横浜の市街地を舞台とした、国内最大規模の市民マラソン大会「横浜マラソン2025」が、10月26日に開催された。2015年にフルマラソン化されて以降、今年で10周年を迎えた。


節目となる今年は、湾岸ハイウェイランやペアリレー、みなとみらい7kmラン、ファンランなど多彩なコースを用意。当日はあいにくの雨にもかかわらず、約2万9,000人が出走し大きな盛り上がりを見せた。今回は、「横浜マラソン2025」を終えての手応えや今後の展望について関係者に話を聞いた。

○今年で10周年を迎えた「横浜マラソン2025」

「横浜マラソン2025」について、「コロナ禍前の水準に戻り、過去最多レベルのエントリーがありました」と語る、横浜マラソン組織委員会事務局 広報課・サービス課 課長の秋山勇也氏。“10周年”を前面に打ち出し、プロモーションやブランディング、SNS活用、応援ゲストの充実など“祝祭感”を高めたことが、今回の盛り上がりにつながったと振り返る。

また、ハーフマラソン相当の「湾岸ハイウェイラン」の新設や、「中学生」「車いす」「ファミリー」向けファンランなど、種目の拡充も大きな要因だという。参加のハードルを下げ、より多くの層が楽しめる大会を目指した結果、「節目の大会として、一つの集大成になったのでは」と秋山氏は話す。

さらに、横浜市とカナダ・バンクーバー市の姉妹都市提携60周年を受け、横浜マラソンもカナダ最大のマラソン大会「BMOバンクーバーマラソン」と連携協定を締結。事務局を招いたPRのほか、市民1位の男女、市民に限らない10周年にちなんだ10位の男女、60周年に合わせた60位の男女、計6名に来年5月のバンクーバーマラソン出走権を付与した。「ランナーを相互に派遣し、互いの価値を高める仕組みを作りたい」と秋山氏は説明する。

そのほか、大会前日に「フィニッシュテープを切ってみよう&バックヤードツアー!」といったプレイベントの開催、横浜市庁舎の壁面を使ったプロモーション、豪華な応援ゲストなど、ランナー以外の参加者も10周年を楽しめる企画が盛り沢山となった「横浜マラソン2025」。今回は、コースの詳細や観戦ポイントがわかる「応援マップ」がデジタル化されたことも大きな特徴となった。


「これまでは紙や公式サイトの画像ベースのマップだったので、実際に観戦されている方は、コースの状況や自分の位置などがわかりにくかった」という横浜マラソン組織委員会事務局 サービス課・営業課の関英明氏。今回はデジタル化することによって、自分の位置を確認しながらおすすめポイントで観戦できるというメリットに加え、横浜観光協会のプラチナマップと連携することで、横浜の観光情報にも手軽にアクセスすることが可能となっている。

「観戦される方は横浜市民の方だけではありませんし、横浜市民の方でも土地勘がないと自分の居場所を把握するのは難しい」という関氏だが、今回のデジタル化には「回遊性の向上」も狙いのひとつ。スマホ片手に、マラソンを観戦しながら、最寄りの観光情報も確認できることによって、「今、自分がいる場所の近くにどんな観光スポットがあるかを知ることによって、観戦後に観光スポットも巡ってほしい」との思いが込められており、実際の使用者からの反応にも手応えを感じているという。

また、開催に先立って公開された「横浜マラソン2025 ONLINE EXPO」では、コース紹介動画やプレゼントキャンペーンなどの多彩なコンテンツに加えて、大会当日は「横浜マラソンTV」として、豪華ゲストを迎えての生中継配信を実施。横浜マラソンのONLINE EXPOは、コロナの影響で、現地集合型のイベントが難しいという背景から生まれたものだが、コンテンツの充実に伴い、実際に参加するランナーはもちろん、観戦者、さらには現地での観戦ができない人など、幅広い視聴者を集める一大コンテンツとなっている。

デジタル応援マップやONLINE EXPOについては、大会パートナーでもあるNTT東日本が構築・運用に協力。デジタル応援マップの構築においては、「スマホを使用する方が多いので、スマホでストレスなく画面遷移ができるなど、ユーザビリティを特に意識した」という、NTT東日本 神奈川事業部 ビジネスイノベーション部 まちづくり推進グループの今野華緒氏。

「特に今回は、コースが増えたことにより、応援される方も、いろいろなコースをチェックされると思うので、ストレスなくコースの切り替えができるように設計しました」と振り返る。そのほかNTT東日本では、「横浜マラソンTV」の配信をはじめ、コールセンター業務での交通規制や救護支援カメラでの医師とのタイムリーな意思疎通など、通信が重要となるシーンを中心に、ICTを活かしたデジタル面でのサポートを担ったという。

