舞台『ピーターとアリス』でアリス役「ときめきました」

数々のドラマや映画で主演やヒロインを務めるなど、活躍を続ける女優の古川琴音。今年10月に29歳の誕生日を迎えた古川は、28歳の1年を「霧の中にいたような感じ」と振り返り、「もう1回、がむしゃらにやってみようと思っています」と現在の心境を語る。2026年2月から上演される舞台『ピーターとアリス』で不思議の国のアリス役を演じる古川に、同作への意気込みや女優としての現在の心境、今後の抱負などを聞いた。


舞台『ピーターとアリス』は、世界中で愛される児童文学作品『ピーター・パン』と『不思議の国のアリス』のモデルとなった2人が数十年後に出会い、現実と幻想を交錯させながらそれぞれの辿った人生を赤裸々に語り始める……という内容。ミュージカル『ムーラン・ルージュ!』や映画『ラストサムライ』などのジョン・ローガンの脚本で、熊林弘高が演出を務め、翻訳を早船歌江子が担当。2026年2月9日~23日に東京芸術劇場 プレイハウス、2月28日~3月2日に大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演される。

幼少期からアニメ『ふしぎの国のアリス』を繰り返し見ていたという古川。アリスはどのヒロインよりも身近な存在だったといい、役が決まった時は「やっぱりときめきました」とほほ笑む。

脚本を読んで「想像していたものとは全く違っていた」といい、「いろいろな角度から捉えられる深い作品で、これは自分にとってチャレンジだなと思いました」と当時の心境を明かす。今回演じるアリスには、アニメやルイス・キャロルの小説のアリスより「少し毒を感じた」と古川。そんなアリスを、どのように演じるのか。

「もともとのアリスの印象、キャロルが描こうとしていたアリス像、モデルになったアリスさんの核となる部分。それらを薄いフィルムで重ねて、いろいろな色に見えるように……というイメージはありますが、それをどう具体的に表現できるか、稽古を通して探したいと思っています」

すでに公開されている“不思議の国のアリス”に扮した自身のビジュアルにも、同様に「毒を感じる」印象を抱いた。

「メインビジュアルでは衣装の青色もきつい青色ですし、メイクも、つけまつ毛で目を濃く見せていて。肩が出ているデザインも、ちょっと誘惑しているというか……単純な子供のアリスというよりも『何かあるんじゃないか』と思わせるようなビジュアルですよね。
撮影前は、ビジュアル撮影の段階では普通のアリスで、蓋を開けたらこういうちょっと不思議なアリスが出てくる……という感じになるのかなと思っていたのですが、ビジュアルからすでに何かが匂うアリスだったので、『もうこのモードに入っていいんだ』と思いました」

本作で“不思議の国のアリス”役を務めることで、得られるものも大きいと期待する。

「本当にいろいろな角度から見ていく必要のある作品だと思うので、この作品とみっちり向き合うことで、脚本の“読み解き方”のヒントをもらえるかなと思っています」

そんな古川が女優として、大事にしていることは「自分ひとりで作り上げないこと」だという。

「もちろん『こうやりたい』というアイデアは現場に持っていくのですが、自分だけのアイデアで演じるより、共演の方々と実際にお芝居してみて見つけることだったり、演出家につけてもらった演出だったりによって広がることの方が多い気がしていて。だから『この役はこうしたいんだ』という結論は持っておきつつ、余白もたくさん持っておく。叩き台としてアイデアを持っておくことを意識しています」

足りないものを探し続けていた28歳 もやが晴れたきっかけは?

今年10月には29歳の誕生日を迎えた。舞台にドラマ、映画と幅広く活躍する古川だが、2025年は「模索の年」だったという。

「『何かが足りない、それはなんだろう』とずっと探していた時期であるように感じていました。霧の中にいたような感じがして……。今年、おみくじを引いたんですが、そこには『今、あなたはもやの中だけど、努力を続けなさい、鍛錬を続けなさい』という言葉が書かれていたんです。その言葉が、その時の自分にはぴったりで『あ、今、私ってこういう状況なんだ』と気づいて。だから、この28歳という年は“修業期間”でした」

だが、28歳の1年を経て、今はそんな“もや”からは脱しつつあるとも実感している。

「これからの29歳の1年に、まだ情報が公開されていない仕事がたくさんあって、その一つひとつの仕事が全部、チャレンジな作品なんです。
だから、一つひとつ着実にやっていかなきゃいけないなっていう思いがあって。それが見えてきてから、もやが晴れていったんです。自分が何に向けて頑張るべきか、今は何が必要なのか、何を準備すべきなのか……それが分かった1年でした」

今年は、9月に最終回を迎えたNHK連続テレビ小説『あんぱん』で主人公・柳井のぶ(今田美桜)の茶道の弟子・中尾星子役も演じて、話題を集めた。

「私が演じた中尾星子という役のモデルになった方は、やなせたかしさん、のぶのモデルになった小松暢さんと実際に関わって、その意思を継ぐ方だったんですよね。『あんぱん』はフィクションではあるけれど、やなせさんと暢さんの思いをリアルタイムで受け取っているようなドラマだったと思うんです。私も自分の役を通して『こうやって物語って受け継がれていくものなんだな』と知ることができました」

そんな古川に、最後にこれからの目標を聞いてみると、「もう1回、がむしゃらにやってみようと思っています」と力強く語る。

「もう失敗するものとして、いろいろな人ともっとコミュニケーションを取って、もっといろんな世界を知っていこう、という気持ちです。失敗は怖いですし、怒られたくないので(笑)、これまでは『この人にこれを言ったら怒られるかな』と躊躇することもあったんですけど、そういうことにも全部チャレンジして、それぞれの現場で100パーセント向き合っていきたい。その胆力が30歳前についたら30代はもっと飛躍できると思うので、その力を養っていきたいなと思います」

■古川琴音
1996年10月25日生まれ、神奈川県出身。2018年にデビュー。短編映画『春』(18)で第20回TAMA NEW WAVEベスト女優賞を受賞。第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した映画『偶然と想像』(21)の第一話で主演を務める。
近年の主な出演作は、映画『みなに幸あれ』(24)、『言えない秘密』(24)、大河ドラマ『どうする家康』(23/NHK)、ドラマ『海のはじまり』(24/フジテレビ)、連続テレビ小説『あんぱん』(25/NHK)、舞台『Touching the Void タッチング・ザ・ヴォイド ~虚空に触れて~』(24)など。映画『ほどなく、お別れです』が2026年2月6日公開予定、『花緑青が明ける日に』が2026年3月6日公開予定。

ヘアメイク:伏屋陽子(ESPER) スタイリスト:山本杏那
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