「退職代行」がビジネスパーソンにとって、当たり前のサービスになりつつある。退職を申し出た際に引き留めにあい、退職できないケースは珍しくない。
ビジネスパーソンにとってはメリットのあるサービスといえるが、その反面、経営層にとっては手塩にかけて育てた人材が流出しやすくなるというデメリットも生まれた。人材の獲得競争が熾烈化している現在、退職代行のニーズが高まっている背景を経営層であれば知っておかなければならない。

「はたらいて、笑おう。」をビジョンに掲げるパーソルグループは、報道関係者を対象としたオンライン記者勉強会を開催。パーソル総合研究所が2025年12月に発表した「離職の変化と退職代行に関する定量調査」の結果を示しながら、同研究所の主席研究員・小林祐児氏と研究員・児島功和氏が退職代行利用者の実態を解説した。
○責任感が強い人は利用しがち?

児島氏は、離職者のうち退職代行利用者(5.1%)は全体の約20人に1人だったと報告。利用者の年齢構成は20~30代が約5割を占め、在籍期間は「1年未満」が約4割で、一般離職者の約2倍に上るという。

さらに、退職代行利用者について深掘りする。性格特性(Big5)を一般離職者と比較した場合、「外向性」「開放性」が高いことがわかった。さらには、「周りの人たちと密に力を合わせて働きたい」というキャリア観を強く有していることも明らかになり、「『会社なんてどうでもいい』『無責任』という退職代行利用者のイメージを大きく裏切る状況が見えてきました」と語る。

また、一般離職者よりも退職代行利用者は、前職に対する意識として「申し訳なさ」を覚え、自分を「裏切り者」と感じる傾向が見られるという。続けて、一般離職者と比較して退職代行利用者は、「自分がいなくなると、職場の業務が滞るのではないかと心配だ」と不安を強く覚える傾向があり、「責任感が非常に強いことがわかっています」と解説した。
○離職率は上司の存在が大きい

退職代行の利用理由としては、「すぐにでも退職したかったから」が最多で、「上司への恐怖心があった」「体調不良・精神的につらかったから」も多かった。
また、「直属の上司との関係が悪く、話したくもなかったため、退職代行を利用した」「退職手続きを直接やり取りしたくなかったので依頼した」といった利用者の実際の声を紹介。さらには、「精神的・体力的にギリギリで、利用して3~4日後には辞められたので良かった」「料金が高いと思った」など、利用後のさまざまな感想も取り上げた。

退職代行利用につながる職場不満とハラスメントについて、「直属の上司との関係」は、一般離職者と退職代行利用者のギャップがより大きく、上司という存在がカギを握っているという。そして、退職代行利用者の上司は、非礼なマネジメント行動を行っている割合が高く、「行動を細かく管理・指示してくる(マイクロマネジメント)」が最もギャップが大きかったと語った。

さらに、退職代行利用者は一般離職者や就業継続者と比較すると、「職場に頼りにできる人がいない」「職場で孤立しているように思う」と、孤立感や孤独感を覚えている傾向が高いことも明らかになった。相談相手としては「直属の上司」が多い一方で、「家族・親類」「友人」は少ない。

児島氏はこれらの結果を受け、「チームワーク志向があり、職場に対する規範や責任意識を持っているが、職場で孤立しており、上司しか相談相手がいない。しかし、その上司からハラスメントや非礼な言動を受けている。これが退職代行利用希望者です」とまとめた。
○離職意向を高める要因とは

次に小林氏が登壇し、児島氏の話を踏まえ、離職意向に影響を与える要因を紹介した。多変量解析の結果、努力をしても結果を出せなければ評価されないといった「成果主義・競争的風土」や、仕事ぶりよりも好き嫌いで人を評価する傾向などの「属人思考」が離職意向を高める要因になるという。

その一方で、職場で相談できる人の種類が多い「相談ネットワークの多さ」、チームとして一体感がある「チームワークの良さ」、定年まで雇用されることが前提となっている「長期雇用慣行」は、離職意向を下げる要因になると話した。


中でも「相談ネットワークの多さ」の重要性も示された。相談ネットワークの種類が多い人ほど、離職する割合は低くなるという。しかし、社内に相談ネットワークがない人は6割近くに上り、「これが日本の現状です。これは正規雇用者を対象にした結果ですが、おそらくパートやアルバイトでは、さらに少なくなるかもしれません」と解説した。
○対人ネットワーク施策の必要性

最後に小林氏は、離職されないための提言として、退職代行利用者の相談相手が上司に集中していた点に触れ、「対人ネットワーク施策を考え、実行していく必要があります」と強調。具体策として、「同僚ともあまり親しくないのであれば、外に出る。つまり別チームの人と組む。越境的な学習や部門横断のプロジェクトで関わり、たまに飲みに行くような関係性になることが非常に重要だと思います」と話した。

続けて、「異動や席替え、プロジェクトチームの入れ替えなど、固定化している関係を物理的に崩す。異動があると転職率は下がりますので、再配置も重要です」と説明。さらに、「弊社でも行っていますが、同僚同士の1on1を実施しています。あまり話したことのない部署の人と話す機会を設けています」「ワークショップやリフレクティング・チームといった、人事やコンサルが介入し、職場の問題をファシリテートする手法もあります」「社内コミュニティ活動やサークル活動にも、一定の効果が期待できます」など、上司以外の人との交流を促し、離職を防ぐための多角的なアイデアを紹介した。
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