モーニング・ツーにて連載中(毎月第三木曜日の正午に更新)のお仕事コメディ漫画『極道オールアップ!』(小泉徳宏+モノガタリラボ/大谷紀子、講談社刊)。現在コミックス第1巻が発売中の同作品は、ラブコメ映画を愛する元極道を主人公に、映画の撮影現場で繰り広げられるドラマを描く。
『ちはやふる』などの大ヒット映画でメガホンをとった映画監督・小泉徳宏氏が原作を担当している点も注目ポイントとなっている。

映画監督として、またシナリオ制作チーム「モノガタリラボ」主宰として長年「映像」の分野で活躍する小泉氏が漫画原作に挑戦して気づいたこととは? 表現メディアの垣根を超えて創作を行う背景などを聞いた

俳優でも監督でもない“裏方”を主人公に


――『極道オールアップ!』、お仕事ものとしておもしろく拝読しました。

映画好きの方にも新しい発見を楽しんでもらいつつ、業界にあまり興味ない人もシラけず、主人公や各メインキャラに感情移入してもらえる物語は意識しています。業界の豆知識やあるあるは本作の大切なポイントですが、あまり作品の中心に寄せ過ぎないように。

――初の漫画原作とのことですが、本作はどういった経緯で連載が始まったんでしょうか?

映画『ちはやふる』シリーズでご縁があった講談社さんへ、僕が主宰するシナリオ制作チーム「モノガタリラボ」としていくつか連載漫画の企画を提案したんです。その中のひとつが僕の『極道オールアップ!』の企画でした。異業種からの参入なので、まずは自分たちの得意なことや身近なテーマを扱おう、と僕らの基本的な発想でしたね。

映画づくりの裏側で繰り広げられるドラマを描いた映画作品などは少なくありませんが、主人公を俳優や監督ではなく、裏方スタッフに据えた物語は新鮮かつ「モノガタリラボ」発の漫画としてユニークかなと。

――「モノガタリラボ」の立ち上げが大きな背景にあったんですね。脚本の共同執筆などを行うサロン的な集まり、とのことですが。

知り合いの脚本家を誘って自主的に始めた部活動みたいなものです(笑)。映画『ちはやふる -結び-』(2018年)を撮り終えた頃は、「ライターズ・ルーム」という脚本の共同執筆形式が米国で主流になり始めていた時期で、日本の映画・ドラマでもそうした執筆スタイルの可能性を模索したいなと。現在は舞台演出家やアニメーターのメンバーもいて、メディアやジャンルの垣根を超えて活動しています。


――日本の連続ドラマなどでは脚本家の名前が注目されることも多く、一人の脚本家が最初から最後まで書き上げるイメージがあります。

実際に日本ではそれが一般的ですね。映画『ちはやふる』は僕が脚本・監督というかたちでしたが、そもそも脚本家同士の仕事上の横のつながりも希薄なので。米国の映像作品は人気が続く限り、続編やシーズンを延々と重ねていく事情もあり、チームでアイデアを出し合いながら手分けして脚本を執筆する形式が広まったようです。

撮影現場の“ロケ飯”の大切さを語る


――1話では撮影中に冷蔵庫の音を止める仕事、2話ではスタッフの食事を用意する仕事と、リアルな映画の現場が描かれてます。

連載にあたって、漫画を担当されている漫画家の大谷紀子先生には、私の撮影現場の様子も実際に見ていただきました。好奇心旺盛な方で、たくさん質問されていたのが印象的でしたね。

――元極道という主人公・鯨のバッググラウンドは、どこからきたのでしょうか?

若い頃、映画の撮影隊のことを「〇〇組」と呼ぶ慣習が、任侠映画の極道みたいな世界観だなと思ったことがありまして……。近いようで遠い/遠いようで近い世界から映画業界へ飛び込む男を、思い切って主人公に据えた感じです。とくに昔は体育会的な感覚も強く、組織としても割と似たようなニオイを個人的にずっと感じていまして。

――なるほど(笑)。モデルは実在するんですか?

主人公の朴訥とした雰囲気や体格は、僕がよく一緒に仕事をしている助監督に寄せています。もちろん元極道ではないですけど(笑)。
鯨と仕事をする葉月瑠衣という女性キャラは、制作部の若手スタッフたちを合体させたイメージです。

――1巻に収録されている撮影現場の飯場のエピソード(Take.2 飯場)は小泉組の実体験でしょうか?

