農作物への被害をもたらす鳥獣害や、養鶏農家にとって深刻な鳥インフルエンザ対策。その現場で、ドローン技術を活用した新しいアプローチが登場した。


NTT e-Drone Technologyが10月に提供を開始した鳥獣害対策ドローン「BB102」は、レーザー光を用いて鳥類を近づけない仕組みを備えた新しいソリューションだ。

本稿では、千葉県で行われた飛行デモの様子を紹介するとともに、補助金採択の背景や現場の声、そして今後の展開について、NTT東日本およびNTT e-Drone Technologyの担当者に詳しく話を聞いた。

鳥獣害対策ドローン「BB102」飛行デモレポート

10月21日、NTT e-Drone Technologyが提供する「BB102」の飛行デモが行われた。同社の農薬散布ドローン「AC102」をベースに開発された同機は、機体下部に地域総研が開発したレーザー照射ユニット「クルナムーブ・スイング」をマウントしている。

デモでは、まず赤と緑の2種類のレーザー光が照射される様子が紹介された。緑色の光は鳥類が強く反応する波長で、視覚刺激として認識されることで、忌避効果がある。

一方、赤色の光は鳥類が“虫の動き”として捉えやすく、注意を引きつける役割を担う。レーザーのパターンは万華鏡のように変化し、鳥類が光に慣れてしまうことを防ぐ工夫も施されている。

レーザーはJIS規格の「クラス3R」に準じており、人体に影響のない安全基準のなかで運用できる点もポイントだ。使用者が立ち入り禁止区域を設定する必要がなく、農家や自治体でも扱いやすい。

また運用面では、誰でも扱いやすい自動運行の仕組みも特徴だ。飛行経路は、GPS地図上で「開始地点」と「終了地点」を指定すると自動航行する。


デモでは、プロポの画面上に飛行ルートが表示され、屋根上など人が確認しづらいエリアも上空からカメラで把握できることが説明された。

機体は14.9kg(レーザー装置・バッテリ含む)と軽量で、「女性1人でも持ち運べる重さ」としている。軽量化によってバッテリーへの負荷が減り、より長時間の運用が可能だ。

アームをたたまずに軽トラに積載できるサイズ感で、現場でも扱いやすい。また、離着陸時の事故を防ぐための「離着陸アシスト」機能も備えており、ワンタッチで安定した離着陸を行える点も特徴だ。

実証事例として紹介された神奈川県内の養鶏場では、1カ月のうち8日間、1日あたり3時間の飛行により、集まっていた多数のカラスが“ほぼ0羽"まで減少。1カ月後でも数羽程度にとどまり、一定期間の定期運用で効果が持続することが確認された。

千葉県の補助金採択の背景

続いて、「BB102」の導入背景や千葉県における補助金制度、今後の展開について、NTT東日本 千葉事業部 ビジネスイノベーション部 まちづくり推進グループの笹谷絵美氏と川越鉄也氏、NTT e-Drone Technology サービス推進部 普及部門の鈴木久美氏に話を聞いた。

千葉県では2025年初頭に大規模な鳥インフルエンザが発生し、330万羽以上が殺処分対象となるなど、対策強化が急務となっていた。こうした状況を受け、県は鳥インフルエンザおよび鳥獣害対策を目的とした「緊急対策の補助事業」の検討を進めていた。

NTT東日本 千葉事業部は当初、「社会インフラ点検へのドローン活用」をテーマに行政とのコミュニケーションを進めていたが、その過程でNTT e-Drone Technologyから「鳥獣害対策ドローンをサービスイン予定」という情報が共有されたと川越氏は説明する。ちょうど鳥インフルエンザ被害が大きかった時期と重なっていたことから、千葉県への提案につながったという。


笹谷氏は当時の状況を振り返り、「スピーカーを使っての音の対策、防鳥ネットというものは全てやっていた中で、もう打ち手がないと聞いていた。抱えている課題にマッチしているのではということでドローンを提案したところ、『ぜひ活用してみたい』という声をもらった」と語った。

その後、「BB102」は2025年7月に行われた外部有識者による検討会で効果・安全性の評価を受け、補助事業で活用可能な機器として正式に位置付けられた。

これにより、千葉県内での導入においては、導入費用の3分の1の補助を受けられる機器として扱われている。補助申請は個々の農家から直接ではなく、自治体や関連団体を通じて申請する運用となっている。
活用の可能性広がる「BB102」

ユーザーからの要望を起点にした「BB102」の機能拡張の検討も進んでいる。養鶏場の屋根や外壁に消石灰水を散布して“処熱"対策を行う案(白くすることで太陽熱を吸収しにくくする)や、消毒液散布など、現場ニーズに応じた検討が進められている。

また、ユーザーからは「スピーカーを搭載して、音による追い払いもできるのでは」といった声も寄せられているという。

適用領域は農業外も視野に入れている。現在はクマ対策の実証が行われており、四足歩行の動物に対してドローンでのレーザー照射が有効か、木上にいるクマにも効果があるかなど、さまざまな検証が行われている。

「固定型レーザー装置との併用により、地上・空の両面から対策を行う仕組みの構築が進行中であり、キャンプ場の獣害対策など、他分野の現場への展開も行われている。

取材の終盤、鈴木氏は「BB102は単に追い払う装置ではなく、人と自然が共に生きる未来のためのテクノロジーだと考えています。
自治体や農業団体、研究機関の皆様と連携し、次世代の鳥獣害対策モデルを共創していきたい。現場の声を聞きながら、持続可能な農業・畜産業の実現に向けて進めていきたい」と、NTT e-Drone Technologyの理念や今後の方向性について語った。

農業・畜産の現場が直面する鳥獣害や鳥インフルエンザ対策は、依然として大きな課題となっている。NTT e-Drone Technologyの「BB102」は、レーザー照射とドローンならではの広範囲をカバーできる飛行性能を組み合わせた、新しいアプローチだ。

鳥インフルエンザ対策の現場では、県による連絡体制の構築や消毒対応、殺処分など、農家・自治体双方に大きな負担がかかっている。「BB102」は、こうした現場負担を軽減する新たな選択肢となる。

千葉県をはじめとした補助金活用の動きが広がれば、全国的な導入拡大も期待される。現場の声を聞きながら進化するこのソリューションが、今後どのような形で社会を支えていくのか注目したい。
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