近年ネットを中心に、「実家が太い」という言葉がよく使われています。これは、実家がお金持ちという意味ですが、実際どのくらいの資産を持っていれば、「実家が太い」と言われるのか、FP視点で検証してみたいと思います。
また、実家に限らず、そうした富裕層は日本にどのくらいいるのかもデータでご紹介します。

「実家が太い」ってどういう意味?

昔から、「客が太い」、「スポンサーが太い」など、「太い」を"お金をたくさん落としてくれる"、"経済的な後ろ盾が強い"といった意味の俗語として使うことはありました。しかし、その頃は「実家が太い」という言い方はされておらず、「実家が太い」は2010年代後半あたりから、Twitter(X)を中心に若年層の口語として広まったと考えられます。

使い方としては、「実家が太いから、人生イージーモード」など、嫉妬や皮肉を含んだ言い回しとして使われるケースが多く、単なる"お金持ち"とは違ったニュアンスがあります。"お金持ち"はシンプルに収入・資産が多いことを示す言葉ですが、"実家が太い"は親の経済力が子どもの人生選択に実際に使われている状態、つまり"支援の厚さ"を表している言葉と言えます。実家が太い≒親の資金力のバックアップが手厚い家ということです。
「実家が太い」って資産いくら以上?

では、実際に「実家が太い」とされる資産の基準はいくらになるのでしょうか。

結論を言ってしまうと、現時点で、「資産いくら以上」といった統計やアンケート結果などの定量的なデータは見当たりません。コラムや個人ブログなどの私見レベルの目安はいくつかありますが、あくまでもその人の主観的な目安です。

それらを紹介すると、世帯年収1,500万円以上、金融資産2億円~5億円以上といった意見が見られます。また、広々とした一戸建てや高級マンションに住んでいる、親が医者や弁護士など社会的地位の高い職業に就いている、複数の不動産や株式などの資産を保有しているなども実家が太いイメージとなっています。

いずれも統計的根拠は示されていないので、「実家が太いと言えるのは資産いくらから」といった定義はできません。

「実家が太い」をあえて試算してみる

ここからは思考実験です。仮説を立てることで「実家が太い」を勝手に定義してみたいと思います。

<仮説>
子ども1人が働かなくても暮らしていける資産を持っている家庭

<条件>
子の進学コース: 幼稚園から大学まですべて私立
大学卒の一般的な生涯賃金を親がすべて賄う

「教育費」+「一生分の生活費(=生涯賃金)」="実家が太い"の資産基準ライン

*教育費: 幼稚園~大学まで私立
文部科学省の平均データをベースに概算を出してみます。

幼稚園: 約100万円
小学校: 約1,000万円
中学校: 約500万円
高等学校: 約300万円
大学(私立理系想定): 約550万円
大学の生活費(仕送り): 約500万円
合計: 約2,950万円

教育費の総額は約3,000万円となりました。

*大学卒の生涯賃金
労働政策研究・研修機構の「ユースフル労働統計2024」のデータを参考にすると、大学卒の退職金を含む生涯賃金は、男性で3億2,730万円、女性で2億5,650万円となっています。

*必要資金
教育費と生涯賃金を合計すると、男性で約3億6,000万円、女性で約2億9,000万円となります。

ざっくりとまとめると、子ども1人が働かずに暮らすには、最低でも3億円~4億円の資金が必要ということがわかりました。

これにプラスして、自分たち(親)が不自由なく生活できる資産があると考えると、4億円~5億円程度保有している家庭が「実家が太い」のイメージに当てはまるかもしれません。
日本の富裕層は増えている

野村総合研究所は、金融資産を1億円以上5億円未満保有している層を「富裕層」、5億円以上保有している層を「超富裕層」と定義して、世帯数と資産規模を推計しています。

推計結果によると、富裕層・超富裕層の世帯数は、富裕層が153.5万世帯、超富裕層が11.8万世帯となっており、推計を開始した2005年以降最多となりました。

"実家が太い"を3億円~5億円以上の金融資産を保有している世帯と考えると、「富裕層」と「超富裕層」に当てはまり、世帯数は増えていることがわかります。
「実家が太い」と困ることは?

「実家が太い」と大学の学費はもちろん、十分な仕送りや留学費用まで親が負担してくれるケースも少なくありません。
そのため、奨学金を利用しながら大学に通っている学生と比べると、スタートラインに大きな差が生まれています。

社会人になってからも、結婚資金や住宅資金などを援助してもらえることがあり、経済面での安心感が違います。こうした点を見ると、「実家が太い」ことは"メリットしかない"ように感じられますが、その一方で、当事者ならではの悩みや注意点はないのでしょうか。

「実家が太い」ことでの悩みや注意点をまとめました。

*自立がしにくい
親が何から何まで援助してくれるため、精神的・経済的な自立が遅れがち

*人間不信に陥る可能性も
お金目当てで近づいてくる人などがいる

*本人の努力が認められにくい
「親のお金で大学に入れた」「親のコネで就職した」など、すべてにおいて「親のおかげ」と見られて、本人の努力が認められにくい

*詐欺に遭いやすい
思わぬ形で詐欺や不利な話に巻き込まれてしまうこともある

「実家が太い」ことは確かに恵まれた条件ではありますが、必ずしも良い面だけではないということです。しかし、そうはいっても、羨ましく感じてしまうのが正直なところですね。

石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。 この著者の記事一覧はこちら
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