○泡こそが“正解”。作り方にも流儀あり

オススメの具材は、豚バラ肉、乾燥キクラゲ、キャベツ、モヤシ、ネギ。完全に博多豚骨ラーメンの文脈に寄せた構成だが、なかでもキクラゲを入れると、視覚的にも食感的にも一気に博多豚骨ラーメンの風景を鍋の中に立ち上がらせてくれる。

作り方は至ってシンプルだ。本品1袋をよく振り、そのまま鍋へ投入して加熱するだけ。ただし、重要なポイントが2つある。まず、パッケージ内側に残った豚脂をしっかりと絞り出すこと。
そして、加熱時に現れる「泡立ち」を気にしないことである。この泡こそが「一双」のスープのアイデンティティであり、取り除いてしまうと再現度が大きく下がる。炊きこぼれだけ注意し、泡はそのままにしておくのが正解だ。火の通りにくい具材から順に入れ、火が通ったら完成である。

ひと口すすれば、博多豚骨の風味が立ち上がる。豚骨の厚みはしっかりとありながら、全体としては実にマイルド。だがボディは軽くない。この優しいのに濃い絶妙なバランスが、鍋スープにふさわしい完成度だ。そして、とにかく旨いのがキャベツ。スープを吸い込んだキャベツの旨さは格別だ。

○〆は“博多豚骨ラーメン”に直行。反則級の二段構成

そして本作のハイライトは、〆にある。
鍋の余韻をそのまま「博多豚骨ラーメン」へと接続できるのだ。ここは妥協せず、博多の細麺を合わせたい。筆者はマルタイの「棒ラーメン」を使ったが、スープとの相性は想像以上に高い。麺を投入した瞬間、鍋はそのまま博多豚骨ラーメンへと変貌する。鍋を食べた後に、もう一度ラーメンのクライマックスが訪れる構成は、正直言って反則級である。

そもそも「博多一双」は、濃厚豚骨の激戦区・博多においても屈指の行列店として知られる存在だ。長時間強火で炊き上げることで生まれる乳化したスープは、泡立ちという視覚的特徴と、豚骨の旨味をダイレクトに届ける力強さを両立させた唯一無二のスタイル。この特徴的なスープが、家庭の鍋商品として再現されているのには驚きである。

博多豚骨ラーメンを「鍋」として味わい、さらにその余韻で博多豚骨ラーメンとして締める。そんな夢のような体験を、ご家庭で完結させてしまうのがこの鍋スープだ。ぜひ一度は体験してほしい一品である。

井手隊長 いでたいちょう 全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。
メディア出演、ラーメンの商品監修など多方面で活躍中。ラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。本の要約サービス「フライヤー」執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。 著書に『できる人だけが知っている「ここだけの話」を聞く技術』(秀和システム新社)、『ラーメン一杯いくらが正解なのか』(早川書房)がある。 ブログ:「隊長日誌(ラーメンミュージシャン井手隊長の日記)」 YouTube:「ラーメンミュージシャン井手隊長の 今3時?そうねだいたいね」 この著者の記事一覧はこちら
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