第84期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟)は6回戦がスタート。12月10日には2局が行われました。
このうち、名古屋将棋対局場で行われた佐藤天彦九段―糸谷哲郎八段の一戦は96手で糸谷八段が勝利。意表の相振り飛車戦を制して5勝目を挙げ、挑戦権争いに踏みとどまっています。

糸谷意表の相振り飛車


糸谷八段4勝1敗、佐藤九段1勝4敗と明暗分かれて迎えた一局はそれぞれ挑戦と残留に向けた大一番。先手番の佐藤九段が四間飛車に組んだところで糸谷八段の独創的な序盤術が花開きました。16分の考慮で7筋の歩を突いたのは早指しの糸谷八段としては序盤の長考に入る部類で、戦型はまさかの相振り飛車へと落ち着きました。

三間飛車に構えた糸谷八段、囲い合いに利なしと見るや積極的に仕掛けに踏み切ります。1筋の端攻めを敢行したのは、やや強引に見えるものの実戦的な打開策。最序盤の駆け引きで先手が玉側の端歩を突いたことをとがめており、形勢はともかく糸谷ペースの中盤戦となりました。反撃を目指したい佐藤九段ですが、角が自陣で眠っているのが響きます。

飛車を見捨てて怪力発揮


夕食休憩明けから糸谷八段の指し手が冴え始めます。飛車を見捨てて角を攻めの主役に据え直したのが優れた大局観。「角筋は受けにくし」の格言の如く飛車金を射抜いたのは「切り捨て御免!」と言わんばかりの鋭い攻めで、後手優勢がはっきりしました。形勢差は持ち時間にも表れ、早々に一分将棋に追い込まれた佐藤九段に対し糸谷八段は3時間以上を残しています。


糸谷八段の指し手のペースは終盤に入っても落ちませんでした。終局時刻は21時0分、最後は自玉の詰みを認めた佐藤九段が投了。序盤の駆け引きを利用しつつ中盤の怪力で優位に立った糸谷八段の充実ぶりがうかがえる快勝譜となりました。5勝1敗とした糸谷八段は永瀬拓矢九段(5勝0敗)、豊島将之九段(4勝1敗)とともに挑戦権争いを続けます。

水留啓(将棋情報局)
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