「フェラーリ」という言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。
数千万円という常軌を逸したプライスタグ、鼓膜を震わせる爆音、あるいは成功者たちの顕示欲の象徴――。
富裕層の道楽であり、実用性とは対極にある非合理な乗り物として認識している人もいるかもしれない。実際、移動手段としてだけ見れば、これほどコストパフォーマンスの悪い買い物はないだろう。
しかし、「フェラーリは価格や性能といった、表層的な指標だけで語り尽くせる存在ではありません」と語るのが、株式会社VisionCreator代表の武藤孝幸氏だ。彼は現在、納車待ちを含めて実にフェラーリ10台分を所有・注文しているという。
それにしても、お金持ちはなぜこの「跳ね馬」に魅了されるのか。その思考回路を紐解くと、単なる高級車の購入ではない、ある種の“生き方の選択”が見えてきた。
スペックで選ぶ人ほど、フェラーリを選べない理由
まず、武藤氏の現在のガレージ事情(納車待ち含む)を見てみたい。そのラインナップは圧巻だ。
○【武藤氏が所有する10台のフェラーリ】
296 GTS(ニーニーロク・ジーティーエス)×2台
SF90 Spider(エスエフ・ナインティ・スパイダー)
296 Speciale(ニーニーロク・スペチアーレ)
Purosangue(プロサングエ)
Portofino(ポルトフィーノ)
488 Challenge(ヨンハチハチ・チャレンジ)
296 Challenge(ニーニーロク・チャレンジ)
Amalfi(アマルフィ)
Testarossa Spider(テスタロッサ・スパイダー)
これだけの台数を並べると、単なる収集癖のようにも見えるかもしれない。だが、武藤氏は「見る人が見ればわかる領域だからこそ、正確に伝えておきたい」と前置きしつつ、フェラーリを選んだ理由を語る。
検討段階では「ポルシェ」、「ランボルギーニ」、「ロールスロイス」、「AMG」といった名だたる高級ブランドも候補に挙がったとか。スペックや快適性といった基準で選ぶなら、ほかの選択肢のほうが優れている場合さえあるが、彼の決断の軸は明快だ。
「フェラーリには明確な“唯一性”があるんです。ほかの高級車であればスペックや快適性で比較検討ができますが、フェラーリはそもそも比較の対象にならない。乗り物というより、一つの文化に近いと感じましたね」(武藤氏、以下同じ)
ただ、一般人からすれば「荷物も積めない、段差に気を遣う、維持費がかかる」という三重苦の車であることに変わりはない。購入前の武藤氏もまた、「派手で維持が大変な車」というステレオタイプなイメージを持っていた。しかし、実際に所有したことで、その認識は一変したのだそう。
「たしかに荷物は積めませんし、段差にはものすごく気を遣います。合理性だけで選ぶなら、絶対に買わない車でしょう。でも、フェラーリは“感情の揺れ幅”が非常に大きいんです。ガレージでエンジンをかける瞬間から、ツーリングが終わって車を止める瞬間まで、ずっとテンションが続き、高揚感が途切れない。あれは、意図的な設計なのだと思います」
フェラーリの“真の利回り”は、お金じゃなかった
昨今、高級時計やヴィンテージカーは「投資対象」として語られることが多い。「フェラーリを買えば儲かる」という噂を耳にしたことがある人もいるだろう。しかし、武藤氏はこう語る。
「誤解されがちですが、通常モデルが高騰して利益が出ることは基本的にありません。もちろん、大きく値崩れはしませんが、投資対象としておすすめするものではないです。一方で、Specialeや限定車などは希少性が極端に高いため、市場に出回らず、結果として購入価格を上回るケースがあるのは事実ですね」
資産価値こそゼロにはならないが、決して濡れ手で粟の投資商品ではないのだ。それでも彼が買い続ける理由は、金銭的なリターンとは“別の場所”にあった。
その最たるものが、オーナー同士が交流する「コミュニティ」の存在だ。
もっとも、フェラーリオーナーの集いと聞けば、世間はどのような光景を想像するだろうか。成功者たちが愛車を並べてステータスを競い合うような、少しギラついた世界…。そんな、一般人には近寄りがたいイメージを持つ人もいるかもしれない。
だが、武藤氏がフェラーリ・ジャパン主催のツーリングイベントに初めて参加した際、目の当たりにしたのはまったく異なる光景だった。
「参加者は40代~60代のご夫婦が多く、非常に品があって、家庭を大切にされている方ばかりでした。社会的にも成功されている方々ですが、ギラギラした派手さや誇示するような雰囲気はなく、あくまで“成熟した大人の文化”としてフェラーリが存在していたんです」
そこにあったのは、顕示欲のぶつけ合いではなく、精神的な余裕を持った大人たちの社交場だった。その光景に触れ、武藤氏の価値観は大きく揺さぶられる。
「正直なところ、嫉妬や妬みといった感情は一切湧きませんでした。むしろ、『自分も将来、このように歳を重ねたい』という憧れに近い感情を抱いたんです。それが、私のフェラーリ熱をより強固にした瞬間でしたね」
真の価値は、数千万円では買えない体験
フェラーリのコミュニティには、他ブランドにはない独特の文化がある。なかでも武藤氏が推奨するのが、“夫婦で楽しむ”というスタイルだ。日本ではまだ浸透途上だが、その魅力は計り知れないそうだ。
「フェラーリは、夫婦で楽しむ趣味として成立するのがおもしろいところです。50代、60代になっても一緒にツーリングに行ける。共通の趣味を持つことで会話が生まれ、旅行の口実にもなる。もはや車というより、夫婦の時間を豊かにするツールなんです」
最後に、これから購入を検討している人へのアドバイスを求めた。数千万円の買い物において、見るべきはリセールバリューか、エンジンの気筒数か。しかし、武藤氏の答えはそのどちらでもなかった。
「フェラーリは“買った瞬間から趣味が始まる車”です。
そして武藤氏は、こう締めくくる。
「結局、大切なのは価値観が合うかどうかです。フェラーリは高級車という枠を超えた、ひとつの文化ですから。その世界を楽しめる方にとっては、人生の後半をより豊かにしてくれる、最高の趣味になると思いますよ」
「値段ではなく価値観で乗る」――武藤氏が手に入れたのは、車という枠を超えた、人生を豊かにするための最良のパートナーなのかもしれない。
西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら











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