河合塾グループの学校法人河合塾学園が2027年4月、岩手県一関市に「ドルトンX学園高等学校」を開校する。12月9日には岩手県内で記者発表会が開催されたが、12月10日には都内でも記者発表会が開催され、河合塾学園 理事長の河合英樹氏をはじめ、新たな高等学校計画を協働するNTT東日本、ミネルバ大学、岩手県一関市などの連携パートナーが登壇。
次世代型の教育モデルのスタートに期待を寄せた。

地域拠点滞在と探究学習プログラムをNTT東日本がサポート

新たな教育モデルとして注目されるドルトンX学園高等学校。その最大の特徴は、地域拠点滞在と通信制を組み合わせた、日本初のハイブリッドな通信制高校であること。3年間の在校期間、生徒は岩手と東京を始め、国内外の様々な地域拠点に滞在。各地域の課題に向き合う探究学習と、オンラインの学びを実践する。

その探究学習や東京での拠点をサポートするのが、2025年3月に河合塾グループと「グローバルリーダーの育成に向けた連携協定」を締結したNTT東日本だ。通信事業者である同社が、なぜ教育分野の取り組みに協働するのか。そんな疑問に対して代表取締役社長 澁谷直樹氏は、NTT東日本グループのパーパスや新学校に対する思い、今後の展望などについて語った。

同社は地域の通信企業として、光通信ネットワークやAIなどの最先端のデジタル技術を活用することで、これまで地域の課題解決や価値創造に挑戦してきた。そんな経緯を踏まえ、持続可能な社会の実現や、地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業を目指す。パーパスとして掲げているのが「地域循環型社会の共創」だ。

その活動の一環として現在取り組んでいるのが、IoTやデジタルツイン、ローカル5G、ロボティクスなどのテクノロジーを活用した、災害対策や遠隔医療、スマートストア、ドローンによる農業支援など。
こういった分野への取り組みにより、少子高齢化や人材不足、後継者不足といった社会課題の解決に挑戦している。

この活動と並行して行っているのが、社会の価値創造だ。文化や特産品、農産物など、地域には長年の歴史で育まれた、たくさんの価値がある。通信とデジタル技術を活用し、地域の価値を守りながら、多様性あふれる未来社会の実現を目指す。

このような活動を発展させるために、国内外のパートナーと連携。世界で最もイノベーティブな大学といわれるミネルバ大学と2025年9月に連携協定を締結し、価値創造人材やグローバルリーダーの育成に取り組む。

国内の教育機関とも連携。河合塾グループとの共創では、NTT東日本のパーパスである「地域循環型社会の実現」に向けて、3つの柱を掲げる。その1つ目が「成功モデルの創出」、2つ目が岩手県等での「社会基盤の実現」、そして3つ目が「社会変革を起こす人材の発掘と育成」だ。

教育モデルの確立にも取り組んでいきたいと考え、河合塾学園が2019年に東京都調布市に開校した中高一貫校「ドルトン東京学園」と河合塾グループとの連携の中で、探究学習プログラムの作成、スマートストアの開設、医療・食と農・ビジネスの創造といった多様なプログラムを展開する。このような連携の集大成と言えるのが、今回のドルトンX学園高等学校との取り組みだ。

まず東京都調布市の「NTT中央研修センタ」を、生徒の東京拠点として提供。
ここは同社の研修生を何十万人と育んできた場所で、施設内に地域循環型社会の実現に向けた実証・体感フィールド「NTTe-City Labo」が置かれている。最先端のテクノロジーの理論と実践をここで学んでもらうと共に、同社がこれまでに培ったICT環境やデジタル教育などのノウハウを活かして、日本各地でのフィールド教育の支援を実施する。

NTT東日本グループでは、ミネルバ大学やドルトン東京学園、河合塾グループなどのパートナーと連携。澁谷氏は、「世界に羽ばたく次世代のグローバルリーダーや、グローバルを理解しながらローカルに活躍できる人材を輩出していきたい」と今後の展望を語った。

ミネルバ大学を参考に地域拠点滞在型の教育スタイルに

地域拠点滞在と通信制を組み合わせた、ドルトンX学園高等学校のハイブリッドな学習スタイルは、アメリカのミネルバ大学を参考にしたもの。ミネルバ大学では世界各国の様々な都市で生活しながら、社会課題に向き合うという学びを実践している。

