「彼は計算で優しいわけじゃない。自然に“まず相手を思う”所作が染み付いている。
映画『架空の犬と嘘をつく猫』(1月9日公開)の宮川宗生プロデューサーは、主演・高杉真宙についてそう評する。演じた“山吹”という青年が持つ優しさ、それは彼自身の中にも確かに息づいている――今回の取材で、そう確信する瞬間が何度もあった。
○10代の頃に出会った人物からの忠告
映画の中心となるのは、現実と向き合えず“嘘”に逃げる羽猫家という家族。母は亡き次男の死を認められず、空想の世界で生きる。父は愛人の元に通い、祖父は無謀な夢ばかりを語り、祖母は“嘘”を扱う仕事に明け暮れる。長女は“嘘が嫌い”だと言いながら、家族に背を向ける。そんな中でただ一人、長男・山吹は、亡くなった弟のふりをして母に手紙を書き続けながら、バラバラな家族に寄り添おうとしていた――。
高杉が演じた山吹は、家族と社会の狭間で悩みながら、それでも「何か」を信じて生きている。
「原作は読ませていただいたのですが、あえて途中でやめました。というのも、台本と原作で少し異なる部分があったので」
自分が投じられる目の前の物語を、常に大切にしている高杉。彼にとってその立ち止まる行為は、台本と自分を重ねる上ではとても重要な判断だった。
「もちろん、作品によっては全部読むこともあります。
本作でメガホンを取った森ガキ侑大監督は、そんな高杉について、「“やってきてませんよ”みたいな雰囲気でスッと入ってくる。でも、カメラが回るとちゃんと役に向き合っているのが芝居で分かるし、考え方も鋭い人」と語っていた。
「うれしいですね(笑)。自分が思うようにやってみて、違ったら周りの方が言ってくださるので。自分が考えて持ち込んだものを信じて、まずはやってみることを意識しています。どの現場でも一緒なのですが、だからあまり監督に聞きに行くことはありません」
この姿勢は、10代の頃に出会った人物からの忠告が大きく影響していた。
「高校生くらいの時ですね。ある舞台でアクション監督からよくダメ出しをもらっていたので、『どうでしたか?』と聞きに行ったんですよ。そしたら、『聞きに来るな!』と怒られて(笑)」
まずは、自分が思うようにやってみろ。改善すべきところは、いくらでも指摘してやる。厳しさの中にもある優しさに包まれ、高杉は俳優として伸び伸びと成長していく。
「できる、できないは関係がない。
○「九州の風の中で、僕は生きていた」
佐賀で撮影が行われた本作。地方ロケの際、高杉がとても大切にしている“ルーティン”がある。
「よく散歩をしたり、電車とか公共交通機関を利用したりすることが多いですね。その土地を歩いて、そこにどのような人がいて生きているのかを肌で感じるようにしています」
自ら感じたことを体内に蓄積し、自分と作品を接続する。能動的な演技の動力源となる大切な時間。その“充電”の中で、自身のルーツを感じることもある。
「最近、福岡に帰る機会があったのですが、田んぼ道とか似たような雰囲気のところがあると改めて実感したんですよね。これが佐賀でも感じた心地良さだったんだなと。佐賀と同じ九州の風の中で、僕は生きていたんです」
作品の舞台となる地域の空気に身をゆだねることで、役の“生活感”が自然と体に染みつく。
「そうおっしゃっていただけるのはうれしいです。でも正直、僕は山吹をそんなに優しい人だとは思っていません。根本的には家族思いだと思いますが、彼の優しさは、責任感から来ているものなのではないかと。幼少期の覚悟や罪滅ぼし、幼いながらにあった自分のルールから生まれた優しさ。それが癖になっている人だと捉えています」
高杉は、山吹を「優しい人というより、根本的には独りよがりでエゴの強い人」と解釈していた。ところが彼は、「でも」と続け、「優しさって突き詰めると、誰しもそういうものなのかもしれませんね」と撮影を終えた今でも山吹に寄り添おうとする。
別のスタッフからは、「押し付けがましさのない誠実さで現場に溶け込み、困っている人を自然にサポートする。その“素の姿”が、受け身で不器用ながら人を思う山吹と重なる」という証言もあった。
そのことを伝えると、「そうなんですね(笑)」と照れくさそうにしながらも、見守ってくれているスタッフへの感謝の気持ちを伝える。
「誰かの助けになるのは、確かに嫌いじゃないかもしれません。座りたいのかなと思ったら、椅子を出すとか。そんな細かいところまで見られていることにちょっと驚きますが(笑)、どんな些細なことでも、それだけ真剣に感じ取ってくださっているということですね」
○「余白があるからこそ人間らしさが生まれる」
祖母・澄江が山吹に対して、“役に立つもの”しかない世界を想像させて、「そんなつまらん世界、おことわり」と言い放つ場面がある。高杉の心にも突き刺さる言葉だった。
「あれは“愛”だと思いました。文学的な、深みのある愛。『好き』『愛してる』は、表面的に捉えると“言葉”でしかないので、相手によっては嘘にもなり得る。でも、あのセリフには嘘ではない思いが詰まっています。小説、脚本が生み出した素晴らしい言葉ですよね」
原作でも、澄江は山吹に“役に立たないもの”の例を、「お芝居は役に立つ?絵は?音楽は?漫画は?お子様ランチのチキンライスの上の旗は?女の子のスカートの裾に縫いつけられたフリルは無駄?」と挙げる。
「世の中はいらないものであふれているほうが豊かですし、意味のないもの、余白があるからこそ人間らしさが生まれる。それが愛につながっていくんだと思います」
