中途採用した社員が、前職で横領し懲戒解雇されていた事実が発覚―。人事・経営者にとって背筋が凍るような事態ですが、「経歴詐称=即懲戒解雇」と判断してしまうのは非常に危険です。
中途採用した社員に前職での横領歴が発覚
「先月に中途採用した田中さん、実は前職で横領をしていたようです」
人事部長からそう切り出されたのは、東京に本社のある不動産管理会社A社の社長でした。A社では以前から慢性的な人出不足が続いており、直近で給与水準の引き上げを実施し、採用強化に踏み切っていたところでした。田中さん(29歳・男性、仮名)も、その採用強化のなかで中途採用された社員の一人です。
田中さんは前職で事務業務を担当しており、不動産管理は未経験でしたが、「安定した業界で専門性を身につけ、長く働きたい」という志望動機が評価され、採用されました。入社後は日々の業務にも真面目に取り組み、上司や同僚から見ても、勤務態度に特段の問題はなかったそうです。
ところが、入社書類を確認していた人事部長が、ある違和感に気付きます。提出された源泉徴収票に記載されている前職の退職日が、履歴書の退職日と一致していなかったのです。単なる記載ミスにしては不自然と感じた人事部長は、念のために事実確認を行うことにしました。前職の人事担当者に対し、在籍期間や退職時期について、あくまで事務的な確認として問い合わせると後日、先方から慎重な口調で次のような回答が返ってきます。
「詳細はお伝え出来ませんが、田中さんは金銭に関わる不正行為が発覚し、懲戒解雇になっています」
驚いた人事部長はすぐに本人を呼び出し、事実関係について確認しました。
この報告を受けた社長は激怒します。「経歴詐称だ。面接でも横領や懲戒解雇の話は出ていなかった。履歴書にも「一身上の都合により退職」としか書かれていないじゃないか。そんな重大な事実を隠していた以上、懲戒解雇だ!」。信頼関係が大きく揺らいだことは確かですが、懲戒解雇で辞めさせることはできるのでしょうか。
即クビは危険! 逆に損害賠償を求められるケースも
経歴詐称と聞くと、「それなら懲戒解雇されても仕方ない」と考える方も多いかもしれません。経歴詐称とは、学歴や職歴、病歴、犯罪歴などを偽って会社に伝えたり、本来伝えるべき重要な事実を隠したりすることをいいます。
多くの会社では経歴詐称が発生したときの対応策として、就業規則の懲戒事由に「採用時に重要な経歴を詐称したとき」などと定めており、それを根拠に懲戒解雇を検討するケースがあります。
しかし、就業規則にそのような定めがあるからといって懲戒解雇してしまってもいいものでしょうか。その答えは「NO」です。
就業規則に定めているからといって、必ず懲戒解雇できるものではありません。実務上、経歴詐称を理由とした懲戒解雇が認められる場面は限定的だと考えられています。事前に経歴詐称が発覚していればその人を採用していないと判断できるほど重大な経歴詐称でなければならないとされています。つまり採用においてものすごく大切な部分でうそをついていれば懲戒解雇もできますが、そうでないと懲戒解雇はできません。
たとえば、業務上必須としていた資格や免許を持っていなかった場合や、経験者限定で採用していたのに実際は未経験だったケースでは、業務が成り立たないため懲戒解雇が認められる可能性があります。
一方で、過去の不祥事や犯罪歴については、現在の業務との関連性が薄く、業務に支障を与えないことも多いため、懲戒解雇は重すぎると判断されやすい傾向にあります。
仮に懲戒解雇の是非を争う裁判に発展し、「懲戒解雇はやりすぎだ」と判断されると懲戒解雇は無効となります。その結果、従業員としての身分が継続していたものと扱われ、未払いになっていた給与や賞与を支払いに加え、遅延損害金の支払いを命じられることもあります。
今回の田中さんの事例についても、退職事由を偽っていた点は問題ですが、入社後の勤務態度は良好で、現時点で業務に支障が出ているとも言えません。このような事情を踏まえると、懲戒解雇を行うことは難しいと考えられます。
懲戒解雇が行える要件とは?
懲戒解雇を行うためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
まず前提となるのが、就業規則に懲戒の根拠となる規程があることです。
もっとも、就業規則に懲戒解雇の定めがあれば、それだけで懲戒解雇できるわけではありません。前述のとおり、採用の前提を根本から覆すほどの重大な経歴詐称であることが必要になります。労働契約法では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その懲戒は無効になると定めています。つまり、やったことに対して社会一般の感覚からみて処分がやりすぎでないか慎重に判断しなければならないということです。さらに過去に自社で行ってきた懲戒処分とのバランスも重要です。今回だけ極端に重い処分を下してしまうと平等性を欠くとして、無効と判断される可能性があります。
就業規則に定められた懲戒手続きを、その手続き通りに行うことも重要です。たとえば、懲戒委員会を設置すると定めているのに実際には開催していない場合などは、手続きの不備として懲戒解雇が無効になってしまうおそれがあります。また、本人に弁明の機会を与えることは必須です。
経歴詐称した人を雇ってしまったら
実際に経歴詐称をした人を雇ってしまった場合には、まず懲戒解雇ができる程度のものかを冷静に検討する必要があります。本人から事情を聴取し、何をどの程度偽っていたのか、それが採用判断や現場の業務にどう影響を与えているのかを整理することが重要です。
経歴詐称が認められる場合であっても、懲戒解雇を選択するのはリスクが高いと判断した場合には、戒告・けん責・注意指導など比較的軽い懲戒処分とすることが現実的です。また、必要に応じて配置転換や業務の見直しも進めましょう。たとえば、前職で横領行為を行っていたのであれば、金銭を扱う業務から外し、リスクの低い部署へ移動してもらうといった対応が考えられます。
それでも雇用を継続することが難しいと判断するのであれば、一定の解決金を支払ったうえで、双方の合意による退職、いわゆる合意退職を検討することになります。感情的に結論を急ぐのではなく、法的リスクとのバランスを意識した現実的な対応が求められます。
再発防止のために企業がすべきこと
採用後に経歴詐称が発覚しても、実際に懲戒解雇まで踏み切ることは簡単ではありません。会社側が主導権を握れるのは採用の段階だけ、と言えます。だからこそ、最も重要なのは採用の入口でリスクを見極めることです。
近年では、SNS調査や前職へのリファレンスチェック、バックグラウンド調査といった手法が採用実務のなかでも知られるようになってきました。
この点については、バックグラウンド調査を専門に行う外部サービスという選択肢もあります。法令に配慮しながら適切な方法で、客観的かつ効率的に情報を整理してくれるため、人事担当者の負担を減らしながら、採用後のトラブルが起きるリスクを減らすことができます。
人手不足の今、採用で「人を確保すること」に意識が向きがちですが、「トラブルの未然防止」の視点も欠かせません。採用後にできることが限られている以上、自社の採用方針を改めて整理することが再発防止の一歩となります。
馬場順也(大槻経営労務管理事務所) ばばじゅんや 2016年4月社会保険労務士法人大槻経営労務管理事務所に入所。22年社会保険労務士登録。採用定着士。中小企業支援への想いから金融機関に入社。社会保険労務士との出会いをきっかけに専門的な立場からの支援の必要性を実感し、社労士を志す。クライアントの企業理念やビジョンの達成を支援し、働きやすい会社を作ることを目指す。 この著者の記事一覧はこちら











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