年末年始は家族が顔を合わせる貴重な機会です。親が元気なうちは「介護」や「相続」の話題をつい後回しにしてしまいがちですが、今度の帰省時に、皆で話し合いの機会を設けてみるのはいかがでしょうか。
介護は突然始まることもあるので、事前に話し合っておけば、親子双方の不安や負担を減らすことができます。今回は、帰省した際に確認しておきたいポイントを整理してお伝えします。

親の健康状態と日常生活をチェック

遠方で暮らしている子どもの場合、帰省は年に1、2回ということも少なくありません。久しぶりに顔を合わせたら、「思った以上に親が老け込んでいて驚いた」というケースはよく聞きます。

電話やメールでは気づけない、親の健康状態や生活の様子を帰省のタイミングでチェックしましょう。
○<確認ポイント>

食事・・・毎日決まった時間に適切な量の食事をとれているか。
運動・・・歩行のふらつきがないか。階段の昇り降りが困難になっていないか。
物忘れ・・・言ったことをすぐ忘れる、同じ話を何度も繰り返すなど。
お金の管理・・・支払いがきちんとできているか。無駄な買い物をしていないか。
家の中・・・整理整頓されているか。
掃除がされているか。

不安があれば、介護保健の認定を早めに受けることも検討してみてください。たとえば、手すりの取り付けや段差の解消などの住宅改修費用は介護保険制度を利用すれば、20万円を限度に改修費用の9割(1割負担の場合)が払い戻されます。この場合、先に介護保険の認定を受けて、事前申請をすることが条件となっています。

まだまだ動ける「要支援」の段階でも利用できるので、早めに対策を講じておくといいでしょう。
介護にかかる費用の目安を把握

介護にはどのくらいの費用がかかるのか、生活保険文化センターの調査から費用の目安を紹介します。
一時的な費用は平均47.2万円、月々の費用は平均9万円

介護に要した費用(介護保険の自己負担費用を含む)は、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用の合計が平均47.2万円、月々の費用が平均9万円となっています。

月々の費用は、在宅で介護を受ける場合と、施設に入居して介護を受ける場合とでは、必要となる費用に大きな差があります。在宅介護は、平均5.3万円、施設介護は、平均13.8万円となっています。

介護期間は平均4年7カ月

介護を行った期間は、平均55カ月(4年7カ月)になりました。4年を超えて介護した人は約4割となっています。

介護費用の総額

前出の一時的な費用と月々の費用の55ヵ月分(4年7カ月)を合わせた介護費用の総額は542.2万円となります。
これは在宅介護と施設介護を合わせた平均なので、施設介護の場合で総額を出すと806.2万円になります。

<介護費用の総額の目安>


542.2万円(月々の費用9万円×55ヵ月+一時的な費用47.2万円)
在宅介護: 338.7万円(月々の費用5.3万円×55ヵ月+一時的な費用47.2万円)
施設介護: 806.2万円(月々の費用13.8万円×55ヵ月+一時的な費用47.2万円)

あくまでも平均値であり、個々の状況により異なります。特に施設介護の場合は、利用する施設によって、必要となる費用は大きく変わります。なかには入居一時金として数百万~数千万円必要となる施設もあるので、施設選びが重要となってきます。
介護の方針を決めておく

親が望む介護と、家族で分担できる役割などから、介護の方針を決めておくと、後々のトラブル回避につながります。

たとえば、身の回りのことができるうちは、訪問介護などを利用してできるだけ自宅で生活する、自立が困難になったら施設に入居するなど、本人の希望と家族ができることをすり合わせて、介護方針を共有しておきましょう。
○<確認ポイント>

在宅介護か施設介護か
施設に入る場合の希望(費用、場所、サービス内容)
介護となった時の家族の分担・役割
認知症になった場合の財産管理(任意後見制度・家族信託など)
医療に関する希望(延命治療など)

親の資産を確認する

介護費用は親の年金や資産から出すのが基本です。そのためには、親の年金額と資産を把握し、共有しておくことが必要となります。
○<確認ポイント>

年金収入やその他の収入(賃貸収入や利子・配当金など)
預貯金、有価証券、不動産などの資産
生命保険、医療保険などの保険契約
ローン、その他の債務

また、サブスクなどの契約も確認しておきましょう。契約しているサービス名、ID、パスワードをまとめて記したノートを作ってもらうといざという時に安心です。
相続の話もしておく

介護の話と切り離せないのが相続の話です。親の資産を確認できれば、将来の相続財産の見当が付けられるでしょう。

○<確認ポイント>

遺言書を作っているか
葬儀やお墓についての希望
通帳や印鑑、証券、証書などの保管場所
不動産の名義と評価額
相続財産の分割方法
実家の片付け(家じまい)

相続財産が多く、相続税の納税対象となる可能性が高い場合は、相続税対策も考えておくとよいでしょう。贈与税の基礎控除(110万円)内での贈与や孫への贈与など、生前贈与を活用すると相続税の対象となる財産を減らすことができます。

また、生命保険に加入することも相続税対策になります。生命保険金には、相続税の計算上、特別な非課税枠が設けられています。
○<非課税枠の計算式>

500万円 × 法定相続人の数

たとえば、法定相続人が3人いた場合は、1500万円までは相続税がかかりません。さらに、生命保険は受取人を自由に設定できる点もメリットです。
まとめ

年末年始は、家族が一堂に会してゆっくり過ごせる特別な時間です。楽しい雰囲気の中で、介護や相続の話題を切り出すのは気が引ける…という人も少なくないでしょう。しかし、家族の将来の話と考えれば、自然と切り出せるのではないでしょうか。前もって話し合っておくことで、いざという時の安心感が大きく変わります。今年の帰省は、家族で将来の方向性を共有する絶好の機会になるといいですね。

石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。
“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。 この著者の記事一覧はこちら
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