「原付」と言えば誰でも知っている乗り物です。免許は16歳になれば筆記試験と実技講習だけで取得でき、自動車免許にも付帯されます。
車両価格や燃費、税金などの維持費も安いため、趣味でバイクを楽しむ人以外にも通勤・通学や買い物の足として利用されてきました。

その原付はホンダ・ヤマハ・スズキの3メーカーから販売されていましたが、2025年10月末に生産を終了したのをご存じでしたか? 新車は店頭の在庫だけで、そのほかは中古車しか選択肢がありません。それでは仕事や生活の足として原付を購入したいユーザーが困ってしまうため、2025年4月に追加されたのが「新基準原付」という新しい区分基準です。

前回は「新基準原付」の概要やメリット・デメリットについて解説しましたが、今回は50cc原付の生産ができなくなった理由について解説します。
1998年以降、厳しくなる一方の排出ガス規制

原付の生産が終了してしまった最大の原因は「排出ガス規制」に対応できなくなってしまったからです。

日本国内における排出ガス規制は、1966年に大気汚染防止を目的として自動車で始まりました。このときは二輪車は適用外でしたが、地球温暖化が国際的な問題として認識されるようになると1998年から二輪車にも規制が入り、その後も段階的に強化されています。最初の規制で2ストロークエンジンの存続が難しくなり、ホンダ「NSR」やヤマハ「TZR」といった人気の軽量スポーツモデルが消滅しました。2ストはパワフルで製造コストも安いので大半の原付にも使われていましたが、これらもすべて4ストロークエンジンへの移行を余儀なくされます。

しかし、2ストよりも排出ガスがクリーンな4ストになっても、年を追うごとに二輪車の排出ガス規制は厳しくなっていきました。燃焼を安定させるためエンジンの水冷化や燃料供給のインジェクション化のほか、エンジン内部で発生する未燃焼ガス(ブローバイ)を再燃焼させる複雑な補器類や、自動車のようにマフラー内に「触媒」という浄化装置も必要になりました。

この結果、「SR400」や「SEROW」のような規制前に設計された空冷エンジンモデルの多くが姿を消しました。
2016年以降はエンジン制御や排気ガスの異常を検知するOBD(On Board Diagnosis:車載式故障診断機)、2020年にはバージョンアップしたOBDⅡの搭載も義務化されています。

50ccには厳しすぎた排出ガス規制

原付の場合、2ストより複雑な4スト化で製造コストがアップしていたところに、さまざまな浄化装置も追加しなければならなかったわけですが、2022年11月に施行された「令和2年排出ガス規制」の内容はとても厳しいものでした。

排出ガスの浄化は排気管に組み込んだ「触媒(キャタライザー)」という浄化装置で行います。一般的な触媒は250~300度くらいの高温にならないと機能しませんが、熱量の少ない小排気量エンジンでは触媒の温度を上げるまで時間がかかります。排出ガスの測定は冷間始動から行われるため、どうしても50ccでは規定値をクリアすることができなかったのです。

排出ガス規定をクリアできなければメーカーは原付を販売することができなくなりますが、国内の生活インフラにも影響が出てしまいます。そのため50ccの原付一種は猶予期間を与えられていました。しかし最終的にホンダ・ヤマハ・スズキの3メーカーは継続開発を断念し、猶予期限となる2025年10月末をもって生産を終了したというわけです。
原付は薄利多売の商品で、利益も需要も減る一方…

こうした排出ガス規制に対応するため、メーカーは多額の開発・生産コストをかけてきましたが、原付は10~20万円程度で販売されてきた商品なので、大幅に値上げすれば売れなくなってしまいます。もともと利幅も少なく、メーカー知名度の向上やエントリー層の獲得、インフラとして社会に貢献する役割を持っていたため、各メーカーは製造コストの安い海外に生産移管するなどで価格上昇を抑えてきました。しかし、海外の人件費や輸送費などの上昇や円安なども影響し、そのメリットも薄れてきています。

原付需要も空前のバイクブームと言われた1980年代は年間約200万台を販売していましたが、2023年度は10万台を切るほど落ち込みました。
その理由はバイクブームの衰退だけでなく、同じ短距離を移動する乗り物として電動アシスト自転車が急速に普及したことも考えられます。原付より車両価格は安く、ガソリン代やオイル、タイヤ交換などのランニングコストも抑えられ、自動車税や自賠責保険なども必要ありません。

また、近年は電動キックボードやEVバイクが登場しています。こういった新しいコミューターがどのくらい普及していくかはわかりませんが、将来的に50cc原付のシェアが倍増する可能性は低いでしょう。

もはや50ccは日本だけの“固有種”! グローバル基準は125cc

前述のように日本の原付や小型車は1990年代に入ると台湾や中国、インド、ASEAN諸国のほか、欧州でも現地法人を設立するなど、現地メーカーと技術提携を結んで生産・販売されました。日本からノウハウを学んだ現地のメーカーも自社製品を作るようになりますが、海外では免許制度や保険が日本とは異なるため、生活インフラの小型車は125ccクラスが主流になっています。

現在もASEAN諸国やインドなどでは小型バイクの需要は急激に増加しており、すでに日本の各メーカーはこれらの国々をメインターゲットとした開発を行っています。長い歴史と知名度で日本製バイクは大きなシェアを獲得していますが、かつて技術提携をした国々のメーカーの性能や品質も侮れないレベルに成長しているため油断はできません。また、ガソリンエンジン以外にもEVバイクの普及を推進している国々もあるため、こちらも対策していかなければなりません。

50㏄原付の生産が終了したのは残念ですが、もはや需要は増える見込みがない日本国内のみで、今後の排出ガス規制によってはさらにコストがかかります。「新基準原付」という区分が作られたことは国内の原付ユーザーだけでなく、日本のメーカーも開発リソースを世界標準の排気量やEVに割り当てられるため、結果的にはよかったのではないでしょうか。
○次回:こんなケースはどうなる?「新基準原付」の普及後

原付一種の区分に追加された「新基準原付」ですが、普及後はさまざまなことが起こるかもしれません。
次回は従来の50cc(一種)と125cc(二種)のケースを交えながら解説します。

津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら
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