NTT東日本は1月28日、東京・調布市のNTT中央研修センタにおいて招待制リアルイベント「NTT東日本グループ 地域ミライ共創フォーラム2026」を開催した。会場では「地域の未来を切り拓く ソーシャルイノベーション人材」をテーマに、地域課題の解決を牽引するリーダーの育成に関する事例や取り組みを紹介する特別展示が行われたほか、有識者による講演やパネルディスカッションも実施された。


スマートシティ化やドローンパイロット育成などの取り組みを紹介

NTT東日本グループは、これまで通信事業者として通信インフラや関連サービスを提供する一方で、サステナビリティや防災、Well-being、アグリ(農業などの一次産業)、スマートインフラなどのソーシャルイノベーション事業にも積極的に取り組んできた。そうした事業を推進していくには、ICT(情報通信技術)に加え事業を牽引する人材も重要になる。そこで同グループでは現在、さまざまな社会課題の解決の核となる次世代のリーダーの育成に取り組んでいる。

イベントの特別展示ブースでは、実際にリーダーとして地域課題の解決に挑戦しているNTT東日本グループ社員たちによるさまざまな事例の紹介が行われていた。

そのうち「スマートシティ長井2.0の実現に向けたデジタルツイン活用」では、山形県長井市の事例を紹介。同市は人口2.4万人という小規模な都市で、これまで地域資源を活用しながら地方行政に取り組んできた。2018年には急速に進む人口減少に対応するため、仮想空間と現実空間の融合によって経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会「Society 5.0」の実現を目指し、スマートシティ化の取り組みを開始。内閣府の「デジタル専門人材派遣制度」を活用してNTT東日本とタッグを組み、2021年より「スマートシティ長井実現事業」をスタートした。

その際、同市の「デジタル推進室」室長に着任したのがNTT東日本 営業戦略推進部の小倉圭氏だ。小倉氏によると「さまざまな分野でデジタル技術を活用しつつ、そこから出てきたアウトプットを横串で刺して、さらなる価値を見出すことを目指して取り組んでいる」とのこと。

その一例が、公共交通の最適化。路線バスの定期券の裏側にRFIDを貼り付けて乗降データや属性情報を収集し、市民の利用傾向を分析してダイヤ改正に反映したり、利用者数の少ないバス停を廃止・統合してコスト削減を図るなどしている。


また、有害鳥獣対策にモーションセンサーカメラなどのデジタル技術を活用したり、そのカメラやGPSなどから収集したデータから有害鳥獣出没場所や交通事故発生場所などを地図にプロットして子どもの生活圏におけるリスクを見える化するといった取り組みも行っているという。

2026年度からは、その事業を「スマートシティ長井2.0」としてアップデートし、新しい取り組みを始める考えとのこと。その柱となるのが「デジタルツイン」の活用だ。これは、ドローンの空撮画像をもとに長井市の高精細な3D都市モデル(デジタルツイン)を作成し、河川水位センサーなどから得た水位状況や氾濫状況などのデータを反映することで地域防災強靭化に役立てようという試み。会場ではそのデジタルツイン上で水害シミュレーションなどのデモンストレーションも行われた。

デジタルツインは防災だけでなく、さまざまな分野への応用が可能で、将来的には都市開発や有害鳥獣対策、除雪対策などとの連携にも取り組んでいく考えだという。

なお、NTT東日本ではドローンをデジタルツインに限らず、社内設備点検や有事の際の災害対応、社外ソリューションなどにも広く活用している。たとえば2025年12月に発生した最大震度6強の地震で青森県八戸市の通信鉄塔が損傷した際は、ドローンによる調査で迅速な状況把握が行われた。こうした案件ではドローンの操縦以外にも、映像や3Dモデル、クラウド、AIなどさまざまなDX技術が複合的に関わっており、そのDXスキルの醸成が不可欠。特別展示ブースのうち「ドローンパイロット育成×ICT活用を通じたDX人材の育成」では、そのドローンパイロット育成スキームやドローン×ICT活用の事例などが紹介された。

それによると、NTT東日本グループでは特定資格を取得し社外ソリューションの対応実績がある「応用パイロット」が100名、社内設備点検や災害対応などの業務を行う「実践パイロット」が150名、社内設備点検時の補助を行う「補助パイロット」が250名、合計500名のドローンパイロットが在籍。それらの人材は各種講習を通して育成を行っており、スキルを維持するため定期的にドローン競技会などの切磋琢磨の場を設けているという。


こうしたDX人材によって同グループにおけるドローンの活用領域は日々拡大しており、長井市のデジタルツイン作成以外にも、地域の絶景のPR動画制作、歴史的建造物や廃校になった校舎のデジタルアーカイブ化、構造物のヒビ・錆び検出や劣化予測AIなど、さまざまな分野で活躍しているとのことだ。
農業や水産業におけるユニークな取り組み

「陸上養殖で切り拓く未来の水産業」のブースでは、海洋資源の枯渇や気候変動、海水・淡水の汚染などによる漁獲量の減少を解決する取り組みとして、NTT東日本の越智鉄美氏による「完全閉鎖循環式陸上養殖」のプロジェクトが紹介されていた。