そこでドルトンX学園高等学校では、1年次の拠点を岩手県一関市にある本校と、東京都調布市の「NTT TOKYO BASE」とする。この2拠点で探究に必要な基礎的な能力や生活力を養う。そして2年次は、国内外の様々な地域拠点で約3ヵ月ごと、最大4ヵ所に移り住みながら、その地域の社会課題に向き合ってフィールドワークを実施。3年次には再び岩手と東京の2拠点に滞在し、探究の成果発表を行う。

ミネルバ大学の学習スタイルについては、東京に拠点を構えるミネルバ大学City Director, TOKYOのジェニファー・バトラー氏が登壇して説明した。

ミネルバ大学の目標は、グローバルに活躍する様々な能力を幅広く身につけた学生を育てること。
物事を鵜呑みにせずに本質を見極める批判的思考、創造的思考、人とコラボしていろいろな価値を一緒に共創していくことを大事にしている。

その目標において、ドルトン学園とミネルバ大学は同じ価値観を共有しており、バトラー氏は「主体性や共感、自発的な学びを重視した学習スタイルに共通性を感じた」と言う。4年間、4つの都市に渡って生活しながら学ぶミネルバ大学の教育スタイルは、教室の中の講義だけでなく、社会と繋がって、いろいろなプロジェクトを現地の人と進めることで価値を作っていく。

10月にはNTT東日本との連携協定により、岩手県釜石市でミネルバ大学とドルトン東京学園の学生が共に防災・復興を学ぶ探究学習を実施した。こういった取り組みで互いに刺激を与え合えることから、「今後もこのようなコラボレーションが行えることを楽しみにしている」と、今後の展開に期待を寄せた。

ドルトンX学園高等学校の地域拠点は京都・大阪・奈良にまたがるけいはんな学研都市、徳島、沖縄のほか、エストニア、イギリス、マレーシア、インドといった海外にも置かれる。

発表会では、沖縄拠点の沖縄県美ら海教育学校 代表理事の星原貴保氏をはじめ、インドとイギリスの拠点の担当者からも、ビデオメッセージで新学校の活動に期待するメッセージが寄せられた。
岩手県一関市にドルトンX学園高等学校を開校する理由

ドルトンX学園高等学校は、岩手県一関市の旧油島小学校に開校予定。生徒はその近くの学生寮で生活しながら、探究学習能力や生活力を養う。

新学校を岩手県に開校する理由について、豊かな自然、世界有数のスキー場や温泉、歴史的建造物などの多様な魅力があること。加えてこれから日本が直面する社会課題の解決に取り組んでいる地域であることを挙げた。例えば同県内の八幡平市では、起業家育成キャンプを実施。
釜石市は震災防災教育に取り組んでいる。

新学校の入学生は2011年4月以降の生まれになるので、東日本大震災を経験していない世代になる。河合氏は、「東日本大震災について伝える意味でも、釜石市の拠点でも探究活動を行っていきたい」と言う。

本校が置かれる一関市は、東北エリア全体の地理的な中心地となる。一関工業高等専門学校(一関高専)をはじめ、様々な高等教育機関とのパートナーシップも望めることから、この地域に根ざした教育を一緒に共創していく考えだ。

なお、一関市と河合塾学園は、2025年11月に「探究的な学びに関する包括連携協定」を締結している。一関市市長の佐藤善仁氏は、「“学びで可能性を広げるまち”の実現を掲げる一関市と、探究心の育成や地域との関わりといったビジョンを持つドルトンX学園高等学校とは、親和性が高い」ことを伝えた。

新学校の拠点となることで、一関市は全国・世界に学びを発信する教育モデル地域を目指す。そしてグローバルな人材育成やグローバルな視点での地域課題を解決する学びの場となり、さらには教育によって地域ブランドが向上することに期待を寄せる。

一関市では一関高専から学生起業した株式会社Next Iwateが、「次の岩手、日本を担う一役に」という理念のもと、地域課題に向き合って支援を行っている。同社が2023年の起業からこれまでに積み重ねた活動は、内閣府が実施する「地方創生☆政策アイデアコンテスト2025」において評価され、地方創生担当大臣賞を受賞するなど、成果に繋がっている。

