東京都では「チルドレンファースト」の社会の実現に向け、子どもの笑顔につながる様々なアクションを展開する「こどもスマイルムーブメント」を推進している。この取り組みの一環として12月13日、東京都板橋区にある帝京中学校・高等学校ではアンバサダーの平井一夫さんによる特別授業が開催された。
テーマは「グローバルリーダーに求められる力」。子どもたちの心には、どのように響いたのだろうか?

○グローバルリーダーになるために

東京都では令和7年度に「こどもスマイルムーブメント」のアンバサダーによる特別授業を全5回開催する予定で、今回はその2回目に当たる。当日は、帝京中学校(インターナショナルクラス)の1年生と、帝京高等学校(インターナショナルコース)の1年生・2年生、あわせて80名超が聴講した。

はじめに、アンバサダーを務める村山輝星さんがビデオ出演。「いまの時代、世界中の人たちと関わるチャンスが増えています。そのなかで大切なのは、自分の考えをしっかりと言葉にして伝える力だと思います」と話し、そのうえで「将来の夢に向かって挑戦する過程では、悩むこともたくさんあります。私もまだまだ挑戦の途中にあり、日々、様々なことを学んでいます。皆さん、一緒に頑張っていきましょう」と同世代の生徒たちに呼びかけた。

このあと平井一夫さんが登壇した。冒頭、平井さんは「いつかは人の上に立ち、リーダーシップを発揮して周りの人を引っ張っていく、自分の企業あるいは国を牽引する、そんなグローバルリーダーには何が求められるのか――。本日は、そんなお話をしていきたいと思います」と話しはじめる。

平井さんいわく、グローバルリーダーには1.「自分軸」があり、2. 高い心の知能指数(EQ / EI)を持ち、3. 多様性を尊重して行動する、ということが求められるという。


「自分軸を持つということは、周りや社会の評価に左右されない、自身の明確な価値観を持つ、ということです。言い換えれば、自分の芯を持つということ。自分は何をイチバン大事にしているのか? 今後、これが物事を判断するときのベースになります。自分の考えを持っていないと、周りに流されますよね。『友だちがこう言っているから、私もそう考えよう』ではなく、『私はこう考えているんだ』としっかり説明できるかどうか。このとき、自分の内面から出てくる感情(エモーション)、感覚(センス)を大切にします。そして人生における目標、目的を常に考えること。自分は5年後、10年後、どんなことをしたいのか? いま、どこに向かっているのか? 将来の進路については、途中で変更しても構いません。たとえば弁護士を目指していたけれど医者に変更する、ということでも良い。良くないのは、未来について考えないこと。目標もなくなんとなく生きている、というのがイチバン良くない状態です」

ここで「人生でいろんなことを経験するうえで、重要だと感じたことがあるので、皆さんにもシェアしましょう」と平井さん。「1つめは優先順位です」とし、続けて「2つめは優先順位です」「3つめは優先順位です」とした。
「このくらい、優先順位が大事ということです。自分はいま、何をしなければいけないのか? この機会にぜひ、自分の人生における優先順位を考えてみてください」。

では、2. 高い心の知能指数(EQ / EI)を持つ、とはどういうことだろうか? これも”グローバルリーダーに求められる非常に重要な要素”だという。「たぶん、皆さんも経験があるでしょう。たとえば何かのアドバイスをされたとき、自分が尊敬している人に言われたら『なるほど』と思いますが、知らない人に言われたら『あなた誰だよ』『あなたにそんなこと言われたくないよ』と思いますよね。だからリーダーとして人と一緒に仕事をしていくには、人に尊敬されることが大事になります。いかに英語ができても、仕事ができても、知識があっても、尊敬されていなかったらリーダーとして何も活躍できません。それでは、人から尊敬される人物になるにはどうしたら良いか? 一般的に『心の知能指数』が高い人は人間関係が良好で、周囲からも尊敬を集めると言われています。でも心の知能指数って、どうやって上げていけば良いのでしょうか? 」。

「ひとつは自己認識です。どんなことが起こると、自分は喜び、あるいは悲しむのか? どんな分野が得意か? 何が足りていて、何が不足しているのか? 自分のことを客観的に理解してください。そして自己制御。
どんなことで怒るのか? 落ち込むのか? リーダーになったとき、飛び込んでくるBad Newsにいちいち怒っていたら、人間としてリスペクトはされません。また、社会的な認識も大事。ちょっと前にはKY(=空気が読めない)なんて言葉が流行りましたが、ビジネスにおいても相手の感情・気持ちを考えてコミュニケーションをとることが大切です。最後は、関係管理。人と人が協力し合ってはじめて仕事は前に進み、会社は大きくなります。人間関係のマネージに気を配ります」

