「米軍、ベネズエラを攻撃。マドゥロ大統領を拘束」──年明け早々のマーケットに飛び込んだこのニュースに、肝を冷やした投資家は少なくないだろう。


SNSを開けば「トランプ氏、電撃作戦」「第三次世界大戦の火種か」といった激しい言葉が並ぶ...。南米の産油国を舞台に超大国が軍事力を行使したとなれば、ただでさえ不安定な世界情勢だ。「とりあえず現金化して様子を見るべきか」と迷うのも無理はない。

そんな中、「市場がざわついている時こそ、少し立ち止まって“事実”を確認する必要があります」と語るのが、投資家・トレーダーの窪田剛氏だ。

本稿では、今回の騒乱の背景にある領土紛争の地・ガイアナでの滞在経験を持ち、現地の空気を肌で知る窪田氏に、この事態の深層と、個人投資家がとるべき対応について伺った。
「米軍侵攻」でも日本株は平常運転な理由

トランプ大統領による強硬策を受け、市場では「中東情勢への飛び火」や「米中対立の激化」を警戒する声が上がっている。表面的なニュースだけを追えばリスク回避が正解に見えるが、窪田氏の見解は対照的だ。

「まず、ニュースを見て焦る必要はありません。今回の事象は『政治』『エネルギー』『中国への牽制』という3つの要素で構成されていますが、どれも日本株への直接的な影響は今のところ限定的だからです」(窪田氏、以下同じ)

窪田氏はそう切り出すと、それぞれの要素について解説を加える。

「多くの人が懸念する政治面ですが、日本から見ればベネズエラは地球の裏側。物理的にも経済的にも距離がありすぎます。心理的な不安はあっても、実際の日本市場への影響は無視できるレベルです」

では、産油国への軍事介入としてのエネルギー戦略はどうだろうか。


「たしかに、エネルギーには注意が必要です。かつてベネズエラは米国の石油会社の資産を接収した経緯があります。今回、米国が実効支配してそれを取り戻せば、原油価格が下がる可能性はある。

ただ、現地の設備は相当古くなっており、投資をして結果が出るのはだいぶ先の話。『明日すぐにガソリン価格が変わる』話ではないので、過敏になる必要はありません」

3つ目の中国要因についても、窪田氏は冷静だ。

「今回の作戦で『中国製の防空システムが作動しなかった』『機密が漏れた』といった情報戦も囁かれています。しかし、軍事情報の真偽など我々投資家に確かめる術はありません。わからないことに振り回されるより、わかっていることに集中すべきです」
まさに「遠くの戦争は買い」だった

そうは言っても、米軍が動くという地政学リスクが高まれば投資家心理は冷え込み、全体相場が下落するのではないか──そんな疑念は拭えない。

なかでも、市場参加者が少ない年末年始だったことも不安を増幅させた。しかし、窪田氏は“市場の答え”を見るように話す。

「実際にマーケットはどう動いたでしょうか。結果として、年明けの日本株は大きく上昇しました。
これが答えです。相場格言に『遠くの戦争は買い』という言葉があります。冷徹に聞こえるかもしれませんが、地理的に離れた局地的な紛争は、主要国の経済活動そのものを止めるわけではない。むしろ、過剰反応で下がったところは絶好の買い場になることが多いんです」

今回の件も、世界経済を長期的に巻き込む動きにはなっていないという。

「もし今、ベネズエラ周辺国に直接投資をしているなら警戒レベルは最大です。しかし、S&P500やTOPIX、あるいは一般的な日本株への投資であれば、特段やることを変える必要はありません。市場はすでに冷静になっていますから」

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ベネズエラ侵攻は“必然”...? 現地で見た火種

なぜ、窪田氏は「影響は限定的」とみているのか。単にマクロ経済のデータを見ているからではない。彼には、この問題の背景にある火種の近くに身を置いていたという稀有な体験がある。

「実は2018年の年末から2019年の年始にかけて、私はベネズエラの隣国、ガイアナのエセキボ川で釣りをしていたんです。ベネズエラが『俺たちの土地だ』と主張し、侵攻しようとしていた、まさにその地域です」

ガイアナはかつてのイギリス植民地。窪田氏が滞在していた当時は、日本人の年間渡航者がわずか数十人というマイナーな国だった。


「当時はピラニアやアロワナを釣る『釣り人の聖地』として知られている程度でした。でも、その沖合で巨大な油田が見つかって状況が一変した。『第2のドバイ』になるとも言われ、原油開発を背景に名目GDPは短期間で数倍規模に拡大、一時的に一人当たりGDPが日本を上回った年もあります。ベネズエラが執拗にこの地域を狙っていたのは、まさにその資源が目当てなんですよ」

ベネズエラが隣国の資源を狙って軍事的圧力を強め、それに対して米国が鉄槌を下した──。現地を知る人間からすれば、この構図はある種「自業自得」であり、必然の帰結だったといえる。

「当時から現地の空気感として、隣国との緊張感や政治的な混乱はずっとありました。マドゥロ大統領の強引な手法も今に始まったことではない。だから今回の『米軍介入・拘束』のニュースを聞いても驚きはありませんでした。投資視点で見れば、これは突発的な事故ではなく、ある程度予測されていた事態の清算なのです」

相場が荒れるほど、やることは減る

現地のリアリティを知る窪田氏の言葉には説得力がある。しかし、SNS全盛の今、「原油関連が来る」「防衛関連が買いだ」といった短期的な煽りは絶えない。こうした局面で、私たちはどう振る舞うべきか。

「一番やってはいけないのは、ニュースに反応して投資方針をコロコロ変えてしまうことです。
『原油が下がるかも』と慌てて関連株を売買したり、不確かな軍事情報を元に銘柄を選んだりする必要はありません。先ほどお話しした通り、実体経済への影響が出るとしてもだいぶ先の話です」

窪田氏は、外部の意見に惑わされるのではなく、まず自分自身の現状を見つめ直すよう促す。

「重要なのは、目の前の自分の資産がどう動いているかをたしかめること。お持ちのS&P500は暴落しましたか。半導体株は高値を更新していませんか。もし自分のポートフォリオがニュースと無関係に堅調なら、それが『正解』なんです。慌てて動く必要はどこにもありません」

そして、新NISAなどで積立投資を始めたばかりの人に向けて、こう強調して締めくくった。

「特に積立投資を行っている方は、今の戦略を崩さないでください。長期投資において最も重要なのは、相場がよい時も悪い時も、そして遠くで紛争が起きている時でも、感情を出さず淡々と買い続けることです。今回のニュースをきっかけに積立を止めたり、狼狽売りをしてしまうことこそが、将来の資産形成における最大のリスクですから」

「気にせず、今やっていることを続ける」──シンプルだが、この姿勢こそが不透明な時代において資産を守る、最も確実な方法と言えるだろう。

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。
県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら
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