愛用する腕時計を手がかりに"人生の時"を語ってもらうインタビュー連載『夢を刻む、芸人の時計』。テレビでおなじみのあの芸人は、どんな若手時代を過ごし、ブレイクの瞬間を迎え、どうやって未来を刻んでいくのだろうか? そのストーリーに迫る。


本稿で話を聞いたのは、お笑いコンビ しずるの純さん。1981年1月14日生まれ、東京都足立区出身で、NSC東京校(お笑い養成所)の9期生。相方の池田一真さんと2003年にしずるを結成している。
芸人人生のはじまり

――初めて自分で買った時計を覚えていますか?

おそらく中学生のとき、何かの時計を買ったような気がします。その後、高校生のときにヴィレッジヴァンガードでデジタルの時計を購入しました。ボタンを押すと「ベーン」って音が鳴るようなプラスチック製の腕時計です。さっきインターネットで調べたんですけど、出てこなかった(笑)。オモチャまではいかないけど、だいぶカジュアルな水色とピンクのやつだった気がします。あと、誰かにカシオのBABY-Gをもらった記憶も。

――高校生のときは、どんな生徒でしたか?

サッカー部に入っていて、誰とも話す明るいヤツでした。ダウンタウンさんへの憧れから、アウトローなお笑いにも目覚めていて。『ダウンタウンのごっつええ感じ』をよく見ていたし、漫才もコントも好きでしたね。


――初めて舞台に上がったときのことは覚えていますか?

養成所時代、いわゆる芸歴0年目のときに新宿シアターモリエールに立ちました。出演者は養成所の学生ばかりで、MCは1コ上の先輩がやっていて。当時は、別の相方とピスタチオというコンビを組んでいました。あ、皆さんが知っているピスタチオのコンビより、ずっと前の話です。やってたネタは「こども電話相談室」で、このとき結構ウケたんですよ。こどもの質問が小賢しく、とってもませているという設定で。

――相方の池田一真さんとは、その後に出会うんでしょうか?

そうですね。同期のライス、池田、当時池田の相方だった鬼龍院翔とボクは仲良しグループで、よくつるんで遊んでいました。しずるを結成して最初のネタは、たしか池田がお父さん役で、ボクが赤ん坊の役で、言葉を覚えていくというようなシチュエーションでした。なんか変わったお笑いをしなくちゃ、という思いがあったんですが、はじめからお客さんも結構笑ってくれました。

――芸人を辞めようと思った時期はありましたか?

辞めようまではないですけど、苦しい時期はありましたね。ちょうど10年くらい前かな。
テレビの仕事が増えて人気が出たあとに、落ち着いちゃって。その頃、8.6秒バズーカー、バンビーノ、それこそピスタチオら後輩が出てきて、リズムネタが流行り出して。そうすると、自分たちのやっているネタがもう世間に求められていないのかな、なんて思えてきちゃった。「どうしよう?」「自分たちもリズムネタやった方が良いの?」まで考えました(笑)。相方との仲も良くなかったし、軸がブレそうになりましたね。

しずるは、ボクも池田もネタを書くコンビなんですが、その悩んでいた頃に池田が書いたネタだけで単独ライブをやることになって、それに乗っかったら思いのほか楽しくて。その次の年、池田の書いたネタでキングオブコントの決勝にも行けました。「また自分たちのコントを見てもらえる現場に戻ってこれた」なんて思いがありましたね。その年、子どもも生まれて自分も環境がガラッと変わって。現在は、また各々が作った「村上作」「池田作」のコントを2人でやっています。
時間の向き合い方と切り替えのスイッチ

――いま大切にしている時間は?

やっぱり、家族と過ごす時間ですね。生活の基軸になっています。
息子がまだ起きている時間に合わせて、早めに帰宅することもあります。すると自然に、太陽が上がったら起床して、沈んだら就寝して、という真っ当な人間のルーティンに戻ることができました(笑)。夜間の仕事が増えてきたときは、1回、マネージャーに確認して調整してもらうこともあって。

これはSNSで見たのかな、前にグッと来たマンガがありました。公園で子どもを遊ばせている新米パパに、通りがかったお爺さんが言うんですね。「いまのうちに、たくさん子どもと遊んでおいた方が良いよ」と。子どもが大きくなったときに「子どもが遊んでくれていたんだな、って気づくから」って。いつかは親離れしちゃう子どもも、いまは一緒にいてくれるんだ、遊んでくれているんだ、なんて考えるようになりました。

――いま大事にされている時計を教えてください

実は以前、SNSに投稿した「奥さんにもらった大事な時計」ですが、壊れちゃって。セイコーの時計でした。いま使っているのは、このカシオの2本です。もともとレトロなデザインが好きなんですが、チープカシオと呼ばれるシリーズに、可愛い、好みのデザインの腕時計を発見して。
その中でも、機能としてデジタルの液晶、デザインとしてアナログの文字盤があるモデルがこれでした。

子どもに生活の基軸を置くようになってから、自分の趣味には本当にお金をかけなくなりました。安価で好きなデザインで機能もしっかりしている、ということでカシオに落ち着いています。

――純さんにとって時計とは、どんな存在ですか?

