「面白いドラマを作る」緊張感が保たれた現場

松本幸四郎主演・池波正太郎原作『鬼平犯科帳』シリーズ最新第7弾『鬼平犯科帳 兇剣』が、1月10日(13:00~)から時代劇専門チャンネルで独占初放送、時代劇専門チャンネルNETで独占配信開始される。今回、シリーズ第1弾『本所・桜屋敷』以来の登場となるのが、長谷川平蔵(幸四郎)の親友・岸井左馬之助を演じる山口馬木也だ。

そんな幸四郎と山口が、『鬼平犯科帳』の魅力や共演の感想を語り合った。
時に真剣に、時にユーモラスに、2人のやり取りは、まるで芝居のひと幕のよう。最新作の話を中心に、撮影現場の裏話から互いの関係性、そして、“相性抜群”な食べ物のたとえ話まで。余すところなくお届けする。

○時代劇の最高峰作品は「お洒落」

――幸四郎さん主演の『鬼平犯科帳』シリーズが7作目、3年目に入ります。周囲の反響なども含めていかがですか?

幸四郎:これだけの職人さんたちの中で『鬼平犯科帳』という池波正太郎先生の代表作に携われることに幸せを感じています。撮影所の門をくぐる時は昂(たかぶ)るものがありました。そこは常に声が飛び交い活気があり、“面白いドラマを作る”という緊張感が保たれている。シリーズを重ねるほど、その関係性や積み重ねた時間を注ぎ込みたいという思いが強まります。『本所・桜屋敷』で馬木也さんと湯豆腐を食すシーンを最初に撮った時、皆で「馬木也さん、まさに左馬之助だよね」と話したのを覚えています。実は彼とは同い年で、「結構年いってるんですね」とも話した気がします(笑)

山口:『鬼平犯科帳』は時代劇の最高峰だと思います。ゴルフの打ちっぱなしに行くと年配の方々が口をそろえて「鬼平が好き」とおっしゃる。出演すると友人たちも喜んでくれます。
時代劇は“古い”イメージもありますが、『鬼平犯科帳』は“お洒落”で、幸四郎さんが演じられることで、「新たな歴史が始まった」と感じました。職人さんたちと時間を共有し、それが作品を見る時の感動にもつながっています。世界にも通用する時代劇だと思っています。

――今回は『本所・桜屋敷』以来、平蔵と左馬之助の関係が深く描かれていると思います。馬木也さんは今回の作品にどのような意気込みで臨まれたのでしょうか。

山口:前回で不安はほぼ消えました。今回は幸四郎さん演じる平蔵との共有をもっと増やそうと思っていましたが、正直、意気込みより「行けばなんとかなる」という感覚でした。現場で何が起きるかはわからない。でも「平蔵がいてくれれば大丈夫だ」と思える。それを逃さないよう健康にフラットで行くことだけを意識しました。

「黒くて存在感がある。歯についたりしますけど(笑)」


――幸四郎さんから見た馬木也さん演じる左馬之助、そして、馬木也さんから見た幸四郎さん演じる平蔵の魅力をお願いします。


幸四郎:平蔵にとって左馬之助は唯一無二の親友です。若い頃の銕三郎時代にともに生活したほど濃い時間を過ごし、その後の人生を経て『本所・桜屋敷』で再会する。互いに多くを知り合っている特別な関係です。そして今回『兇剣』で再び向き合うことができて、言葉にしなくても通じ合える関係として描けたと思います。

山口:私は幸四郎さんを、俳優としても人間としても尊敬しています。幸四郎さんのことをお慕い申し上げているわけです。その関係のまま芝居をしているので、演じている感覚より「平蔵と目線を合わせられる喜び」が大きいんです。それが、画面にも自然に出てくれるといいなと思っています。

幸四郎:(照れ笑い)

山口:現場で芝居の話し合いはほとんどしませんが、言葉にしなくても汲み取っていただける。食べ物にたとえるなら、私にとって幸四郎さんは、“お餅”のような方。色が白くて、何にでも合い、力強さがあり、しかし、自分の色を強く主張しない。私は平蔵といえば幸四郎さんしか思い浮かばないんです。


――幸四郎さんは、馬木也さんを何にたとえますか?

