1990年代以降の原付スクーターはレトロデザインが大流行しました。写真のモデルもそのうちの1台ですが、かわいらしいボディの中身は最新技術の塊でした。
さて、このスクーターの名前はなんでしょうか?

ヒント:ホンダのスクーターです

レトロデザインの原付スクーターといえばヤマハ発動機の「Vino」(ビーノ)が有名ですが、これはホンダのモデルです。

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○問題をおさらい!

正解はこちら!

○【答え】ホンダ「ジョルノ クレア」

正解はホンダ「ジョルノ クレア」でした!

「ジョルノ クレア」は1999年6月にホンダが発売した50ccの原付スクーターです。一見すると女性ユーザー向きの優しいレトロデザインですが、その中身はホンダの最新技術が詰め込まれた意欲作でした。同モデルの誕生には、当時の原付をとりまく時代背景が大きく影響しています。

原付をはじめとする小型バイクの場合、1990年代までは低コストでパワフルな2ストロークエンジンを採用するのが一般的でした。「スーパーカブ」や「モンキー」など、4ストロークに強いこだわり持っていたホンダは、1980年代に「スペイシー50」や「ボーカル」といった4ストの原付スクーターを展開していましたが、ヤマハの「JOG」をはじめとしたスポーティーな2ストモデルに人気が集中したため、やむなく4ストを廃止して「DIO」などの2ストを主力にしていきます。

ところが、1998年にバイクにも排気ガス規制が設けられたため、原付もクリーンな4スト化を余儀なくされます。

バブル経済崩壊による景気の低迷や1980年代のバイクブーム衰退で販売台数が激減している中、コストのかかる4ストエンジンを開発することはメーカーにとって大きな負担でしたが、ホンダにしてみれば得意な4ストで勝負できる好機でした。その第1弾として、“クリーン”“エコノミー”“サイレント”“タフ”を開発キーワードにデビューしたのが「ジョルノ クレア」です。サブネームの「クレア」(Crea)は、クリーン(CLEAN)と創造(CREATIVE)から生まれた言葉でした。

「ジョルノ クレア」は女性をメインターゲットとしたレトロで優しいデザインですが、その中身はホンダが持つ最新の環境対策技術がてんこ盛りです。

まず、完全新設計の4ストエンジンは右サイドにラジエターを一体装備した水冷方式を採用し、国内新排出ガス規制値の約1/2レベルを達成(CO、HC)。
従来の2ストに比べて約30%の燃費向上(自社同排気量スクーター比較値。30km/h定地走行テスト値)を実現していました。

また、従来のスクーターではエンジンと駆動部品が一体型でしたが、「エンジン」「スイングアーム」「ミッション」の3ブロックに分割したモジュール構造とし、各ブロックを変更することで、他モデルに転用できる汎用性の高い設計としています。

スクーターのフレームは現在に至るまで大半がスチール製ですが、「ジョルノ クレア」はアルミダイキャスト製を採用しました。これは軽量・高剛性といった性能面だけでなく、リサイクル性と生産効率の向上という環境保全を目的としたもので、こちらもエンジンと同じ理由で前後2分割のモジュール構造としています。

このほかにも、安全性を考慮した前後連動ブレーキのほか、上級グレードの「ジョルノ クレア・デラックス」では、量産二輪車として世界初の「アイドルストップ・システム」を採用しました。

こうして「ジョルノ クレア」は、ホンダが2000年以降の地球環境問題に対応した第1弾の原付として登場したわけですが、知名度の高い主力のスポーツモデル「DIO」ではなかった理由は、レトロ原付の人気モデルであるヤマハ「Vino」の存在が影響していたはずです。

「Vino」の初代モデルは1997年に登場し、ヤマハが得意とするデザイン力や女性ボーカルデュオ「PUFFY」を採用したプロモーションで女性ユーザー層に大ヒットしました。ホンダは「ジョルノ クレア」の先代にあたるレトロデザインの「ジョルノ」を「Vino」より5年も早い1992年にリリースしていたので、後から出てきた「Vino」の快進撃を何としても止めたいと思ったはずです。

その後、ヤマハの「Vino」も2004年にフルモデルチェンジで4スト化しますが、「ジョルノ クレア」は2003年に生産を終了し、エンジンやフレームを受け継ぎつつも、デザインをカジュアルな路線に変更した「クレア スクーピー」にバトンタッチしています。これにより、“ジョルノ”のブランドは途切れたと思われましたが、2011年に空冷4ストにスチールフレームのスタンダード原付「Today」をベースとしたレトロモデルとして再登場しました。

2015年に「ジョルノ」は、さらに厳しくなった排ガス規制に対応するため再び水冷化しますが、ホンダもヤマハもガラパゴス規格となった50cc原付のシェアで争うことはせず、2018年には、ホンダが「ジョルノ」「タクト」をベースとした「Vino」「JOG」をヤマハにOEM供給することに。
1970年代の「ロードパル」と「パッソル」に始まり、1980年代以降は「DIO」と「JOG」、そしてレトロブームでは「ジョルノ」と「Vino」で激しく火花を散らした両社でしたが、採算の取れない50ccから撤退するのではなく、必要としているユーザーのニーズに応えるため手を結んだというわけです。

50cc原付は2025年10月末に生産を終了しましたが、「Vino」に負けず劣らず、「ジョルノ」も多くのユーザーに愛された名ブランドです。タイでは2023年に登場した125ccの「GIORNO+」(ジョルノ プラス)が好調で、2025年秋には生産を3倍に増強するとのニュースも入りました。日本国内でも、このモデルをベースとした「新基準原付」として復活する日が来るかもしれません。

それでは、次回もお楽しみに!

津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら
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