完全閉鎖循環式とは、飼育槽で使用した水を濾過・脱窒し、水温を調整したあと、再び飼育槽に戻して循環再利用するというもの。プロジェクトでは、同方式の採用のほか、各種IoTセンサーによる環境・飼育状況の可視化と制御、遠隔飼育指導、再生エネルギーなどを活用して陸上養殖を実施。結果、飼育が難しいベニザケの産業ベースでの養殖に世界で初めて成功した。

単に養殖を実現できただけでなく、天然環境では出荷サイズの1.3kgまで生育するのに3~4年間かかるところ、陸上養殖では18カ月まで短縮。希少な高級魚タマカイの場合は、さらに短い9カ月での養殖を実現した。

NTTアグリテクノロジーでは宮崎県都農町と連携・協力してタマカイの本格的な量産体制を構築し、昨年からふるさと納税返礼品として出荷を始めて好評を得ているとのこと。

「地域連携型産地形成~イチゴから拡がる地域の輪~」のブースでは、NTTアグリテクノロジーの中戸川将大氏による夏秋イチゴの産地形成とブランド化への取り組みが紹介されていた。一般にイチゴは冬から春にかけて収穫されるが、日本ではお菓子などの材料として1年を通してニーズがある。しかし夏から秋にかけては収穫が減るため、海外からの輸入に多くを頼っているのが現状。中戸川氏は従来冬にイチゴ栽培をしていた秋田県の企業と「もっと収益を上げる方法はないか」と議論を重ねるうち、夏秋イチゴの可能性にたどり着いたという。


幸い、秋田県の気候は夏秋イチゴの栽培に適しており、冬のイチゴ栽培に比べて温度管理のための費用も抑えられることが判明。さらに秋田県の夏は日中と夜とで寒暖差が大きく品質の面でも有利だった。そこで中戸川氏は秋田県に移住し、地元のイチゴ生産者や企業、自治体などと一丸になって新品種のイチゴの栽培に取り組んだそうだ。

現在、その夏秋イチゴは「秋田夏響(あきたなつひびき)」という名前でブランド化され、生の果実はもちろん、ラングドシャやバームクーヘン、ジャム、グミなどの加工品としても販売されている。中戸川氏によれば、今後も一層同ブランドの価値を高め、秋田県の新しい名産品を目指して取り組んでいきたいとのことだ。
NTT東日本が考えるソーシャルイノベーションとは

今回のイベントでは、NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員の澁谷直樹氏によるキーノートスピーチや有識者によるパネルディスカッションも行われた。

キーノートスピーチの壇上に立った澁谷氏は、現代社会が記録的な大災害や加速する人口減少と高齢化、AIによる急激な技術革新、社会の分断など、予測困難な時代に突入していることに言及。こうした時代を切り拓くためには「どのようなリーダーが必要になるのだろうかと考え、今年のテーマに『人』を選んだ」と語った。

続いて、「NTT東日本グループは、電話やインターネット、光ファイバーなどの通信基盤を提供してきたが、これらの通信だけでは解決できない社会課題がたくさん出てきている」と指摘し、そうした地域課題を解決するため「通信を提供する会社から一歩踏み出して、ソーシャルイノベーション・パートナーに向かって舵を切った」と同グループが目指す姿を説明した。

さらに「現在、NTT東日本グループはサステナビリティや防災、スマートインフラ、アグリ、Well-beingなど、社会を支えるさまざまな取り組みを行っているが、これからの時代を考えると次世代の人材を育てていかなければならないというニーズを感じている」とし、社会課題の解決の核となるリーダーの育成に真剣に取り組んでいると語った。

澁谷氏は、医療崩壊や自治体消滅といった地域課題解決には、「自ら疑問を持ち実行に移す力が重要になる」と指摘し、NTT東日本グループとして次世代リーダー育成のために提供できることとして、どこからでも最先端の知識を学べる通信環境の整備=「Knowledge(知識)」と、現場での実践=「Wisdom(智慧)」を挙げた。

同グループでは自ら地域に飛び込んで課題解決に取り組んでいる社員が増えてきているそうで、こうした人材を支えるため、この4年ほどの間に「地域循環型ミライ研究所」「防災研究所」「オープンイノベーションセンタ」といった専門組織、グループ会社の「NTT DXパートナー」などを次々に設立してきたという。


澁谷氏はこれらの専門組織やスペシャリストが「次世代リーダー育成のネットワークをさらに広げていくことを期待している」と語り、それが今回のイベントの目的でもあると説明。グループ内にとどまらず、教育機関などとも協力して人材の発掘と育成を行っていると話した。

その一例が、河合塾グループの中高一貫の私立学校「ドルトン東京学園」や米「ミネルバ大学」との連携だ。澁谷氏はこうしたパートナーとともに、探究学習を通して地域循環型社会を支える人材育成を目指していくと語った。

キーノートスピーチの後に行われたパネルディスカッションでは、澁谷氏のほか、ミネルバ大学学長のマイク・マギー氏やドルトン東京学園校長の安居長敏氏が登壇し、「ソーシャルイノベーション人材を育成していく学校教育」をテーマに意見の交換が行われた。

また、地域循環型ミライ研究所所長の猪狩典子氏、Slow Innovation株式会社 代表取締役の野村恭彦氏、NTT DXパートナー 代表取締役の長谷部豊氏によるディスカッションも行われ、「ソーシャルイノベーション人材を育成していく企業・地域」をテーマに「ソーシャルイノベーションとは何か」「それを起こしていく人材とはどんな人材なのか」などについて議論が交わされた。
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