Next Iwateは6月に一関市で開催されたドルトン東京学園のフィールドワークにも対応。
多くの質問をして地域課題を自分ごととして捉え、考えてくれる学生の姿を見て、「東京の人は地方のことに関心がないといった勝手な固定観念を持っていたことを反省した」と言うのは、代表取締役CEOの上野裕太郎氏。「私たちは学生たちと年齢の近いパートナーとして、学生の本音と青春に寄り添い続ける」と、意気込みを語った。

ドルトン東京学園で得られた学習成果や分析

ドルトンX学園高等学校の教育スタイルは、姉妹校であるドルトン東京学園をモデルとする。自由と協働を軸として、五感で本質に向き合う探究学習を実施する同校。中学生でアジア各国に研修旅行に行き、地域の人たちと一緒に探究学習を行う。

2025年春にドルトン東京学園の一期生が卒業し、6年の学びで得られた成果を分析したところ、入学当時は全国平均レベルだった非認知能力が、卒業時には平均を大きく上回っていることがわかった。また、探究学習で失敗や挫折などを多く経験した生徒ほど、非認知能力が成長し、それに伴って偏差値も伸びているという結果となった。

このような教育スタイルのメリットについて、ドルトン東京学園一期卒業生で、現在、国際基督教大学1年生の韓璃穂(カン・リオ)さんが、自身の6年間の学びについて紹介した。

「良かったことは、中高生のうちから多くの大人と接し、様々な生き方や仕事について知れたことで、自分はどう生きていきたいのか、何のために大学に行きたいんだろうといった問いに、向き合える時間と機会がたくさんあったこと」と韓さん。

具体的には、高校2年生の時に、1年を通して自分で学びたいテーマを決め、どのように学ぶかを計画。その結果を論文にまとめるという卒業探究のメリットを語る。韓さんはこのテーマに「日本の学校教育はどうあるべきか」という内容を選び、他校はどんな学びをしているのかを調べ始めた。


校長をはじめとする教員の協力により、他校の中学や高校の校長・教員に話を聞くことができ、ドルトン東京学園で行われている探究学習を他校で実施するのが難しい現状を知った。韓さんは教育業界に特化した展示会である「EDIX(教育総合展)」を訪れたり、大学教授のカンファレンスを聞いたり、文部科学省を訪問して話を聞いたりして、学校では手に入れられなかった日本の教育や、学校教育の現状について詳しく知ることができたという。

韓さんは「自分も社会に何か還元したい」と、先生のためのWebサービス「EDUPEDIA」に記事を執筆。大学生になった今では、このWebサービスを運営するNPO法人で活動を行っているそうだ。

高校生は社会と触れ合う機会が少なく、身近な大人として自分の親や学校の先生しかいない。そんな中で、大学受験という人生の分岐点を迎える。

「自分が何をしたいのか、何が好きなのか全くわからないまま、自分の将来を決めなければいけないのが現状。だからこそ、高校生の時から様々な人に会い、様々な社会の在り方を知って、そこから自分の将来についてたくさん考えられる機会が持てたドルトン東京学園の学びはとても貴重だった」と語った。

ドルトンX学園高等学校が求める生徒は、探究心を持って社会課題の解決に取り組みたい、失敗を恐れずに挑戦したいという、全国の“好奇心モンスター”。河合氏は「3年間の学校生活を通じて、世界を変えられると信じて行動できる人材が多く育つ学校にしたい」と願う。

ドルトンX学園高等学校は広域通信制高校として、47都道府県から生徒を募集する。定員は1学年150名。12月から学校のホームページを公開して、イベントや説明会を順次実施していく。2026年9月ごろには正式な設置認可を受け、翌10月から生徒の募集を開始。そして2027年4月に開校を予定している。

綿谷禎子 わたたにさちこ 情報誌の編集部から編集プロダクションを経てフリーランスのライターに。現在は小学館発行のビジネス情報誌「DIME」を中心に、企業のオウンドメディアや情報サイトなどで幅広く執筆。生活情報サイト「All About」のガイドも務める。自称、キャッシュレスクイーン。スマホ決済や電子マネー、クレジットカード、ポイント、通信費節約などのジャンルのほか、趣味の文具や手帳の記事も手がける。 この著者の記事一覧はこちら
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