というか、撮影現場の日常ですね(笑)。現場の飯場が汚いと食事も美味しく感じない。それが数ヶ月間に渡る撮影だと、スタッフのパフォーマンスやモチベーションにもジワジワ効いてくるんです。

――監督のイメージに合うロケ地を探し回り、撮影許可をもらうロケハンの話も印象的でした(Take.3 ロケハン)。

ロケハンに関しては監督って一方的に指示する立場なので、クランクアップ後などに苦労話を耳に入ることが現実には多いです。こっちは一切空気を読まず「イマイチだな」とか平気で言うし、制作部も監督にそういう苦労は見せないんです。その苦労を知ると、僕もきっと判断に躊躇しちゃうと思うので。

――映画を観る人にとっても知る機会がないエピソードばかりです。

監督が知らない苦労話やドラマも実際の現場では多いので、本作ではたくさん描いていけたらなと。僕も改めて映画づくりの現場を勉強するつもりで、最近いろんな人に話を聞いています(笑)。

現場の働き方と邦画の制作環境の変化


――現場の雰囲気づくりなどで小泉さんが大切にしていることはありますか?

自分以外の発想やアイデアが活発に出てくるような環境をつくりたいと意識しているので、いわゆる“心理的安全性”を大切にしています。監督の僕自身は一歩引いて、逆に存在感を消そうとしているくらい。
良い映画を撮るための現場は監督の考え方で違うし、そこに優劣は基本ないんですけどね。

――日本の映画産業を取り巻く課題も多い状況です。

アニメなど極端なヒット作が目立ちますが、それで映画業界全体が底上げされているかというと、そんなことはありません。むしろ淘汰は厳しくなっていて、多様性が失われているような……。そうすると人も育たないし、自分たちで自分たちの首を少しずつ絞めている感覚が個人的にはあります。生存競争で言えば、漫画は映画以上に激しいかもしれませんが、映画よりは健全な創作環境や市場環境だと感じています。

――漫画の舞台である映画の制作現場で、働き方の変化は起きていますか?

「映適マーク」という健全な労働環境でつくられた映画に付与される認証のルールがこの2~3年で整備されてから、かなり空気が変わりました。厳しい体育会系の空気が完全になくなったわけではありませんが、葉月のような若い女性スタッフも増えていて、やわらかい雰囲気の現場が増えたのは間違いありません。ただ、ルールを守ったところで予算は変わらないのでプロデューサーは大変です。そもそも予算が潤沢なら、誰だって無理な働き方はしたくないわけなので。

映像と漫画、ストーリーテリングの違い


――『極道オールアップ!』は原作が小泉監督とモノガタリラボ、そして漫画は大谷紀子さんが手掛けられています。

大谷先生の力量には本当に驚くばかりです。言ってみれば漫画家ひとりで監督、カメラマン、演出、美術、俳優の全てをやっているので。
漫画家さんが、自身の作品を本当に子どものように大切にされるのも当然だよなと改めて実感しました。

――原作・脚本を手がける中で映画と漫画それぞれの特徴の違いは感じますか?

一般論ですが、物語の自由度が高く、クリエイティビティの制限が少ないことは漫画の圧倒的な強みです。日本映画の予算感では不可能な話もできるし、時間的な制約もありません。

鑑賞者の体感時間も漫画と映画のストーリーテリング上の大きな違いですね。例えば、全く同じセリフだとしても映像作品と漫画では、読者の体感時間には大きな差があるんです。セリフが極端に多かったり長かったりする漫画と、それをそのまま忠実に再現したアニメを比べたら、違いを如実に感じられますよ。

――なるほど。制約が多いゆえの映画の強みもありますか。

昔は映画=長編という感覚でしたが、今はむしろ映画のほうが短編的なポジションで、減量したボクサーみたいなメディアだなと。より際立った作品や物語が作りやすいですし、ストーリーテリングのコンパクトさは時代に合っていると感じていますね。

――全シーズン追いかけるのに何年も掛かりそうなドラマが動画配信サービスには溢れていますからね。

僕自身は映画の力を信じていますし、漫画に携わったことで映画というものを客観的に、より深く理解できたと思います。
メディアの違いで物語の見せ方が変わることが個人的にはとても興味深いですし、自分の本業である映画づくりにも今後活かしていきたいです。

『極道オールアップ!』は、現在モーニング・ツーで好評連載中、コミックス1巻はAmazonなどで好評発売中です。

『極道オールアップ!』(小泉徳宏+モノガタリラボ/大谷紀子/講談社)


元極道が映画現場のリアルに翻弄!?
キュンキュンするラブコメ映画を心から愛する元極道の奥園鯨。
たまたま映画ロケ現場でのトラブルに遭遇したのが運のツキ。
“壊す”ことばかりだった人生から、“作る”人生へと、まさかの方向大転換!?

『極道オールアップ!』は、現在モーニング・ツーで好評連載中、コミックス1巻はAmazon.co.jpはじめ各種書店・電子書店などで購入できます。

(c)小泉徳宏+モノガタリラボ、大谷紀子/講談社
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