久しぶりの帰省で、なぜか親が不機嫌だった──そんな経験はないでしょうか。
帰省は、親の老いに直面する機会です。
○質問ではなく、家の様子を観察する
親は子どもに心配をかけまいと、本音を隠して「大丈夫。何も困ったことはないよ」と言いがちです。そして、言葉で問いただすほど親は「チェックされている」と感じて身構え、本音を隠したり、会話が止まってしまうこともあります。そこで、会話で現状を探る前に、暮らしの様子から手がかりを拾います。
以下は一例です。
【冷蔵庫】
●期限切れが増えていないか
●同じ食材が重なっていないか
これらのことが見受けられる場合、買い物や管理が負担になっている可能性もあります
【薬の管理】
●飲み残しの薬が溜まっていないか
●同じ薬の袋が複数見当たらないか
これらのことが見受けられる場合、服薬管理が難しくなっている可能性もあります
【車】
●車体のこすり傷が増えていないか
こすり傷が増えている場合、距離感覚や注意力に変化がある可能性があります
大切なのは、どれか一つの変化だけで「認知症かもしれない」「もう一人暮らしは無理だ」と結論を急がないことです。「以前より増えているか」「複数の変化が重なっているか」を見て、気づきはその場で指摘せず、事実のみをメモに残します。
片付けるときは親の決定権を奪わない
「実家がモノであふれている」と、帰省のたびに感じる方は少なくありません。片付けようと思っても、親のペースや価値観があり、思うように進まず悩ましいテーマです。
LIFULL 介護が8月に実施した調査では、親世代の約6割が『子供に家の片付けや生前整理を手伝ってほしくない』と回答し、理由の最多は「自分で判断したいから」でした。親にとって家財は、自分の歴史そのものです。勝手に処分されると、「自分を否定された」と感じやすくなります。「使わないなら捨てよう」と迫るより、「重いものは動かすよ」「高い所は危ないから、そこだけやるね」と、判断ではなく作業を手伝う形のほうが受け入れられやすいです。親も本当は片付けたいのに、体力や気力が続かず進まないことがあります。あらかじめ帰省前に「滞在中に手伝ってほしいことがあれば言ってね」と一言伝えておくと、当日がスムーズです。
○立て続けの質問で親を追い詰めない
久しぶりに会うと、限られた時間で状況を把握したい気持ちから、「薬は飲んだ?」「通帳や保険証はどこ?」と立て続けに確認したくなります。けれど、それが続くと会話というより「取り調べ」のようになり、親は身構えて話さなくなるでしょう。まずは雑談から入り、相手の話を最後まで聞く。
○話しづらいテーマは、ニュースや知人の話を入口に
いきなり「介護が必要になったらどうするの?」「施設に入る?」「お金は?」と、将来の話を切り出すと、話題が重くなりがちです。そこで、「芸能人の○○さんが施設に入ったニュース見た? 楽しそうに生活しているみたい」「同僚の親が急に入院して、医療費の建て替えとか大変だったらしいよ。保険証や通帳の場所などを分かるようにしておいてほしいな」といった第三者の話題(世間話)を入り口にするのも一案です。
そして、「お母さんはどんな風に考えているの?」と感想を聞く形をとることで、親は自分事として防衛することなく、客観的な意見やもしもの時の希望を話しやすくなります。
9月に公開したLIFULL 介護の調査(親と「親が認知症になった場合」について話したことがない人が7割/認知症の不安に関する調査より)では、親が認知症になった場合について7割の人が「話し合ったことがない」と回答しています。第三者の話題は、こうした話しにくいテーマを切り出す有効なツールになるでしょう。
○認知症のサインを否定しない
同じ話を繰り返したり、話のつじつまが合わなかったりするのは、認知症の初期症状の可能性があります(ただし、体調不良や疲れ、聞こえにくさなどでも起こり得るため、決めつけは禁物)。しかし、ここで「さっきも聞いたよ」「それは違う」と指摘・訂正すると、親は「自分がおかしい」と否定されたように感じ、不安や絶望感、怒りにつながりやすくなります。まずは否定せず、「そうなんだね」「それは大変だったね」と、できるだけ感情に寄り添って受け流すことが重要です。安心感が保たれると、結果的に不安や混乱が強まりにくくなることもあります。
そして、こうした様子に気づいたら、早めに実家最寄りの「地域包括支援センター」へ相談しましょう。地域包括支援センターは公的な相談窓口で、本人と家族の状況を整理し、必要に応じて介護保険サービスや医療機関など、適切な支援先につなぐ手助けをしてくれます。
○一度の帰省で結論を急がない
限られた時間の中で、確認したいことはたくさんあるはずです。けれど滞在中に、介護のことや財産管理、将来的な家の処分や相続まで、結論を出そうと焦る必要はありません。帰省は、まず今の暮らしぶりを確かめ、気になることがあれば次の連絡や相談につなげる時間です。今回の帰省では、困りごとを一つでも聞き出せたら十分。具体的な解決策は持ち帰って検討しましょう。帰り際には「心配だから定期的に電話するね」と次の連絡を約束し、「何かあったらすぐに連絡してね」と伝えておく。これだけでも親には安心が残ります。
帰省で大切なのは、親を正すことでも、生活を管理することでもありません。親の自尊心を守りながら、暮らしの様子から「変化のサイン」に気づき、次の一手につなげることです。まずは「気にかけている」という姿勢を、言葉と行動でそっと示すところから始めてみてください。
小菅秀樹 「LIFULL 介護」編集長 神奈川県横浜市生まれ。老人ホーム・介護施設紹介業の主任相談員として、1,500組以上の入居をサポート。入居相談コールセンターのマネジメント、コンテンツマーケティングを経て、2019年より現職。各メディアでは介護や高齢期の諸問題について解説や監修を担当、一般向け/企業向け介護セミナーにも登壇するほか、SNSやYouTube等でも介護や老人ホームに関する情報発信を行っている。
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