円安はそろそろ止まるのか。それとも、まだ続くのか。
2025年12月17日現在、ドル円相場は1ドル=154円台後半と、年初の140円台から円安基調が続いています。こうした中、為替の行方を左右する最大の焦点が、18・19日に開かれる日銀の金融政策決定会合です。日銀が政策金利を0.5%から0.75%へ引き上げれば円高方向に振れる可能性がある一方、見送りとなれば円安がさらに進むリスクもあります。

一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は10日のFOMCで政策金利を0.25%引き下げ、3.50%~3.75%としました。雇用市場の弱含みを意識しつつも、2026年に1回の追加利下げを見込んでいます。こうした日米の政策スタンスが、円安の行方をどう左右するのか考察します。
○FOMCの結果とドル円への影響

まず、FOMCの結果を振り返ります。FRBは今年3回目の利下げを実施しましたが、パウエル議長は会見で「労働市場が予想以上に弱含んでいる」としつつも、追加利下げには慎重姿勢を示しました。

議長は「政策は中立(neutral)のレンジ内」にあり「追加利下げまで時間がかかる」と述べ、当面の様子見姿勢を明確化。一方で、失業率4.4%のさらなる悪化への警戒や、非農業部門雇用者数は「実質-2万人」との認識を示し、短期的にはタカ派・中期的にはハト派という二面性のある内容となりました。

さらに、物価圧力の後退も強調され、米株式市場はダウ平均が約500ポイント上昇するなどポジティブに反応しました。また、ドル円は10日終値で156円ちょうど近辺と小幅安にとどまりました。
つまり、2026年1月の利下げ見送りが確定的となりドルが支えられる一方、緩和的な市場調整(短期国債買い入れ)が発表されたことで、USDJPYはレンジ相場の色彩が強まりやすくなっています。
○日銀の政策と円相場

日銀の動向も円安トレンドの鍵を握ります。日銀は10月の会合で新政権の影響を見極めるため政策金利を据え置きましたが、12月の利上げ期待が急速に高まっています。上述のようにエコノミストは全員0.75%への引き上げを予測しています。

背景にはインフレの持続があります。10月のコアCPI(消費者物価指数)は前年比2.8%上昇と、日銀の2%目標を上回っています。加えて円安による輸入物価の上昇がインフレ圧力を強めています。植田総裁も「物価目標2%の達成に着実に近づいている」「12月の会合では利上げについて適切に判断していきたい」と述べ、追加利上げを示唆。政府も今回はこの動きを容認する姿勢を見せています。

○市場データからみる円安圧力

12月に入り、ドル円は5日の154.35円を底値に、10日には156.94円の高値をつけました。変動幅は約2.4円と最近のレンジ(150~160円)内に収まっていますが、円安基調は維持されています。

前述のとおり、FRBが一定期間利下げを停止するとの見立てがある一方で、日銀の利上げは織り込み済みとの見方が強く、中立金利の推計を公表しないとの報道も相まって、足元の材料からは相場を大きく動かしにくい状況にあると考えられます。


ただし、日銀が実際に利上げを行えば、利回り差縮小により円買いが加速する可能性は残ります。実際、2024年7月の日銀利上げ時にはドル円が160円台から150円台へ急落したケースがあり、今回も市場の反応が注目されます。
○円安トレンドの先行き

短期的には19日の日銀会合が重要な転機となる可能性があります。利上げが実施されれば、ドル円は153円割れを試す展開が予想されます。市場のインプライド・ボラティリティ(予想変動率)は会合前後で1%以上の変動を織り込んでいます。

一方、利上げが見送られれば円安再燃のリスクが高まり、160円台回復も視野に入ります。米国側では、FRB新議長の選任がドル安を促し、円安トレンド転換に向けた流れを強める可能性があります。有力候補の一人とされるハセット米経済諮問会議委員長はこのところ、「利下げの余地は十分にある」との発言を繰り返しており、今後の市場影響が注目されます。
○中長期の構造要因

中期的には、米国の物価高止まりに伴う利下げペースの鈍化や、日銀の段階的な利上げが焦点となります。一方、中長期的には、AI投資が米国経済を押し上げる構造変化と、日本の恒常的なデジタル赤字の拡大が円の下押し圧力となる可能性があります。さらに、高市政権がアベノミクス的な政策運営を継続すれば、市場は中長期的な通貨安リスクを織り込みやすくなります。

IMFの最新見通しでは、2026年の日本GDP成長率を0.6%と予測 (0.1%上方修正)し、賃金上昇が消費を下支えするとしています。
しかし、円安による輸入インフレが家計を圧迫すれば、景気後退リスクも無視できません。投資家はこうしたマクロ要因を慎重に見極める必要があります。
○結論

円安トレンドは当面、日米金利差の縮小待ちという状況が続きます。FOMCの利下げはドルの上値を抑え、日銀の利上げ期待は円を下支えするという構図が続きますが、その実現度合いが鍵です。企業や個人投資家は為替ヘッジを徹底し、19日の日銀金融政策決定会合やFRB新議長選任の行方を注視する必要があります。

円安の行方は政策当局の着実な実行にかかっています。不確実性が高い市場環境では、ファクトに基づく冷静な判断が損失を最小限に抑えるでしょう。

藤田行生 SBI FXトレード株式会社 代表取締役社長。神奈川県相模原市出身、中央大学経済学部卒業。改正外為法施行後の1999年から国内黎明期のFX事業において主に外国為替ディーラーとして従事。2008年5月SBIグループでの本格的なFX事業立ち上げのため、SBIリクイディティ・マーケット(株)の設立に尽力。為替ディーリングやシステムなどの責任者を務め、2020年6月SBIリクイディティ・マーケット(株)取締役副社長に就任。
その後SBIグループのFX専業会社である、SBI FXトレード(株)代表取締役社長に就任し、現在に至る。 この著者の記事一覧はこちら
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