幸四郎:……海苔かな。

山口:めちゃくちゃ相性いいじゃないですか! お餅と海苔って。

幸四郎:海苔は何にでも合うし、黒くて存在感がある。歯についたりしますけど(笑)

山口:歯にくっつく…(笑)

幸四郎:最近、コンビニでも海苔を巻いていないおにぎりが結構多いじゃないですか。それを手に取ると「あ、間違えちゃった!」と思うんです。やっぱりおにぎりには、海苔があったほうがいい。海苔が欲しくなりますよ。

山口:そんなふうに言っていただけて光栄です(笑)

職人たちの“ツー”と“カー”が随所に

――『鬼平犯科帳』ならではの現場の雰囲気や、お互いの芝居・殺陣で印象深かったことは何ですか?

幸四郎:本作によく登場する軍鶏鍋屋「五鉄」のシーンを撮っているスタジオ名は、その名の通り「五鉄」と呼ばれています。それこそ、叔父(二代目・中村吉右衛門)の第1シリーズから関わっているスタッフさんもいれば、時代劇が初めてのスタッフさんもいる。その混在が良い効果を生んでいます。第7弾まで続いていることはありがたいですし、恩返しするためにもさらにシリーズを重ねていきたいです。

山口:印象深いのは最後の立ち回り。私が入る場面の直前の昼休憩の間に、殺陣師の清家三彦さんとカメラマンさんが、「これどう合わせる?」と15分くらいで段取りを決めてしまった。
複雑で長いワンカットでしたが、幸四郎さんは一発OK。職人さんの現場に入れる喜びを強く感じました。“ツー”と言わずとも“カー”と動く、あの感じ。みるみるうちに組み上がっていくスピード感に圧倒されました。できることなら皆さんにも現場を見てほしいです。

幸四郎:それで言ったら、本作の左馬之助はかっこいいじゃないですか。ヒーローのように現れて。

山口:自分でも“いいところで出てくるな”と思いました(笑)。意外な登場の仕方なので注目してください。

――共闘されるシーンで意識されたことは?

山口:私としては、プロフェッショナルな方々と同じ目線に立てるチャンスなので、おくれを取らないように必死でした。

幸四郎:平蔵と左馬之助は、若い頃からの関係です。とはいえ2人で剣を持つのは初めてで、息を合わせて見せる必要がありました。
まさに“ツー”と“カー”のように。

山口:左馬之助が来た時の、平蔵の反応に毎回しびれます。決して言葉では説明できない、“当たり前の関係”がそこにはあるんですよね。こういう言葉にできない感覚こそ日本の時代劇の良さだと私は思います。

○幸四郎が考える『鬼平犯科帳』の“器”

――『兇剣』は平蔵たち一行が京都・奈良へと向かうお話で、浅利陽介さん演じる同心・木村忠吾とのシーンもたくさん登場します。共演や現場の雰囲気で変化はありましたか?

幸四郎:今回は忠吾との物語として描かれる部分が大きく、新鮮で楽しかったですね。『鬼平犯科帳』という確かな“器”があるので、平蔵と忠吾、同心たちの関係性が最初から自然となじみました。とはいえ、今回は平蔵と忠吾の間には内藤剛志さん演じる京都西町奉行所与力・浦部彦太郎という存在がいます。その関係にも注目してほしいですね。

――幸四郎さんの考える『鬼平犯科帳』の“器”とは?

幸四郎:人間ドラマであり、誰もが何かを感じられる普遍性があるということです。結末がわかっていてもスリルがあるし、善か悪かではない、それぞれの人生が描かれる。平蔵は誰に対しても正面から向き合う人物で、その魅力が代々シリーズとして受け継がれてきた理由だと思います。


――渡辺いっけいさん演じる大盗賊・高津の玄丹とのシーンはいかがでしたか?

幸四郎:“悪人ぶり”はさすがでしたね。私は共演シーンはほとんどありませんでしたが、すごく迫力がありました。

――『兇剣』の最後に流れる「人は誰かを救いながら誰かに救われる」というナレーションにちなんで、おふたりの経験を教えてください。

山口:撮影では、常に誰かに救われて役が完成していると感じます。プライベートでは、やはり家族ですかね。救われるというか、返ってくるもののほうが大きいので。

幸四郎:とにかく『鬼平犯科帳』を作り続けたいという一心があります。誰かのために取り組むことで、結果的に自分の平蔵像も浮かび上がる。“自分の平蔵像”というのもおこがましい気がしますが……。

「日本一の立ち回りをされる方」「ぜひ見出しに(笑)」

――こうしてお話を伺っているだけでもおふたりの仲の良さが手に取るように伝わってくるのですが、ぜひこの機会に、お互い聞いてみたいことがあればお願いします。

幸四郎:『侍タイムスリッパー』、続編はありますか?

