物流のカーボンニュートラル化がメガトレンドとなりつつあるが、その成否を握るのが「商用車のEVシフト」だ。

「はたらくクルマ」をバッテリーEV(BEV)に置き換えようとする時、大切なのは「エネルギーをどう管理していくか」という視点。
商用BEVトラック「エルフEV」を市場投入しているいすゞ自動車では、「充電管理」と「電力コスト」の2つの改題を解決するため、エネルギーマネジメントサービス「SmartEVer」(スマートイーバー)を開発し、2025年12月1日から提供を開始している。

「SmartEVer」とは、どんなシステムなのか。話を聞いたのは、いすゞ自動車 ソリューション営業開発部 EVビジネス企画グループの阿部敦さんだ。

名前の由来と開発のきっかけ

――「SmartEVer」の名前の由来を教えてください。

阿部さん:「Smart」は文字通り、賢いという意味です。今までのディーゼルトラックとは全く違った使われ方や運用が必要になってくるので、新しいEV車両を賢く正しく使っていただきたい、という意図で付けました。

次の「EV」はEVトラックのEV。そこに「er」をつけた「EVer」は永久にということで、トータルで我々のEV車両を長く賢く正しく使ってほしいという、企画・開発メンバー全員の願いをSmartEVerの名前に込めました。

――開発のきっかけは?

阿部さん:カーボンニュートラルというメガトレンドは変わっていない中で、物流は商業活動なので、商用BEVを運用する際にコスト、お金の話は、やはり大事になってきます。BEVを使うにあたって、確実に出てくるであろうと思っていた課題が「充電マネジメント」の領域で、そこにアプローチしたいという思いがありました。

いすゞには「EVison」というトータルソリューションプログラムがあり、BEVをどういうルートで使うのか、1日何kmくらい走らせたいのかなどを確認するヒアリングを実施していて、そこから導入後の課題が新しく出てきます。具体的には、どう充電するのかという運用面と、拠点での電力量逼迫という電力面の課題がありました。
それを解決するのが今回のサービスになります。

編集部注:「EVision」はエルフEVなどのいすゞのBEVを導入した企業に向けた総合パッケージサービス。運行ルートや運用コストなどのシミュレーションを行うコンシェルジュ機能、EV用のリース契約やパートナー企業と連携した充電設備の施工などを行うソリューション機能、導入後の効果を検証するレビュー機能があり、全体としてEV導入前後の問題を解決するという機能を持つ。その中のひとつとして開発したのがSmartEVerで、実際に複数台のEVを使用した際に発生する電力ピークを抑え、電気代の低減を図る。

導入のメリットは?

――「SmartEVer」導入のメリットは?

阿部さん:2つあると思います。

ひとつは、電気料金の上昇を抑制するというメリットです。成り行きで、何も考えずにEVを充電した場合、おそらく、ユーザー様の施設電力のピーク値を超えてしまうリスクが高まるのですが、このシステムを導入することで商用BEVの充電量(施設の使用電力)を調整することができます。

もうひとつのメリットは、実際の運行計画や契約電力などから自動で充電計画を立案する機能があることです。これにより、ユーザー様は、「何時からBEVを充電するのか」などといった充電計画を立てるハンド対応の業務を減らせます。

AIを用いた業務効率化というのは社会の大きなトレンドになっていますが、そういったところにもアプローチできているサービスなのかな、と思っています。

編集部注:具体的な仕組みとしては、いすゞのパートナー企業である「アイ・グリッド・ソリューションズ」のエネルギーマネジメントプラットフォームが施設の電力使用量の実績や予測データを分析、いすゞの商用車情報基盤「GATEX」に連携して各車が必要とする最適な充電量を算出し、それぞれの車両に充電の時間や受け入れ量をGATEXが指示する。トラック自体が通信を行なって充電タイミングのON/OFFを行うので、高額な通信機能付きの充電器は不要。
また、遠隔で充電コントロールができるので、駐車場所や充電器との紐付けが不要となり、さらにはドライバーにとっても、帰ってきたら充電器に差し込むだけ(あとはトラックがやってくれる)という使いやすさがある。

――「SmartEVer」のいすゞらしさはどんなところに?

阿部さん:今回のサービスはいすゞだけで完結しているものではなく、再生エネルギービジネス分野で有力なパートナー企業様との連携により実現可能となっています。

「いすゞって、電力のこともやっているの?」と思われたかもしれませんが、「SmartEVer」は、自分たちが持っていなかったアセットをしっかりと補いながら、頼れるところは頼って、いすゞの新たな強みを創出していこうという流れもあって実現したサービスだと思います。

いすゞは中期経営計画で「マルチパスウェイ」を掲げていて、BEVが適しているところではBEVを使って、BEVでは厳しい長距離などでは燃料電池自動車(FCV)を検討したり、カーボンニュートラル燃料を活用したり、どうしてもディーゼルエンジン車でしか走れないルートでは既存の手法を使ったりと、各地域の使われ方・地域状況・社会動向に適した商品を展開することで、カーボンニュートラル社会に貢献していくという明確なコンセプトがあります。そうした考え方のもと、我々の部隊はEV専任として、しっかりとビジネスを企画する、というメッセージを発信していくつもりです。

今回のサービスも、提供後に長く使っていただけるソリューションを展開しているので、実際に使われる部分の可視化、という面には特にこだわりました。

いすゞでBEV関連の仕事、やってみてどう?

――今の部署に配属される前には、こういう業務に就くとは想像していなかったかもしれませんが、ご自身のお仕事はどのように見ていらっしゃいますか?

阿部さん:BEVのビジネスを専任でやる部署に来るとは正直、思っていませんでした。ただ、固定観念にとらわれない新しい売り方にチャレンジをしていかなければならないという感覚は、役職に関わらず皆が持っていて、まだ経験の少ない私にとっても、非常にポジティブな配属だったかなという感覚があります。

自動車会社というのは、すでにできあがったビジネスをやる、というイメージを持たれている方が多いと思いますが、我々が入社する数年前から、すでに「自動車業界の100年に一度の大転換期」が来ていると言われていました。個人的に、この波はもうしばらく続くと思っていて、非常にチャレンジングなビジネス領域がたくさんあります。この業界で働くことを考えているなら、ぜひ前向きに飛び込んできてほしいと思っています。

SmartEVerのサービスラインアップには「エントリーパッケージ」「スタンダードパッケージ」「プレミアムパッケージ」の3つがある。
今回紹介したのは「スタンダードパッケージ」の内容。プレミアムは現在開発中で、太陽光パネルと蓄電池を併設した上でSmartEVerを使ってもらうシステムを想定しているという。具体的には、大きな物流施設の屋根に太陽光パネルを設置して、発電した電気を施設で使って電気料金を下げたり、蓄電池に貯めて最適なタイミングでBEVを充電してピークをコントロールしたり、というシステムになる。自社で作った太陽光の電気を使ってBEVを走らせることは、本当の意味でのカーボンニュートラルにつながる。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。 この著者の記事一覧はこちら
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