意外と、オン・オフを切り替えるスイッチのような役割を果たしているのかも知れません。腕時計をつけたら仕事に行く、外出するモード。楽屋では、外すことでリラックスできる。もちろんファッションとしても、好きな服に合わせると気分が良いですよね。心地の良いワンポイントになってくれています。

――最近、「時間が足りない」と思ったときはありますか?

...ないかなぁ。歳くっちゃうと、自分の中で生き方が固まってくるんですよ。時間は有限だし、人生もどこでポックリいくか分からないですが、この先できることもあるしできないこともある。それって、すべて想定内だと考えるようになったんです。
時間が足らないこともある、それも想定内。嫌なことがあっても「過去にも似たような理不尽な出来事はあった。まぁ想定内だな」って。そのとき、気分は最悪でしょうけどね。過ぎてしまったら「時間が足らなかったか。まぁ、そういうこともあるよな」って思う。良いか悪いかは別として、最近、そんな考え方を自分の生き方にBETするようになりました。生きていればイラッとしたり、むしゃくしゃすることもありますが、どうせ次に進まないといけないから、想定内ってことで包んでしまう。

――想定内...勉強になります。

そういう設定でやってみてる、ってことですから、そんなに感心しないで(笑)。もしかしたら来年あたり「あの想定内って考え方は、あんま良くなかったな」って思っている可能性もある(笑)。
予定外を面白がる、心の余白

――最近、優先した時間はありますか?

もちろん家族との時間ですが、そのほかとなると...。
これは最近、よく考えることなんですが、何かが頓挫したとき、思っていたようにならなかったとき、切り替える時間は早い方が良いな、と思っているんです。たとえば、好きなラーメンを食べに行ったら臨時休業だった、って分かったら「新しいラーメン屋を開拓するチャンスだ」とすぐに切り替えたい。失った時間を、失わないとできなかった時間に変換したい。急な予定変更を良いものにする、という感じでしょうか。というのも最近、何が起こるか分かんないじゃん、ってことが多すぎるので...。進路が思わぬ方向に枝分かれしたとき、本来の理想と照らし合わせて「こんなはずじゃなかった」と戻ろうとするんじゃなくて、「俺の人生、こっちに転がっていくんだ、おもしれぇじゃん」って切り替えた方がストレスもかからないですよね。

あ、ごめんなさい、「優先している時間」というお題、サッカーがありました(笑)。サッカーをやるため、毎週、決まった時間を確保しています。健康にも良いですし、心も潤って、仲間とも親睦を深めることができています。

コントの時間、演劇の時間

――しずるとしてコントライブを続けながら、メトロンズでは演劇にも挑戦していますね。練習にかける時間、気を付けていることなどに違いはありますか?

メトロンズの場合、公演前に4週間ほど毎日稽古します。その中で、喋り方や間合いなどを固めていくんです。本番もコントとは違っていて、お客さんが笑っても「笑い待ち」をしません。作り上げた演劇を再現することを大事にしています。1か月かけて、丹精込めてデザインした形をお客さんの前に出す、そのときの反応や空気感で演出を変えない、ということですね。コントの場合はもっとライブ感があって、お客さんの反応を見ながら言い方を変えてみたり、時間をかける、あるいは間を詰める、ということをしています。その違いがありますね。

流されることなく、秒針が刻むようにコツコツと

――これから、どんな時間を刻んでいきたいですか?

西川きよし師匠じゃないですが、『小さなことからコツコツと』という言葉が身に染みる年齢になりました。尊敬する佐久間一行さんとよくお話するんですが、「本当に素振りだよね」と。常日頃から、自分のフォームを崩さないように素振りを続けていって、それで良いことも悪いこともあるかも知れないけど、やり続けないと自分の人生が豊かになる世界までたどり着かないから。周りの人たちの派手な活躍を見ても流されず、時計の秒針が刻んでいくように、1日1日コツコツと素振りして、大事に過ごしていきたいと思っています。できるだけ奥さん、子ども、池田、仲間とも「このひと振りひと振りで良いよな」って確認しながら。調子が良くなってきたから止めるとか、調子が悪いからいっぱい振るとかじゃなくて、一定のペースで振り続ける、ってことは思っているところですね。

――今後、手に入れたい時計はありますか?

昔、おはスタという番組でレギュラーをいただいていたときに、メイクさんがルイ・ヴィトンの腕時計をしていたんですよ。さりげない感じのクラシカルなデザインで文字盤は小さく、茶色の細い革のベルトで、あれたぶんアンティークの腕時計だったんですかね...。これ! というものはありませんが、ああいう出会いがあると良いですね。

――先ほども話題が出ました、メトロンズの公演がいよいよ第10回を迎えます。お客様に向けたメッセージをいただけますか。

節目の公演ということで、客演ゲストもお迎えしてスペシャルな配役でお送りします。チケットの売れ行きも好調のようです。まだ見に来たことがない人がいらっしゃいましたら、是非この機会に足を運んでいただけたら嬉しいですね。ゆくゆくは、メトロンズといえば即完、完売、なんて公演になれば、という思いがあります。いま見に来ていただけたら、将来は「わたし、あのときメトロンズ青田買いしてたよ」と自慢できると思うので(笑)、第10回を初めてに選んでもらえたら幸いです。

――純さんの人生の示唆に富んだお話が、とても勉強になりました。本日はありがとうございました。

取材:葉山澪
構成/撮影: 近藤謙太郎
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