あらためて大会を振り返り、「横浜マラソンは、横浜の街や一部の首都高速を走れることが大きな特徴となっていますので、そこに魅力を感じていただけたのではないか」という関氏。そして、「とても多くの方が沿道から応援していただけたことも、大会を主催する側として非常に嬉しかった」と笑顔を見せる。


一方、「する」「みる」「ささえる」という観点から、「ランナーの方が楽しく走っていただけることはもちろんですが、一般の道路を使わせていただいている以上、住民の方などの協力も不可欠なので、ランナー以外の方にも楽しんでいただける大会にしたい」との思いを明かす秋山氏。ボランティアで参加した約6,000人にも感謝し、「参加したすべての方が楽しめる大会ができたのではないか」との見解を示す。

また、「我々はもうひとつのテーマとして、“大会当日のにぎわい日本一”を目指していた」と続け、臨港パークのフェスタ会場について言及。「ステージでは、ゲストで来ていただいたEXILEのMAKIDAIさんにパフォーマンスをしていただいたり、横浜市と連携協定を結んでいる縁で、子どもたちに人気の『パウ・パトロール』のショーを行ったり、幅広い層の方が一体となって楽しめる取り組みができたのではないか」と振り返る。

横浜マラソンは、給水所が18カ所も設けられていることも大きな特徴だ。この18という数字は、横浜市が18区であることに由来する数字だが、多くの給水所ではチアリーディングや演奏などの応援パフォーマンスを実施。沿道、そしてランナーと近い位置でパフォーマンスが行えるのも横浜マラソンの特徴となっている。

また、フェスタ会場で『パウ・パトロール』のショーが開催されたように、IPコンテンツとの連携も大会を盛り上げる大きな要素と捉えており、沿道に「横浜アンパンマンこどもミュージアム」がある関係から、アンパンマンによる応援パフォーマンスも披露され、参加者を大いに盛り上げたという。

「幸いなことに、当日はそこまで雨が強くならず、ランナーの方にとってはむしろ走りやすい気温になった」という秋山氏。実際、フルマラソンの完走率も、気温の高かった昨年度の91.3%を上回る94.7%を記録している。

「ただ、フェスタ会場などは少し足を運びづらい状況でしたが、それでもかなりの方に来ていただき、盛り上げていただいた」と、来場者に感謝の言葉を贈る。一方、NTT東日本の今野氏は、「昨年度以上に多くの方に参加いただき、応援マップやONLINE EXPOなどのPV数も伸びているところを見ると、ホームページや広告などでの大会に向けての気運醸成をはじめ、様々なコンテンツの準備などを事務局の方がしっかりとご対応されたことが良い結果に繋がったのではないか」と事務局の労をねぎらった。


関氏は、大会運営をデジタル・通信面で支えたNTT東日本について、「デジタル・通信面は大会運営で非常に重要」と述べ、心強い存在として「今後も長く協力いただけるとうれしい」と感謝を示した。さらに「最先端の知見や技術提案を通じて、横浜マラソンをより良くしてほしい」と期待を寄せる。

秋山氏も、「NTT東日本さんには基地局の設置などで通信環境を改善していただき、大会のサービス向上に大きく寄与いただいた」と通信面の安定が大会の成功に重要であったことを言及。今年は“10周年”という強い訴求があったが、来年度以降は新たな参加動機づくりが必要だとし、「新コンテンツの導入にあたり、NTT東日本さんの知見やアイデアをいただきながら、より良い大会を共に目指したい」と語った。

今野氏は「応援マップ」について、同時期開催のイベントと連動させることで相乗効果を生みたいと説明。さらに、2027年の「GREEN×EXPO 2027」を見据え、「横浜市内の周遊を促せるような提案をしていきたい」と、横浜マラソンを軸に市全体の回遊性向上に繋げる施策の検討を約束した。

秋山氏は「横浜市は10年連続で住みたいまち1位の魅力がある」とし、横浜マラソンを“横浜を走る価値が伝わるブランド”として育てていく必要性を強調。その上で、「GREEN×EXPO 2027」は大きなチャンスと捉え、「他のイベントと連携しながら、横浜の魅力をさらに発信し、高めていきたい」との思いを明かす。

そして、「我々としては、横浜マラソンのブランド価値をさらに高め、横浜マラソンを通じて、横浜の価値も高めていきたい」と今後に向けての意気込みを明かした。
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