帝国データバンクは、中国政府による日本への渡航制限強化を受け、各業界への影響について調査を実施した。その結果、観光・小売などでは足元の影響が大きい一方で、不動産業界だけは「今後の影響」が現在よりも強まると見込む企業が多いという、特徴的な結果が明らかになった。

○不動産は「影響が遅れて出る」業界

この点について、株式会社すむたす 代表取締役の角高広氏は、不動産市場特有の構造が背景にあると指摘する。

「不動産取引は検討から成約までの期間が長いことから、外部環境による影響が遅れて発生するという構造的特性があります。帝国データバンクの調査結果で指摘されている『留学生の賃貸』や『マンション購入』の需要の減少は、渡航制限が長期化するほど空室増や成約減として累積します。そのため、即時的な客数減よりも、将来的な需給バランスの崩れを懸念する声が強く、他業界よりマイナス予測が強く出たと分析できます。」

短期的な来店客数や売上では見えにくいものの、賃貸・売買ともに「将来の需給」に効いてくるのが不動産市場の特徴だ。

○影響が大きいのは「外国人依存度の高い物件」

もっとも、すべての不動産が一様に影響を受けるわけではない。用途やエリアによって濃淡があるという。

「特に注意すべきは居住用の物件です。その中でも『都心・湾岸エリアの高額タワーマンション』など、投資的要素が一定割合ある区分マンションが最も影響を受けると想定されます。これらは外国人需要に支えられてきた割合が高いためです。」

一方で、国内の居住ニーズを中心とした市場は様相が異なる。

「一方、実需中心の郊外や一般的な居住用物件は、国内の金利動向や実質賃金の影響を強く受けますが、中国の渡航制限の影響は軽微と言えます。」
○「脱・中国依存」は価格調整につながる可能性

今回の調査では、中国人需要への依存から脱却する流れが進む可能性も示唆されている。角氏は、この点について次のように見ている。

「『脱・中国依存』の流れを受け、都心高額物件では在庫期間の長期化や価格調整が起こる可能性があります。
中国人需要で価格が高騰していたエリアや物件では、国内の実需層が購入・入居可能な水準への価格調整や、国内ニーズに合わせた商品企画への転換が、市場維持のための不可欠な適応策になっていくと考えられます。」

海外マネーに支えられてきた価格形成が見直されることで、国内の実需層にとっては選択肢が広がる局面とも言える。
○個人・事業者に求められる視点は「出口」

こうした不確実性の高い環境下で、住宅購入や不動産投資を考える際の視点について、角氏は次のように語る。

「不確実性が高い今こそ、『流動性』と『資産性』を優先すべきだと思います。近年の不動産購入者の多くが資産価値の面を重視しているように、将来の売却、つまり出口を見据えた選択が最大のリスクヘッジになります。事業者・個人ともに、エリアの需給バランスや物件の特性を見極めることが重要です。」

中国の日本渡航自粛要請という外部要因は、不動産市場にとって短期的には不透明感をもたらす。一方で、長期的には過度な海外依存を見直し、国内実需を軸とした市場へと再調整が進む契機になる可能性もあるとも言えるだろう。
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