また、重ねて「肩書きで仕事をしないでください。1人の人間として尊敬されているあなたが、たまたまCEOという肩書きを持っていて、皆んなが同じ方向を向いて仕事ができている。それが理想です。まずは人間として尊敬されること。それが真のリーダーに必要です」と説いた。

最後に3. 多様性を尊重して行動する、については「皆さんも普段から、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)については話し合われていることでしょう。この話をするときに、私はよく『同意しないことに同意する:Agree to Disagree』というフレーズを用います。
これは議論の中で意見が食い違ったとき、相手を論破するのではなく、私とあなたでは見方がまったく違うけどそれで良いじゃない、と認め合う考え方です。私はあなたが言っていることに絶対に同意できないけれど、あなたがどうしてそう言っているのかはよく分かる。だから、私が言っていることに同意しなくても良いけれど、意見としてはちゃんとリスペクトして欲しい、と。組織としては、違う意見が出るから強い、ということもあります。皆さんは、多様性の一丁目一番地としてAgree to Disagreeを覚えておいてください」と紹介した。

世界中のどんな富豪が、いくらお金を出しても買えない素晴らしい「時間」という資産を皆さんは持っている、と平井さん。「私も今月65歳の誕生日を迎えます。私も、皆さんから時間を買いたい」と冗談で笑わせつつ「時間があるということは、いろんなことを勉強する、体験する、やってみる、試してみる、それだけの時間があるということです。たとえ失敗しても、やがて成功に導くだけの時間がある。これを有効活用してください。時間は資産ですので、絶対に無駄遣いしないこと。目的もなく何となく生きるのではなく、未来を見据えながら、時間を有意義に使ってほしいと思います」とまとめた。


最後に質疑応答の時間がもうけられ、平井さんが生徒たちの質問に回答した。高校1年生の女子生徒から、大きな決断をするときに大切な心構えについて聞かれると「リーダーになると、様々な場面で決断を迫られます。私がよく言うのは、イチバン良い決断は正しい決断、これは皆んながハッピーになりますね。2番目は間違えた決断、それは間違いだったと気付けるからです。間違えたなら軌道修正すれば良い。最も良くない決断は、決断しないこと。どこに向かうわけでもなく、ずっとホバリングして停滞してしまう。リーダーには決断力が求められますので、何も決めないという判断は避けた方が良いです」。

高校2年生の男子生徒からは、資本金がない、人脈もない状態からAIを使ってビジネスを始めるにはどうしたら良いか、という質問。これに平井さんは「まずはAIの使い方に関してですが、人間が議論する際にAIには新たな視点に立った選択肢を提示させる、という使い方があります。セカンドオピニオンとしてAIを使うことで、経営の質が向上します。ちなみに世の中には、すでに取締役の1人をAIが務める企業も出てきています。
さて資本金も人脈もないということですが、まずは人脈を作りましょう。スタートアップを始める前は、いかに仲間を集められるか、が勝負だと思います。飛行機って、長い滑走路が必要なんです。仲間を集め、資金繰りができて、はじめて離陸できる。物事は準備が大切です。もちろん夢を追うのは素晴らしいこと。まずは現実的に仲間を集め、資金を調達することをオススメします」と話す。

同じ生徒から、スタートアップが生き抜いていく方法を聞かれると「大事なのは『これはあなたの会社にしかお願いできない』という強みを持つことです。競合他社がひしめき合うレッドオーシャンに飛び込むと差異化できずに苦しむので、まずは技術的、あるいは価格的、または何かしらの優位性を持つこと。はじめに、これを社内で徹底的に議論して決める。そしてマーケティングでは『私たちのサービスは、こんなところがユニークなんです』とアピールする。すると『一緒にビジネスをしたい』というパートナーができ、会社の知名度も上がってくるのではないでしょうか」と回答した。

最後に、生徒たちが「これから挑戦したいこと」を発表する「挑戦宣言リレー」を行った。高校1年生の女子生徒は「グローバルに活躍できる看護師を目指しています。来年1月からは海外に留学して様々な価値観や文化に触れ、グローバルな場所で人々と交流してきます。将来は、海外にルーツのある患者さんに対応できる看護師になります」と宣言。これに平井さんは「明確なゴールがあって素晴らしいと思います。ぜひ多国籍な文化、人種、宗教、いろんなバックグラウンドのある方々と交流して、日本の文化もしっかり伝えられるようになってほしい。この先、様々な場面で人と意見の食い違ってくることもあると思いますが、お互いの主張をリスペクトし合って、良い人間関係を築いていってもらえたらと思います」とエールを送った。

近藤謙太郎 こんどうけんたろう 1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。 この著者の記事一覧はこちら
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