コロナ禍で「不要不急」と見なされたエンタメ業界。当時、“いらないもの”と判断された仕事に携わる身として、どのような思いを抱いていたのか。
「存在意義が問われる期間でした。自分は出る側なので、0→1ではない。その上で、自分は何を生み出し、何のために働き、何のためにお金をもらっているのかを考えたことで、その後の作品との向き合い方も変わっていったような気がします」
自分は俳優として、何のために働くのか。その後、様々な作品を経て、一つの答えを導き出した。
「以前は、『自分の好きな作品をやりたい』とか自分視点の思いが強かったのですが、『人のため』に変わりました。でもそれは、当時の自分にとって、考えた末の結論でしかない。様々な作品で経験を重ねていく中で、『人のために』という意識でそれぞれの作品と向き合えるようになったと思います」
そのきっかけになった、明確な出来事がある。高杉の俳優人生で、二度目の大きなターニングポイントだ。
「セリフの間や呼吸など細かい部分で伝わる感情にも違いが出るのですが、それはお客さんに伝わらなくてもいいものと思ってやっていました。それが、あるファンの方からいただいたお手紙に、『セリフの間や呼吸で感じているんだと分かりました』と書いてあって。そこまで真剣に見てくださる方がいて届いているのであれば、作品のために時間を割いてくださっている方の人生に良い影響が出るような作品に出たいし、そういう仕事をしたいと思うようになりました」
○人の背景を想像するのは思いやりを持てること
15年以上のキャリアでたどりついた、「誰かの人生に影響を与えたい」という思い。映画では、登場人物たちの環境が変化していく様も描かれているが、高杉もまた中学2年生の時、単身での上京は大きな挑戦でもあった。
「そこまで東京に行きたいという気持ちはなかったんですけど、着いた時にやっぱり何でもあるなと圧倒されましたね。あとは、寂しかったですね。当時はそこまで深く考えていなかったんですけど、こうして今振り返ると、寂しかったんだなと思うことが多いです。あまり記憶がないですが、毎日家族や友達と電話していたらしいです(笑)」
自分は九州の“風”の中で育った。都会の喧騒の中で忘れそうになる感覚が、故郷に立つたびに呼び起こされる。そんな彼を支えて来たのは、同じ“風”を一緒に浴びた友人たちだ。
「友達は高校や中学がほとんどです。共演した方々は、どうしても仕事仲間みたいになるというか」
自分から湧き出るものを作品につなげ、進化し続ける俳優・高杉真宙。本作を通して彼が得たものは、“優しさの深み”だった。
「改めて僕の中の意識的なところですが、すれ違う人や向き合う人だけじゃなくて、コンビニの店員さんや電車で隣に座る人など自分と直接話さない人、彼ら彼女らの背景を考えられるようになりました。『この人にも家族がいる』『犬を飼っているかもしれない』とか。もともとそれが多少なりともあった方ですが、より強く思うようになると、もっと人に優しくなれるはず。人の背景を想像することって、思いやりを持てることなんじゃないかと」
取材を終えれば、インタビュアーと俳優は、それぞれの日常へと戻っていく。たった今まで交わされていた言葉や眼差しは、あくまで“その時間”だけに許された特別なものだ。
いつものように、わずかな寂しさを胸に、現場をあとにしようとした――そのとき、彼が足早にこちらの前を通り過ぎた。すぐにまた引き返して、もう一度すれ違う。おそらく、次の取材先へと急いでいるのだろう。けれどその合間にふとこちらに気づき、通るたびに、にこやかに一礼してくれた。
彼の頭の中にも、こちらの“背景”が浮かんでいたのだろうか。「人の背景を想像することは、思いやりを持てること」――そう語っていた彼の言葉が、今でも優しく耳に残る。
■プロフィール
高杉真宙
1996年7月4日生まれ、福岡県出身。2009年に俳優デビューし、2014年に映画『ぼんとリンちゃん』で「第36回ヨコハマ映画祭」最優秀新人賞、2017年に映画『散歩する侵略者』で「第72回毎日映画コンクール」スポニチグランプリ新人賞を受賞。これまで、NHK大河ドラマ『平清盛』(12)、『光る君へ』(24)、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』(22)、映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-/-決戦-』(23)、『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』(25)、『盤上の向日葵』(25)などに出演。











![[USBで録画や再生可能]Tinguポータブルテレビ テレビ小型 14.1インチ 高齢者向け 病院使用可能 大画面 大音量 簡単操作 車中泊 車載用バッグ付き 良い画質 HDMI端子搭載 録画機能 YouTube視聴可能 モバイルバッテリーに対応 AC電源・車載電源に対応 スタンド/吊り下げ/車載の3種類設置 リモコン付き 遠距離操作可能 タイムシフト機能付き 底部ボタン 軽量 (14.1インチ)](https://m.media-amazon.com/images/I/51-Yonm5vZL._SL500_.jpg)