山口:なんですかその質問(笑)

幸四郎:続編のタイトルだけいろいろ考えました。

山口:たとえば?

幸四郎:『侍タイムマシーン』『侍タイムショック』とか。

山口:普通に『侍タイムスリッパー2』でいいんじゃないですか。

幸四郎:なんなら私が脚本を書きますよ。

山口:本当ですか?

――それくらい、あの作品は幸四郎さんにとっても衝撃的だったということですか?

幸四郎:そうですね。馬木也さん主演の『侍タイムスリッパ―』は、ちょうど『本所・桜屋敷』と『兇剣』の間にあった作品で。久々に馬木也さんにお会いする機会でもありましたので、せっかくなら会う前に続編のタイトルを考えようと(笑)。あれだけ話題になっても、何も変わらない馬木也さんでうれしかったです。

山口:それこそ私のほうから幸四郎さんにいろいろ伺いたいところなんですが、“腹の内”までは探れないというか、俳優としてどう向き合っているのかとか、ご本人は絶対語られないでしょうし。でもやっぱり気にはなるんです。芸歴だって僕のほぼ倍で、何かに向かう時の心構えとか……。私は幸四郎さんが“日本一の立ち回りをされる方”だと思っています。

幸四郎:ぜひ見出しに書いてください(笑)

○撮影前の“立ち回りの合宿”に山口馬木也驚き

山口:その幸四郎さんが『兇剣』の撮影のために“立ち回りの合宿”をされていると伺いました。さらに、作品が始まる時には段ボール何箱もの資料を持っていかれるとも伺って。そこにすべての理由があるのかな、と。幸四郎さんほどの方だったらもう準備なんて必要ないんじゃないかと思ってしまうんです。

 でも、ご自身の中でまだ目指すものがあって、足りないと感じる部分がある。それは私には到底わからない領域で、あれだけ準備されているのに、現場ではひょうひょうとしていて、全くそんな素振りを見せない。そのあたり、ぜひ深掘りして聞きたいです。

幸四郎:まぁ、本当は何もしないでできるのが理想なんです。ゴルフだったら打ちっぱなしに行かずにコースを回りたい、みたいなね。私はゴルフやらないんですけどね(笑)

――具体的にどんな立ち回りの稽古をされるのですか?

幸四郎:自分の技術的なことが中心です。撮影当日はテストができないんです。平蔵は気流しで立ち回ることも多いので、前もって「どれだけ着崩れるのか」「こう動くと破れるのか」「かつらはどこまで耐えられるのか」を試しておく必要がある。今回は正統な殺陣でいくか、それとも崩すのか。その方向性を探ったり。舞台じゃないので、地面も凸凹ですし、筋力も私はないほうだと思うのですが、それでも平蔵は強く見えないといけない。そのための準備です。殺陣は好きですし。

――では、馬木也さんが時代劇に取り組む上で“核”とされていることは?

山口:いつも時代劇で意識しているのは、“時間”です。というのも『剣客商売』に出演した時、「ちょっとそこまで行ってくれ」と言われて、「へい!」と返してその距離を調べたら、ものすごく遠かったんです。つまり、現代と江戸の“時間の感覚”は、まるで違うんだなと。それ以来、時代劇でよく言われる「朗々と」「ゆっくりと」という表現のヒントは、全て“時間”にあるんじゃないかと思うようになりました。

 これまでの『鬼平犯科帳』にしても、幸四郎さんの『鬼平犯科帳』にしても、私の中では“さかずきを逆さで飲んでいる”ような印象があって。器はものすごく大きいのに、それを表で見せず、ひっくり返して裏で飲むような、ちょっとしたユーモアがあると思うんです。それこそ「能ある鷹は爪を隠す」ではないですが、池波正太郎作品の登場人物たちには誰しもそんな一面が感じられる。もちろん幸四郎さんの平蔵にもその“質”があって、ご本人の持っている質とすごく合っている。池波正太郎作品には“ユーモア”と“器の深さ”がある。私もそんなことを意識しながら時代劇に取り組んでいきたいという思いがありますね。

ヘアメイク=鶴﨑知世(松本幸四郎)、石部直子(山口馬木也)

スタイリスト=川田真梨子(松本幸四郎)

衣装協力=ヨウジヤマモトプールオム

渡邊玲子 映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍する俳優・映画監督・クリエイターのインタビュー記事やレビュー、コラムを中心に、WEB、雑誌、劇場パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。 この著者の記事一覧はこちら
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