2026年は、あまりに衝撃的なニュースで幕を開けた。米国による、ベネズエラ大統領の拘束――。
一国のリーダーを他国が連れ去るという事態に、「戦争の引き金になるのでは」「株は大暴落する」と不安を感じている人もいるかもしれない。

そんな中、「株価への影響は、ほぼ無風です」と語るのが、登録者数35万人超のYouTubeチャンネル『鳥海翔の騙されない金融学』の鳥海翔氏だ。

なぜ、そう言い切れるのか。不測の事態でも冷静でいるために大切な視点とは何か。鳥海氏に話を伺った。
「戦争だ、暴落だ」と騒ぐ市場の浅はかさ

2026年1月3日、正月ムードが残る日本に飛び込んできたのは、あまりに衝撃的なニュースだった。「米軍がベネズエラに侵攻。大統領夫妻を拘束し、ニューヨークへ移送」。

理由は「麻薬カルテルへの関与」と「不法移民問題」とされ、一国の元首を他国が強制的に連行し、自国の法で裁く展開となっている。

SNSでは「第三次世界大戦の幕開け」などの投稿が拡散され、状況次第ではパニック売りが殺到するといったシナリオが囁かれている。常識的に考えれば、これは紛れもない「有事」であり、リスク資産をすべて現金化して嵐が過ぎるのを待つのが正解に思える。

しかし、鳥海氏は「結論から言います。
今回の件で慌てて株を売ろうとしているなら、それは投資家としてあまりに未熟です」と話す。「株価の本質的な価値に与える影響は、ほとんど無風と言っていいレベル」だというのだ。その根拠は「株価=EPS(一株当たり利益)×PER(株価収益率)」という大原則にあるとか。

「PERは『雰囲気』や『期待値』で変動します。『戦争が起きそうで怖い』という投資家の不安はたしかにPERを押し下げ、株価を一時的に下落させるでしょう。トランプ政権時代に関税発言で市場が揺れたのと似た現象です」(鳥海氏、以下同じ)

だが、鳥海氏がそれ以上に重視するのは、EPS、つまり「企業の稼ぐ力」だ。

「冷静に考えてみてください。ベネズエラの大統領が連行されたことで、エヌビディアのGPUが売れなくなりますか。グーグルの検索広告が減り、アマゾンの物流が止まりますか。答えは『No』です。米国企業の利益構造には何の変化も生じていません。EPSが下がらない以上、雰囲気(PER)だけで株価が落ちたとしてもそれは絶好の買い場、要は“バーゲンセール”でしかないのです。
もちろん、S&P500やオルカンも同様です」

米国が懸念するのは“中国の接近”

しかし、米国が掲げる「麻薬」や「移民」という大義名分を、額面通りに信じる人は稀だろう。これは単なる暴走ではないのか。投資家として、この事態をどう整理すればよいのか。鳥海氏は、市場の不信感の正体を歴史的な文脈から解説する。

「もちろん、報道されている『麻薬』や『不法移民』というのは、あくまで大衆向けの大義名分に過ぎません。投資家が見るべき本質は、もっと泥臭い『資源』と『覇権』の争いです。ベネズエラという国は、かつては米国と蜜月関係にありました。理由はシンプル、『石油』です。技術も資金もないベネズエラに米国が資本を提供し、石油を掘る。完全なWin-Winの関係でした」

ところが、1999年に反米・左派のウゴ・チャベス政権が誕生し、石油産業を国有化して米国を排除したことで歯車が狂った。その後、原油価格の暴落とともに国は破綻し、ハイパーインフレでパン一つ買うのに札束が必要になる状態へと転落した。

ここで問題なのは、“弱り切ったベネズエラに中国が接近しているという事実”だと鳥海氏は強調する。


「中国はかつての米国のように資本と技術を提供し、見返りに石油を独占的に買い上げようとしています。米国からすれば、目と鼻の先にある巨大な油田を、最大のライバルである中国に握られている状態です。これは安全保障上、極めておもしろくない。つまり今回の強行策は、中国に傾きすぎたベネズエラの利権を、強引に『リセット』しに来たというのが実情でしょう。米国にとっては、自国の『裏庭の掃除』に過ぎません。これが世界大戦に発展するか。その可能性は極めて低いと言わざるを得ません」
「台湾有事」との混同は思考停止でしかない

だが、楽観論ばかりでは済まされない。今回の米国の行動が正当化されるなら、例えば「中国が台湾に難癖をつけて侵攻し、総統を拘束する」ことさえ正当化されてしまうのではないか。

この事件は、世界中の独裁国家に「力による現状変更」の口実を与えたことになる。もしそうなれば、台湾の半導体供給網は寸断され、世界経済は壊滅する。そこまでの連鎖反応を考えれば、「売り」一択ではないのか。

「たしかに、政治的な文脈で見れば極めて危険な前例です。
ただ、投資判断においては『それはそれ、これはこれ』と切り離して考えなければなりません。もし、この動きが飛び火して実際に『台湾有事』に発展するなら話は別です。

台湾のTSMCが止まれば、アップル(AAPL)やエヌビディア(NVDA)の製造ラインも止まり、EPSの前提そのものが崩れる可能性があります。その際、売ることを視野に入れるのは否定しません。ただ、今回のベネズエラの件と台湾有事は、現時点ではあくまで別物です。それをごっちゃにして、『なんか怖いから全部売ろう』と考えるのは、思考停止と言わざるを得ません」

さらに「歴史を振り返れば、こうした局地的な地政学リスクで株価が暴落した局面は、後から見れば“絶好の買い場”であったことがほとんどです」と鳥海氏は語る。長期的な視点に立てば、インデックス投資の積立を止める理由などどこにもないのだ。

「厳しい言い方をしますが、相場で損をするのは常に『感情で動く人』です。株価が上がれば強気になり、ニュースで不安になれば狼狽売りをする。それでは、冷静にEPSを見ているプロにお金を貢いでいるようなものです。これから事態はどう動くかわかりません。でも、企業の利益構造(EPS)が破壊されていない限り、株価は必ず戻ります。
ニュースやSNSの煽りに耳を貸さず、企業の『数字』を信じる――結局のところ、やるべきことはそれに尽きるのです」

世界が恐怖に支配される今こそ、市場の喧騒に惑わされず、冷静に本質を見極める“投資家としての胆力”が試されているのかもしれない。

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら
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